リッスン・トゥ・ハー

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みつばちはっちは飛ぶ、刺す、捕まる

2009-11-25 | リッスン・トゥ・ハー
殺人事件は意外な展開を見せて、警察ははっちを逮捕した。メルヘン界に走る衝撃。りんご10個分の衝撃。はっちは目が死んでおり、もはや母親を捜すどころではない。いつから、はっちがそうなったのはいつからだろうか。その理由、背景なんていうものは今は関係ない。事実としてはっちが殺人事件の容疑者として逮捕されたのだ。手錠をかけられて引かれるはっちの背中はちっぽけであった。あんなちっぽけな背中の主が、よく連続10人の命を奪ったものだと、半ばあきれ半ば感心して報道陣はシャッターを切る。質問を浴びせる。はっちさん、母親に会えたら今の心境をどう伝えますか。知るか、とはっちは吐き捨てる、その質問をした主をにらみ、にらまれた質問の主は動けなくなる。警察で取り調べが始まる。はっちは何もしゃべらない。どころか何も食べないし、反応も薄い。若い刑事が血気盛んに凄んでも、ベテラン刑事が情に訴えかけても、んああ、とあくびを殺して一点を見つめている。はっちは生きる気力が欠けていた。それもそのはずである。探し探していた母親が犠牲者の10人目だったのだから。

松方のまぐろ

2009-11-25 | リッスン・トゥ・ハー
まぐろは疲れていた。毎日毎日泳いでいなければ死んでしまうその特性に、自分を見れば二度見をする小さな魚たちに。まぐろは特大であった。重さ365キロ、成人男性の6人分である。その重みは水の中故、感じないものの、自分が動くことで生じる水の動きは周りに影響を与えた。小さな魚はその勢いに流されてしまった。そのせいで生き別れになった何組もの親子から恨みを買っていることも知っていた。ぼくは一生そういうことを気にして生きていかなければならないのか。まぐろは泳ぎながら、そのようなことを考えた。おかあさーん、という声が、その小さな小さな叫び声を聞いて、その声が体に突き刺ってきた。捌かれて、並べられ、ベルトコンベアーの上に乗せられて回転している気分であった。それならそれでなんと幸せなことだろう。たくさんの人々に少しずつ食べられて、だいたい1000人分ぐらいあるだろう、それぐらいは固いじゃないか。つうかオマエ、回転する寿司屋にこの俺様を出すなんざ、あわねえあわねえ。カウンターの寿司屋じゃい。そんで、小さな魚無勢がなんじゃい。勝手に流されんかい知るかいわしゃまぐろじゃい。まぐろは横柄であった。まぐろは二重人格であった。人格ではなく魚格というのかな、まあそういう気分のときに、餌が泳いでて、ええタイミングできよったわい、とかぶりつくと、松方の垂らした糸。