自然日誌 たかつき

自然についての問わず語りです。

クマの出没2

2020年10月21日 | 動物 animals
クマの出没はある程度自然科学のベースで対策が考えられるが、それだけでは不十分だと書いた。それは日本の農山村の農業社会の崩壊を抜きに考えられないということだ。同じ地形があり、同じ林があったのに、今のようなクマの出没はなかったのはなぜか。それは農山村に人がいて、健全な農林業が営まれていたからである。今、日本の農業人口は5%を下回った。過疎化という言葉では足りなくて、限界集落と言われている。要するに農山村から人がいなくなってしまった。そうなると草刈りされたり、柴刈りされていた農地や雑木林が藪状態になる。そして農地に人がいない。そうなれば当然野生動物が入りこむ。その前線がどんどん広がったのがこの30年ほどである。

 私はヤマケイ新書に「シカ問題を考える」という本を書いたが、その時、シカが増えた時期と様々な要因(例えば植生の変化、ハンター数など)を並べてみたが、どれ一つとして一致しなかった。ただ一つ一致したのが、農業人口の減少であり、一つの現象ではなく「過疎化」という言葉に包まれる様々な事象のシンドロームと理解するしかないということを書いた。これは生物学者の扱える範囲の現象ではないと書いたのである。農学や都市学を学んだとは言えない私の手に余るので、自分としては、問題がそれほど大きいのだと書いたつもりだが、それでは無責任だというコメントをいただいた。それは正しい。正しいが、私の手に余ることも確かだ。
 最近、「けものが街にやってくる」というピッタリの書名の本が出た。著者の羽澄さんは彼が大学院生の頃から交流があるが、自分で会社を作り、野生動物管理の現場で大学とも行政とも共同作業を進めてきた人だ。本書の中には私が書けなかった内容が体験を踏まえて描かれている。特に重要なのは、野生動物の市街地進出を、ゾーニングという考え方を取り込んで、これまでの行政の枠組みを取り払い、地域単位で問題を解決することを提案している点だと思う。そして都市と奥山の間にある森林を適切に管理することで野生動物の市街地進出を防ぐことを提案している。この辺りは私は具体的にどういう森林を作るのかがわかりにくいと感じた。そうではあるが、野生動物と都市の問題を大きな視点で捉えるという、大切なのに正面から取り上げられることのなかった取り組みがなされた意味は大きいと思う。
 小泉環境大臣は今回の死亡事故などを踏まえて新たな取り組みをすると意思表明をしたようだが、クマ出没の問題を俯瞰的に捉え、都市学、農業、林業、動物生態学などに深い理解を示せる人材によって中長期的視点から問題解決をしてほしいと思う。

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