長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ターナー、光に愛を求めて』

2018-04-04 | 映画レビュー(た)

市井の人々を独自の演出手法で描いてきたマイク・リー監督がロマン主義の画家ターナーの伝記映画を撮ったと聞いて驚いたが、当のターナーは庶民的な人であり、自作を全て国へ寄贈するという気取らない人柄であったという。そういう意味ではマイク・リーらしい題材であり、インスピレーションを求めて諸国を放浪し、風景画にこだわり続けた巨匠の作家性と人柄を紐解いている。

特異な人ではある。年老いた父と同居し、自分の妻子はとうに捨てて見向きもしない。息子のために顔料を溶く献身的な父に“パパ”と呼んでキスをするターナーのファザコンっぷりはどちらも凄いオッサンなだけにかなり珍妙な画だ。方やムラムラしてくるとおもむろに女中の胸を鷲掴みにする。この女中も猫背の相当みすぼらしいオバサンで、無造作に抱かれようとも拒否しない。これがかの巨匠の日常なのか。

ターナーに扮したティモシー・スポールは本作でカンヌ映画祭の男優賞を受賞した。光あふれる繊細な画風からは想像もつかない豪胆な筆致と、常に「うむぅ」と唸ってばかりの粗野な佇まい。偉人を自分に近付けた性格俳優ならではの演技アプローチはユニークだ。

果たしてターナーが風景に見出してきたものとは何だったのか?
 解体のために引き上げられたテメレール号にものどかな漁村にも彼は諸行無常と自然に対する畏敬の念を見出していた。晩年、あしげく田舎の漁村に通い、窓からの何という事はない風景を描き続けた彼は民宿を切り盛りする未亡人に心惹かれ、人生を共にする。日々、優しさを享受する心穏やかな日々。ターナーはイギリス庶民の精神性を風景画に込めていたのかもしれない。


『ターナー、光に愛を求めて』14・英、仏、独
監督 マイク・リー
出演 ティモシー・スポール、ドロシー・アトキンソン、マリオン・ベイリー
 

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