消えゆく「2階建て新幹線」その廃止の理由とは
2017年5月17日 16時0分
THE PAGE
上越新幹線で活躍するE4系車両 2020年度末までに廃車へ
JR東日本は、上越新幹線で活躍するE4系車両を2020年度末までに廃車すると発表した。E4系の引退で、新幹線からは2階建て車両が消えることになる。
初登場は国鉄末期の1985年にデビューした100系
新幹線に初めて登場した2階建て車両は、国鉄末期の1985年にデビューした100系である。東海道新幹線の2代目車両として開発され、「団子鼻」の0系とは対照的なすらっとしたシャープな先頭形状はたちまち子どもたちの人気者となった。
この100系の目玉が、編成の真ん中に連結された2両の2階建て車両だった。相次ぐ値上げなどで航空機へ乗客を奪われていた国鉄が、スピードとともに快適性をPRするために導入。1両はグリーン車で、2階部分は通常の開放式だが、1階にはこれまた新幹線初となる個室が設置されており、芸能人や政治家らが好んで利用していたようだ。
もう1両の2階建て車両は食堂車で、2階に客席、1階に厨房が置かれていた。エントランス部分に列車を描いたエッチングの飾りがあり、この中で食事がしてみたいとあこがれる人も多かったことだろう。途中の増備車からは食堂車でなくカフェテリアに変更されたため、食堂車が連結されていたのは全編成の4分の1ほどと少なかった。
ちなみに筆者も2階建て新幹線に乗ったことがある。初めて乗ったのは2000年3月のこと。この月に食堂車が営業を終了することになっており「最後に一度だけでも、新幹線の食堂車で食事をしてみたい」と、そのためだけに東京へ行った。東京駅で列車に乗り込むと、出発前に食堂車へと直行。だが同じことを考える鉄道ファンは多く、すでに満席だった。
ようやく席へと案内されたのは静岡駅の手前。メニューはハンバーグセットとカレーライスだけで(混雑が予想されるため、メニューが限定されていた記憶がある)、のんびり食事をする雰囲気ではなかったが、眺めの良い2階席での食事は忘れられない思い出となった。
スピードアップがしにくい
一方、この間にJR東日本は1994年にE1系、1997年にはE4系を相次いで導入。こちらは100系のようなサービス向上ではなく、輸送力の増強が目的だった。
100系とは違い、全車両を2階建て構造とすることで座席数を増やし、増加していた遠距離通勤客に対応。特にE4系は1編成の両数を10~12両から8両と短くする代わりに、2編成を併結した16両での運行を可能とし、朝ラッシュ時には絶大な威力を発揮した。
だがこれ以降、新幹線の2階建て車両が製造されることはなかった。理由はいくつかあるが、新幹線を通勤・通学に使う人々が減ってきたことや、車両が重くなるためスピードアップがしにくい、などが主なものである。E4系の車両重量は、モーターがついた車両では60トン以上にもなり、「はやぶさ」などで活躍するE5系(約45t)よりも大幅に重い。
最高速度もE5系の時速320キロに対し、E4系は時速240キロまでしか出せないため、特に速達列車が多い東北新幹線からは2012年に撤退。そして今回、上越新幹線からも姿を消すことになった。
バリアフリー化など難しく車内販売など大変
2階建て車両が消える理由のもうひとつが、サービス向上だ。その構造上、どうしても階段が必要な2階建て車両はバリアフリー化が難しく、また車内販売なども大変である。
また、自由席車両の2階席は定員確保のため、1列あたり3+3の6席となっていて、真ん中のひじ掛けも省略されるなど、“質より量”といった点があちこちに見られる。
JR東日本は、北陸新幹線で活躍するE7系を2018年度以降に上越新幹線へ投入し、E4系を置き換え。全席にコンセントを設置し、グランクラスもあるE7系で、さらなるサービス向上を目指すとしている。
2階建て車両が消えることで残念なのは、その眺めの良さが味わえなくなることだ。多くの区間で防音壁が続き、景色があまり見えない新幹線において、2階席から眺める車窓は貴重な楽しみだったという人も多いことだろう。
JR東日本では各路線に観光車両の導入を進めており、新幹線でも「とれいゆつばさ」や「現美新幹線」などが登場している。E4系も、その2階建て構造を活かして観光車両へとリニューアルしてもらいたいと願う。
