海を見つめた日々

真夏に逆戻りした様な今日の天気

夏休みが間もなく終わる子供達は

宿題を忘れてプールに直行したのでは…


夏の終わりは何とも言えない感傷的な気持ちになる

私がサラリーマンをやってた頃

日頃のストレスを発散する為に

毎週末は海へ行って一日ボーッと過ごしていた

海岸に寝転がって溜まった鬱憤を開放するのだ

遠くを行く船や、空を自由に飛び交うかもめ

更には海岸沿いをひたすらジョギングする人たち

何も考えなくて良い

何も行動しなくて良い

ただ放電するのである


私の視界にいつも気になるオジサンが居た

彼は５０代後半くらいだろうか

メタボな身体をデッキチェアに横たえて

海を眺めながら缶ビールを開けていた

その表情はとても穏やかなものだった

傍らのラジオからＦＥＮが流れている

彼にとって最高の時間がそこにあるのだろう


あの頃の私は本当に疲弊していた

向いてない仕事に追われ

見も心もボロボロだった

日曜日が終わる頃はいつも胃が痛くなる

逃げ道のない迷路の中で

もがき苦しんでいるような毎日

こんな地獄がいつまで続くのだろう

満員電車で涼しい顔してマンガを読みふける他の会社員は

ストレスなどまるでなさそうだ

それに引き換えこの私は…


ある事情があってその会社を辞める事になった

最後は社長に言いたい事をたっぷり吐き出して

思い残す事もなく事務所を後にした

同僚や先輩は優しい言葉で送り出してくれたが

もう二度とあの辛い日々に戻らなくても良いのだと

私の表情はきっと晴れ晴れとしていただろう


海へ行くのをやめたのはそれからだった

あれからもう何年になるだろう

辛い仕事からは解放され自由になった

重いストレスからも逃れられた

なのにあの海辺の景色が恋しくなってしまうのである

夏の終わりの人がまばらな海辺

デッキに横たわるオジサンももう居ない


もう少し涼しくなったら

江ノ島行きのロマンスカーに揺られてみようかしら…