自然日誌 たかつき

自然についての問わず語りです。

茶碗、箸、防潮堤

2012年03月18日 | 自然 nature
 子供の頃、松江という町に2年ほど暮らしたことがある。小学3年生から5年生までだった。落ち着いた西日本の城下町でとても好きだった。今でも帰省すると足を伸ばして城山を歩いたりすると、当時の匂いのような、味のようなものがよみがえる。松江はよくお茶を呑むところだ。もちろん薄茶である。お客さんがあればもちろんだが、農作業の合間にもお茶を入れる。甘い茶受けがおいしい。お茶を呑む大人を見ながら、なんであんなでこぼこでゆがんだような茶碗で飲むのだろうと思った。それに比べて紅茶茶碗はすっきりとした形で同じ企画でできている。それに取っ手があるから熱くても手にもてるが、茶碗では手のひらで持つしかない。日本は技術のある国なのになんで茶碗は洗練されないのか不思議だった。
 町田の図師小野路にある里山を維持しておられる田極さんが、研究者が集まったときにはなしをしてくださった。ものをよく知らない人に田圃の作り方をしているが、丘の斜面に道を付け方を教えたそうだ。その場所は地形の関係で木の杭を使うのがよいのでそれを教えたら、やたらに杭を打った階段をつけてしまったそうだ。伝統的にはそうはしないのだそうだ。道をつけるところは地形的にほぼ決まっており、できるだけ杭は打たない。そういう階段式の道は思い荷物を運ぶときには歩きにくいし、雨が降ると水が土砂を流すのでよくないのだそうだ。そして昔の人は鍬をもって歩きながら最低限の掘りをつけて滑らないようにするだけにしておいたという。そうすると秋までに雨が降って堀ったところがわからなくなってしまうのだそうだ。
 雨にしても風にしても、さらには地震、豪雪と、ほんとうに日本は災害列島だと思う。とてもとても人があらがえるような相手ではない。人などとるに足らない存在であり、天は恐るべきものである。流れる水はとどめるのではなく、流す。我々の先祖は、人が自然を変えるのではなく、自然に合わせて人のほうが変わらなければ、必ずひずみが生じることを、体で感じてきたのだと思う。しばらく穏やかな年が続けば、その頃に農業を始めた若者は「たいしたことはない、わざわざあんな回り道をしなくても、近道をつければいい」と「工夫」をして、新しい道をつけるようなこともあり、強行をして、その後に大雨が降って道が崩れて田圃が埋まり「それみたことか」と経験者が尊敬されるというようなことがくり返されたに違いない。
 持つのに熱ければ取っ手をつける。道が滑れば階段にする。わかりやすく合理的だ。これが脆弱な自然のなかで発達したヨーロッパ的な合理主義であろう。しかし圧倒的な破壊力をもつアジアの自然に対して、その合理主義は合理的ではない。堤防をつければ決壊したとき、おそるべき被害が出る。それよりは川は流れるままにするほうが安全であり、川を変えるより、人が動くというのが日本の伝統的な「治水」であった。地震国では高い石積みの家は危険であり、家ごと揺れる木の柱の構造のほうが安全であり、恒久的な建物よりも、しばらくしたら建て替えるほうが合理的である。
 にもかかわらず、そうした農民の自然感は「古くさい」として顧みられることはなく、重機を使って山を削り、掘りを作り、高いビルを建て、陸橋を作り、道路をめぐらせた。自然は管理できると考え、自然のすることはこのくらいだと浅知恵で「想定」し、その結果、高さ10メートルの防潮堤は20メートルの津波を防ぐことはできなかった。そして、その極みは原発事故であろう。自然を甘く見た日本人は、美しい福島の地を汚してしまった。
 熱いお茶は茶碗のふちのほうをもてばよい。ゆっくりと手のひらにのせ、ざらついた土の感触を楽しみ、少し冷めるまでゆっくりと会話をしていただけばよい。フランス料理を食べれば、肉はフォークで差して、ナイフで切り、スプーンに持ち替えてと忙しく、マナーもうるさい。私たちは箸の二本があるだけだ。それで魚の骨もはずせば、豆もつまむ。箸で汁は呑めないから、お椀を持ち上げる。道具を発達させようと思えばできるのに、簡単な道具のまま自分のの技量のほうを磨く。こうしたことは災害大国の環境に生きて来た我々の祖先の自然感と通底しているように思われる。
 少年時代の茶碗の不思議が融けたような気がした。
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シロフクロウ 2

2012年03月18日 | 動物 animals
白い体もそうですが、私がシロフクロウに感じる魅力は脚です。もこもこっと太く、アイスホッケーのキーパーみたいな感じです。その蹴爪のするどいこと。日本のフクロウと比べてみましたが、遥かにがっちりし、カーブも深いです。


もこもこの脚


シロフクロウ(左)と日本のフクロウ(右)
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