長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ミッドナイト・スペシャル』

2017-03-27 | 映画レビュー(み)

 何度でも呟いて、その感触を確かめたくなる魅惑的なタイトルだ。
次世代アメリカ監督の中でも最重要の1人、ジェフ・ニコルズ監督の新作『ミッドナイト・スペシャル』は闇夜に身を晒した時の、あの抗い難い夜気の悦びを彷彿とさせる。超能力を持った我が子を守り、旅を続ける父。彼らを追う謎の教団、アメリカ政府…と粗筋を書けば胸躍る冒険SFものに聞こえるが、ここには娯楽ジャンル映画の高揚感は皆無だ。少年の起こす奇跡を妄信する大人たちはどこか狂気的であり、ニコルズの確信に満ちた語り口はそもそもSFというジャンルを描くこと自体が狂気であるようすら思える。かねてより往年のニューシネマに近いルックを持ってきたニコルズ作品だが、本作では同じスピルバーグ映画でも『E.T』ではなく『未知との遭遇』の歪さに近い。

オープニングが素晴らしい。
とあるモーテルで男達が誘拐事件のTV速報を見ている。マイケル・シャノンにジョエル・エドガートン、ごつごつした顔の険しい表情。容疑者として映るのはシャノンだ。彼らは何丁もの銃で武装している。

「行くか」

奥からゴーグルをかけた少年を抱きかかえ、彼らはモーテルを後にする。
シャノンと少年の抱きしめ方を見れば、彼らが父子の情愛で結ばれている事は一目瞭然だ。
甘美な夜闇が車を包むと、まるでそれこそが世界の真実であるかのように音楽が高鳴り、タイトルが現れる。これまでのニコルズ作品を手掛けてきた撮影監督アダム・ストーンの夜間撮影が冴える。

少年は陽の光を浴びると身体が異常を示し、体力を奪われてしまう。彼らは少年の言う座標を目指して旅を続けるが、その道中も少年は成す術なく衰弱していく。
 マイケル・シャノンという符合がニコルズのデビュー作
『テイク・シェルター』を連想させる。世界の破滅が来ると信じたシャノンは災厄に備え、地下シェルター作りに憑りつかれていく。明らかに統合失調症の妄想に見えるのだが、ニコルズは心理スリラーに終わらせず、本当に世界の終わりを到来させる。それは不思議と荘厳な光景であり、僕たちは信念とは狂気をはらみ、狂気は美しさを内包する事を知るのである。

だが『ミッドナイト・スペシャル』は狂気的な信念の旅から、親子の物語へと変奏していく。
少年は自身の力で陽の光を克服し、両親の庇護下から巣立っていく。憑き物が取れたかのような清々しく、慈愛に満ちた父シャノンと母キルステン・ダンストの表情を見よ。これは子育てを終える親たちのイニシエーションの旅でもあるのだ。

ニコルズも人の親になったのか、子を送り出したのだろうか。
 作家としての成熟が伺える、ネクストステージの1本だ。

『ミッドナイト・スペシャル』16・米
監督 ジェフ・ニコルズ
出演 マイケル・シャノン、ジョエル・エドガートン、キルステン・ダンスト、アダム・ドライバー、サム・シェパード
 

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