リッスン・トゥ・ハー

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トイレの神様を見た植村花菜

2010-11-08 | リッスン・トゥ・ハー
トイレの神様はいました。たしかにいました。あれはあたしがトイレの個室に入り、神の訪れを根気づよく待っていたときのことです。あたしは常時便秘気味で、根気づよく待たなければ神は訪れない。かなり長い時間が経過しました。水の流れる音が何度も何度も聞こえる。隣近所から聞こえてきました。あたしは若干焦っていました。このあと予定があったのです。大切な予定でした。事務所にて契約するとかしないとかそういうこれから一生を決めるかもしれない予定でした。あたしは次第に焦ってきて、ふんばりはじめました。そうしてはいけないことはわかっていました。そうすることで逆に出にくくなってしまうことも知っていました。しかしそうせざるをえなかったのです。時間がありませんでした。ひねりだして、すっきりしたかったのです。ありったけのちからをこめました。それでもなかなか訪れそうにありません。あたしはおじいさんを呼ぶことにしました。二人で力を合わせたらあるいは訪れてくれるかもしれない。おじいさんは家からやってきて、あたしの背中を引っぱりました。それでも神は抜けません。おじいさんはおばあさんを呼びました。人数をふやせばなんとかなるかもしれない。おばあさんはおじいさんの背中を引っぱりました。それでも神は抜けません。それなら、家畜どもを呼ぼうじゃないか、おばあさんはいいました。それで、家畜を呼びました。牛や馬や犬や猫や鼠はやってきてそれぞれ背中を持ちました。みんなで引っぱりました。うんとこどっこいしょ、うんとこどっこいしょ。すると、神が、すぽん、と抜けて出てきたのです。ああ、すっきり。


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