ベラルーシの部屋ブログ

東欧の国ベラルーシでボランティアを行っているチロ基金の活動や、現地からの情報を日本語で紹介しています

ベラルーシの児童雑誌「ストラナ・スカザク」にロシア語訳の新美南吉童話が掲載されました

2013-10-14 |   新美南吉
 以前からお知らせしていましたが、「ストラナ・スカザク」(日本語訳すると「お話の国」) という子ども向けの雑誌に新美南吉の「去年の木」ロシア語訳が掲載されました。
やっと載りました。しかし予定していた「ごんぎつね」は載っておらず、日本とはまるで関係ないヴィルヘルム・ハウフの「鼻の小人」が載っていました。表紙も「鼻の小人」の絵です。

 一応、この号に収録されているのは「鼻の小人」と「去年の木」です、と表紙に載っているのですが、「鼻の小人」はベラルーシ人はよく知っているので「あのドイツの話か。」とすぐ分かるのに対し、「去年の木」はまるで知られていないうえ、表紙には何の説明もないので、この雑誌の表紙を書店で見て「あ、日本の話が載っている。読んでみたいな。」とは誰も思わないでしょう。
 「鼻の小人」を読みたいな、と思ってこの雑誌を買った人が、たまたま新美南吉の話も目にしましたよ、ということになると思います。

 ちなみにこの雑誌は9000部発行で、ベラルーシだけではなく、ロシアでも購入・購読可能な雑誌なので、相当な数の子どもや保護者が「去年の木」を読むことになると思います。
 それはそれで本当にうれしいことです。私が知っている限りでは、これがベラルーシでもロシアでも新美南吉の童話が児童向け雑誌に載った最初ですから。

 しかし、一言ここに書きたいのですが、そもそも9月号に掲載される予定が10月号に延びて、その理由が編集長が言うには、イラストレーターが夏のバカンスに行っていたため、締め切りまでに挿絵が完成しなかった、ということでした。
 しかし、この10月号をよくよく眺めて感じたのですが、バカンスなどは関係なく、イラストレーターに力量がなく、「ごんぎつね」に出てくる日本の物(着物や家屋)の絵が描けず、イラストが一番描きやすい「去年の木」にしてしまった、という感じです。
 
 そして「ごんぎつね」の代わりにハウフの「鼻の小人」を無理やり詰め込んだような感じなのです。「鼻の小人」のページは字がかなり小さくて、とても子供向け雑誌とは思えないようなぎっしり詰めた誌面なのです。
(「去年の木」は1ページに詰め込んだけど、行間に余裕があってまだ読みやすいです。)

 それでどうして「鼻の小人」にしたのかというと、この話は10年前にロシアでアニメ映画化されているのですが、そのアニメに出てくるシーンを適当にネットで拾って、文章の間にはめ込んだ、というデザインなのです。
 つまり時代考証も面倒だし、よその国の文化・風習・風俗を知らないから描けないし、そのために勉強したり、資料を集めたり、日本人に質問するという努力は一切したくない、というのがこの雑誌で挿絵を担当しているイラストレーターなのです。
 こういうプロ意識ゼロのイラストレーターをイラストレーターと呼んではいけません。
 ただのネットからコピペしているだけの人です。
 おそらく「ごんぎつね」に使えそうなイラストをネット検索したけど、見つからないので、アニメの絵を(これもおそらくアニメスタジオ側には無断使用)はめ込むだけでできる「鼻の小人」にしましょうよ、それなら30分でできるし・・・という感じで作った、というのが私、ではなくうちの娘の予想です。

 翻訳者である私の娘の氏名は幸い掲載されていましたが、新美南吉が生誕100年を今年迎えたことなど詳しいことはまるで載っていませんでした。
(私は「それでも初めて南吉さんの作品が載ったんだし・・・。」と慰めたのですが、うちの子のほうがよっぽど怒っていました。)
 この「去年の木」についている挿絵の小鳥と桜の木もネットで素材を見つけて、適当に合成したようにしか見えず、とにかく手抜きなんですよね。
 こんなの10分で作れますよ。これのためだけに「バカンスを取ったから締め切りに間に合わなかっ。」というのは嘘でしょう。

 私の上司である図書館長曰く「いい仕事ができてない」でしたが、この雑誌そのものは日本円にすると50円もしないぐらいとても安い雑誌なので、子どもが気軽に買いやすい、親も買い与えやすいという長所はあるものの、実際は儲かっておらず、イラスト担当者も薄給で働かされている(なので、いい絵を描こうという努力もしない)のかなあ、とも思いました。

 ここに批判を並べ立てましたが、一方でこれが現実だとも感じています。
 つまり日本で新美南吉のことを国民的童話作家と思っているファンからすれば、このベラルーシの雑誌が「鼻の小人」を優先したのは屈辱的に感じますが、実際にはベラルーシでは新美南吉は全くの無名の外国人の作家で、アンデルセン童話賞をもらっているわけでもないし、「日本のナンキチ・ニイミはすごい作家ですよ。」といった評判すら聞いたことがないわけです。
 そんな現状なのでたったの1ページでもカラーの挿絵をつけて、掲載されただけでも、大切な一歩だと言えます。

 今回翻訳作業をして、40箇所近い出版社、マスコミ関係に掲載を打診しましたが、そのほとんどが返事すらくれませんでした。
(返事が来たと思ったら、すでにその出版社が倒産していたり、雑誌が廃刊になっています、というお知らせだった、というのが3件ありました。)
 このような中で、ベラルーシとロシアの二か国で読まれている子供向けの雑誌に新美南吉作品が掲載されたのは、ようやく一つの成果が現れた、と思っています。
 この雑誌は近日中に半田市にある新美南吉記念館に1部寄贈しますが、ベラルーシ国内の図書館にも寄贈する予定です。