長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『フリー・ガイ』

2021-08-24 | 映画レビュー(ふ)

 ライアン・レイノルズ扮する主人公ガイは銀行の窓口係。今日も一張羅(いや、正確に言うと何枚も持っているのだが全て同じ)の青シャツを着て出勤だ。警備員のバディとダベりながら、決めの営業文句は「今日も最高の1日を!」。そんな彼の務める銀行を強盗が襲撃し…いや、強盗は今日で4組目で、ホールドアップされるのは毎日の日課だ。え?

 『フリー・ガイ』は嬉しいことに1998年の傑作『トゥルーマン・ショー』を経由した2020年最新バージョンだ(レイノルズは明らかにジム・キャリーの演技を参考にしている)。なんとガイは『グランド・セフト・オート』風バイオレンスゲームのモブキャラクターだったのだ!真実に気付いた彼はやがて(ゲーム)世界の命運を揺るがす大事件に巻き込まれていく。これをシリアスに振り切ったのが『ウエストワールド』ならコメディに振り切ったのが本作であり、「運命は自分の手で切り拓く」「なりたい自分になれる」というポジティブなメッセージはモブキャラの人権問題にも発展。今日に限ってはAll Lives Matterでいいじゃないの。

 今やベッタベタなポップカルチャーネタはライアン・レイノルズのトレードマークだ。20世紀FOXがディズニーに買収されればそうかこんなギャグも出来るのかというネタから、もちろんスター・ウォーズ、そして"フライドチキンと言えばアルバカーキ”は笑い所だ。元ネタがZ指定ゲームなだけに銃も暴力も盛り沢山なのだが、それを巧みにソフティスケートしており、これはMCUと合流する『デッドプール』の予行練習も兼ねているのだろう。ショーン・レヴィ監督は『ストレンジャー・シングス』ダファー兄弟の後見人のようなプロデュース業以外に取り立てて語る所のないキャリアだったが、本作ではレイノルズのパーソナリティを活かしながら万人が楽しめるサマームービーに仕上げている。モブ目線のオープンワールドゲームあるあるな背景描写など、細かいところまで実に行き届いており、彼の最高傑作ではないだろうか。

 そして本作の立役者とも言えるのがヒロイン"モロトフガール”に扮したジョディ・カマーだ。TVシリーズ『キリング・イヴ』のサイコパス殺人鬼ヴィラネル役でブレイクした彼女がスーパーアクションヒロインにハマるのはもちろん、ゲームの世界を出ればオタクなゲームプログラマーという役にはかねてから見せていたコメディセンスがバッチリ決まった。モブキャラクターであるガイとキスした瞬間の得も言われぬ表情と言ったら!今年は『フリー・ガイ』でキュートな魅力を炸裂させ、10月にはリドリー・スコット監督の史劇『最後の決闘裁判』が待機。いよいよ映画におけるブレイク元年となった。注目!


『フリー・ガイ』21・米
監督 ショーン・レヴィ
出演 ライアン・レイノルズ、ジョディ・カマー、リル・レル・ハウリー、タイカ・ワイティティ、ウトカルシュ・アンブドウカル、ジョー・キーリー

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