2017年5月17日 16時0分
THE PAGE
上越新幹線で活躍するE4系車両 2020年度末までに廃車へ
JR東日本は、上越新幹線で活躍するE4系車両を2020年度末までに廃車すると発表した。E4系の引退で、新幹線からは2階建て車両が消えることになる。
初登場は国鉄末期の1985年にデビューした100系
新幹線に初めて登場した2階建て車両は、国鉄末期の1985年にデビューした100系である。東海道新幹線の2代目車両として開発され、「団子鼻」の0系とは対照的なすらっとしたシャープな先頭形状はたちまち子どもたちの人気者となった。
この100系の目玉が、編成の真ん中に連結された2両の2階建て車両だった。相次ぐ値上げなどで航空機へ乗客を奪われていた国鉄が、スピードとともに快適性をPRするために導入。1両はグリーン車で、2階部分は通常の開放式だが、1階にはこれまた新幹線初となる個室が設置されており、芸能人や政治家らが好んで利用していたようだ。
もう1両の2階建て車両は食堂車で、2階に客席、1階に厨房が置かれていた。エントランス部分に列車を描いたエッチングの飾りがあり、この中で食事がしてみたいとあこがれる人も多かったことだろう。途中の増備車からは食堂車でなくカフェテリアに変更されたため、食堂車が連結されていたのは全編成の4分の1ほどと少なかった。
ちなみに筆者も2階建て新幹線に乗ったことがある。初めて乗ったのは2000年3月のこと。この月に食堂車が営業を終了することになっており「最後に一度だけでも、新幹線の食堂車で食事をしてみたい」と、そのためだけに東京へ行った。東京駅で列車に乗り込むと、出発前に食堂車へと直行。だが同じことを考える鉄道ファンは多く、すでに満席だった。
ようやく席へと案内されたのは静岡駅の手前。メニューはハンバーグセットとカレーライスだけで(混雑が予想されるため、メニューが限定されていた記憶がある)、のんびり食事をする雰囲気ではなかったが、眺めの良い2階席での食事は忘れられない思い出となった。
スピードアップがしにくい
一方、この間にJR東日本は1994年にE1系、1997年にはE4系を相次いで導入。こちらは100系のようなサービス向上ではなく、輸送力の増強が目的だった。
100系とは違い、全車両を2階建て構造とすることで座席数を増やし、増加していた遠距離通勤客に対応。特にE4系は1編成の両数を10~12両から8両と短くする代わりに、2編成を併結した16両での運行を可能とし、朝ラッシュ時には絶大な威力を発揮した。
だがこれ以降、新幹線の2階建て車両が製造されることはなかった。理由はいくつかあるが、新幹線を通勤・通学に使う人々が減ってきたことや、車両が重くなるためスピードアップがしにくい、などが主なものである。E4系の車両重量は、モーターがついた車両では60トン以上にもなり、「はやぶさ」などで活躍するE5系(約45t)よりも大幅に重い。
最高速度もE5系の時速320キロに対し、E4系は時速240キロまでしか出せないため、特に速達列車が多い東北新幹線からは2012年に撤退。そして今回、上越新幹線からも姿を消すことになった。
バリアフリー化など難しく車内販売など大変
2階建て車両が消える理由のもうひとつが、サービス向上だ。その構造上、どうしても階段が必要な2階建て車両はバリアフリー化が難しく、また車内販売なども大変である。
また、自由席車両の2階席は定員確保のため、1列あたり3+3の6席となっていて、真ん中のひじ掛けも省略されるなど、“質より量”といった点があちこちに見られる。
JR東日本は、北陸新幹線で活躍するE7系を2018年度以降に上越新幹線へ投入し、E4系を置き換え。全席にコンセントを設置し、グランクラスもあるE7系で、さらなるサービス向上を目指すとしている。
2階建て車両が消えることで残念なのは、その眺めの良さが味わえなくなることだ。多くの区間で防音壁が続き、景色があまり見えない新幹線において、2階席から眺める車窓は貴重な楽しみだったという人も多いことだろう。
JR東日本では各路線に観光車両の導入を進めており、新幹線でも「とれいゆつばさ」や「現美新幹線」などが登場している。E4系も、その2階建て構造を活かして観光車両へとリニューアルしてもらいたいと願う。