雪の朝ぼくは突然歌いたくなった

2005年1月26日。雪の朝、突然歌いたくなった。「題詠マラソン」に参加。3月6日に完走。六十路の未知の旅が始まった…。

081023 日々歌ふ 詩:「途中下車」

2008-10-24 00:19:15 | 日々歌ふ

勤め帰りに
池袋で途中下車した。
目指すは
東武の<デパ地下>である。

しばらく前に改装されて
ずいぶん明るくきれいになった。
それでも
新しいうまそうなパン売り場も何も素通りして
いつものように奥の魚売り場に直行する。

仕事で忙しい家人から職場に
帰りに何か刺身を買ってきて欲しいという
メールが入ったのだ。

牛スジと大根の煮込みを用意してあるので
量はそうたくさん要らないけれど
という注文である。

今日はいいマグロが入ってるよ!
魚売り場に近づくと
威勢のいい店員の掛け声が聞えてくる。

いいねえ
この感じ。
つい足取りが速くなる。

どれどれ。
おお メバチマグロか。
なるほどいい色をしてるな。
ねっとりと脂も乗ってるし。

家人の顔が浮かぶ。
ぼくがめったにマグロを買って来ないと
ときどき文句を言う家人の顔だ。

それというのも
五月ごろから十月ごろにかけて
うっかりすると
ぼくがカツオばかりを買って帰るから。

ともかく
ぼくはカツオが好きなのだ。
初ガツオから戻りガツオまで
たぶん
毎日食べても飽きないだろう。

時間があれば
それこそ丸ごと一匹を出刃で捌いて
タタキを盛大につくりたい。

でも
たいていはサクで買う。
皮つきがあればタタキに
なければ普通の刺身に…
とも限らない。

皮なしでも
タタキ風にしたり
中華風にしたり
色々だ。

しばしば
茗荷に大葉
小ネギにカイワレなどを
千に微塵に切っては
ふんだんに散らす。

ニンニクをすりおろし
ポン酢に入れて
そのタレをかけ回す。

器も盛りつけも
大いに工夫する。
さもないと
家人の機嫌をそこねる。

じゃあ今日は
このメバチマグロにするか。
家人もよろこぶしね

一瞬ぐらつく。

待てよ。
マグロにするにしても
ともかくはひととおり見てから。
それからでも遅くはないだろう。

おおカツオだ。
さすが戻りガツオ
脂が乗ってる!
いいねえ。
おっ
皮つきもある!

だけど
カツオはこの前食べたばかりだ。
チラリチラリと
家人の顔が浮かぶ。
まずいよなあ
やっぱり。

うーんアジか。
サンマねえ。
おっサワラも。
めずらしい。
おおイナダも。
いいねえ!
天然だって。
イシガレイ
これも天然。
うまそう!

さて
どうするか。
行きつ戻りつ考える。
考える。

なんとかかんとか
やっとの思いで
候補を絞った。

マグロ
カツオ
イナダ
イシガレイ。

どれもこれも捨てがたい…。

マグロかカツオか…。
家人を取るかぼくを取るか…。
むずかしい。

天然のイナダとイシガレイ。
量もぴったりだし
やっぱりこれにしておくか。
しかたがない。

        *

アフリカの大地を思わせる
好みの大皿に
カイワレと大葉をたっぷり敷いて
ぼくが盛りつけた
赤身のイナダ
白身のイシガレイ。

その日のぼくたちの遅い晩餐は
かくして平和であった。

あと5か月。
定年になれば
もう途中下車はない。


コメント (10)
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