オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

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【小ネタ】ピンボールのクレジットメーターに関する思いつき話

2019年07月21日 00時41分44秒 | ピンボール・メカ
フリッパー・ピンボールには、一定以上の得点を得たり、あるいはスペシャルやナンバーマッチなどのフィーチャーによってクレジットが増える「リプレイ」という褒賞ルールがあります。

しかし、結果によってクレジットが増えるゲームは、ギャンブルに転用される可能性もあります。日本では幸いこの辺についてはまったく無頓着で、日本に輸入されたフリッパー・ピンボール機のほぼすべてがリプレイが得られる仕様でした(例外の存在は否定しません)。しかし海外では、リプレイを禁じたり、甚だしくはピンボール機自体を違法とする国や地域、あるいは時代もありました。

ピンボールメーカーは、そのようにリプレイを規制する国や地域に対応するため、代わりの褒賞として、ゲームで遊べる球数が増加する「アド・ア・ボール(Add-A-Ball)」というフィーチャーを載せた別バージョンを、リプレイ仕様バージョンと並行して作りました。

「アド・ア・ボール」とは、概念としては「エキストラ・ボール」フィーチャーに似ますが、「アド・ア・ボール」は、1球のプレイで追加ボールを何度も獲得でき、そのたびにプレイ可能な残り球数を表示する「ボール・カウンター」に加算表示されるのに対し、「エキストラ・ボール」は、1球のプレイで得られるのは1回限りで、「ボール・カウンター」の表示は変わらず、現在プレイ中のボールがデッドとなったら、ボール・カウンターが減ることなく新たなボールがセットされる仕様である点が異なります。

1975年ころ、ワタシがダイエー碑文谷店の7F(関連記事:さよならダイエー碑文谷店)で好んで遊んでいた「LUCKY ACE (Williams, 1974)」という機種は、この「アド・ア・ボール」仕様であったように記憶しています。「EXTRA BALL」ランプが点灯したレーンをボールが通過すると、クレジットが増加する時と同じようなノッカー音がして、バックグラスの残球表示が増加しました。1ゲームは3ボールが標準でしたが、ワタシはボールカウンターを4(つまり、残り球数が4個)までは上げた覚えがあります。しかし、そのようなアド・ア・ボールルールの機械であるにもかかわらず、ダイエー碑文谷店の「LUCKY ACE」には高得点やスペシャルによるリプレイもありました。

今調べてみると、「LUCKY ACE」のフライヤーには、「リプレイ、アド・ア・ボール、ノベルティ・プレイ(褒賞がない、高得点を目指すのみのゲーム)」と謳って3通りのオペレートができることをアピールしています。ダイエー碑文谷店での稼働はどんな設定だったのか、謎です。

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思いがけず「アド・ア・ボール」の話が長引いてしまいましたが、今回の話の本題はここから始まります。

初めて「リプレイ」という概念を導入したフリッパー・ピンボールがなんという機種かはわかりませんが、少なくとも1956年に世に出たバーリー社の「ボールズ・ア・ポッピン(Balls-A-Poppin)」という機種以来、リプレイ仕様のフリッパー・ピンボールには、メーカーを問わず、小さな四角形のクレジットメーターの窓が付いていました。


一例として、「HOT TIP (Williams, 1977)」のバックグラスでのクレジットカウンター(赤矢印で示す窓)。

しかしGottliebは、1975年から、従来にないスタイルのクレジットメーターを採用するようになりました。ワタシもその年の夏、ダイエー碑文谷店のゲームコーナーで発見した「エル・ドラド(El Dorado)」に、今まで見たことのない形のクレジットメーターが付いていることに気づきました。


エル・ドラド(Gottlieb, 1975)の筐体と、バックグラスのクレジットメーターの部分。

一つのリールで用を足していた従来の方式に比べて、部品の数が増え構造も複雑になると思われるこの新方式にいったいどんなメリットがあるのだろうと、当時から疑問に思ったものでした。

同じような疑問を持った人はワタシ以外にもいたようで、数日前、Facebookのグループ「Em Pinball」に、このクレジットメーターの画像とともに、「誰か、エル・ドラドのクレジットメーターのコンセプトを知ってる人いる? なぜこんなに複雑? なぜ2個のパーツ?)」と尋ねる投稿がありました。


Facebookに投稿された質問とその画像。

この質問に対してはいくつかの回答がつき、「単に新しい事をしたかっただけじゃないの?」とか、「クレジットメーターをいじってフリーゲームを稼ぐ不正を防ぐためではないか?」などの推測がなされていました。

回答の中で最も面白かったのは、「コロンビアピクチャーズがGottliebを買収して子会社にしたので、コロンビアピクチャーズのロゴをモチーフとしたクレジットメーターを作ったのではないかと信じている」という推理でした。


当時のコロンビアピクチャーズのロゴが入ったGottliebのピンボール機2台。左が「Eye Of The Tiger (1978)」、右が「Hit The Deck (1978)」


当時のコロンビアピクチャーズのロゴ。

確かに、新式のクレジットメーターは、コロンビアピクチャーズのロゴを想起させるフォルムではあります。これが本当なら、ごく限られたコミュニティでちょっと自慢できるトリビアになると思ってGottliebの歴史を調べてみたのですが。

・1975年1月、Gottlieb、新方式のクレジットメーターを搭載したピンボール機「SUPER SOCCER」発売。
・1976年、Gottlieb、コロンビア・ピクチャーズに買収され、その子会社となる。
・1983年、コロンビア・ピクチャーズがコカ・コーラに買収される。Gottliebは社名を「Mylstar Elecrtonics」に変更した。
・1984年9月、いわゆる「アタリショック」で北米のゲーム市場が大ダメージを受け、コロンビア・ピクチャーズは9月の終わりにMylstarを閉鎖した。
・1984年10月、G. Pollockをリーダーとする投資家グループはMylstarのピンボール関連の資産を買い取り、社名を「Premier Technology」としてピンボールの生産を続けた。

つまるところ、コロンビア・ピクチャーズがGottliebを買収したのは、新方式のクレジットメーターが世に出てから1年以上も後の事で、そしてコロンビア・ピクチャーズに買収された年にはクレジットメーターを従来の形式(メカ構造まで旧式かどうかは不明)に戻していることから、コロンビア・ピクチャーズのロゴ説ははなはだ怪しいと言わざるを得ません。

最も信頼できそうな回答は、「出願された特許の書類を信じるなら、筐体の後ろ(バックグラス側)を持ち上げてドスンと落すと、クレジットメーターがショックで回ってタダでゲームができるようになるという不正が横行したので、これを防ぐために新たに設計されたものである」というものでした。他の回答にも不正に言及したものはありましたが、その手口は異なるので、惜しいけれども正確ではありませんでした。

それにしても、そんな不正をしたら大きな音がしてすぐにばれそうなものですが、そんなに頻繁にあったのでしょうか。ともかく、長年抱えていた謎がまた一つ解明しました。これで今夜は良く眠れることと思います。