リッスン・トゥ・ハー

春子の日記はこちら

南緯18度45分、東経22度45分(365日空の旅)

2010-02-22 | 若者的字引
(ボツワナ オカヴァンゴ川の三角州で沼に浮かぶボート)

ボツワナの空を飛んでいる。1月3日。人が二人が乗っているちいさく細長い船、たくさんの藁を積み込み、後方の男が立ち上がり舵を漕ぐ。前方に座る女は進行方向を見て、小さな花を手に持つ。それを見て、ふっと息を吐く。流れていた花をすくいあげてくれた男の不器用な笑顔を思い出してみる。まんざらでもない気持ちになる。こんな気持ち、どれぐらいぶりだろうか久しく感じていない気がする。男と一緒になって、藁を刈り取り積み上げ、船で運ぶ毎日にあって、ときめきというものはまるで感じない。そもそも、親の決めた結婚であり、嫁ぐその日に初めて顔を見た男だった。ときめきなど最初からなかった。毎日が過ぎていくと自分が年を取らないような気になる。同じことの繰り返しで、発展がない。それを受け入れるしかないわけだからいろんなことを考える必要などない。無駄なことだ。でも。空は晴れ渡っている。太陽が強い。藁は黄金に輝いている。女はひとつうなづく。まっすぐ前方を見て、手を、その花を離してしまう。

お嫁さんは宇宙飛行士

2010-02-22 | リッスン・トゥ・ハー
「直子さんは小学校からの夢をまっすぐに追い、叶えたの。息子にしてみれば不平たらたらかもしれないけどね。それも認めなきゃだわ、今の時代、単身赴任だって山ほどあるんだから。あたしは応援するから。誰が反対したっていつだって応援してあげるのがあたしの役目だから。あたしもねえ、こんなこと言うつもりはなかったんだけど、あたしもねえ若い頃はバスガイドになりたかったんだから、でも両親の反対と、夫の反対、ご近所さんの反対もあり、あたしはバスガイドになれなかったんだから。悔しい思いしたんだから、直子さんにそんな思いしてほしくないじゃない。あたしと違って直子さんは自分てモンをしっかり持ってるから、たとえ誰もが反対したってきっと宇宙に行くんでしょうけど。それを思うとちょっとうらやましいわその性格が。息子もその間の飯はどうするんだよ、なんか言っちゃってね、馬鹿者、と罵ってやったわよ、自分で作りなさいと。まああたしも行ける時は言って作ってやりますけど。孫もいることですしね。とにかく直子さんには宇宙に行ってもらって、月の石をお土産にもってかえってもらうんです!月の石万博で見たかったのに見れなかったんだから、あたしは死ぬまでに絶対見たいの。え?月には行かない?そんなもんそのへんにうかんでるんでしょうに。宇宙なんだから、宇宙、舐めたらあかんで坊や。」

南緯39度25分、西経71度57分(365日空の旅)

2010-02-22 | 若者的字引
(チリ 雪に覆われたビヤリカ火山山頂)

チリの空を飛んでいる。1月2日。スキー客の姿が見える。とんだ命知らずである。しかしスキーコースとしては申し分ない。地球が完璧に用意してくれたパウダースノーの感触、エッジを効かせてターンする際の音すら可愛らしい。そのスキー場としての質の高さはわかるが、あくまでもビヤリカは火山である。今は静まっているとはいえ死んでいるわけではなく、過去にも何度か噴火し、死者を出しているし、近い将来において噴火する可能性は極めて高いとの報告もある。にもかかわらず、彼らはスキーをするためにやってくる。見上げた道楽根性ではないか。私は敬意すら感じる。おそらく恋人同士のスキー客であろう二人が、ゴーグルを外し、熱い口づけを交わしてる。この極寒の地で、風吹きすさぶ山頂で、さぞ燃え上がることであろう。心なしかふたりの足下、万年雪は溶け、黒い土、火山の肌、春の兆しが見える。