うさぎを二羽飼っている。
今日、その内の一羽が死んだ。
名前は、ひな。
私が昔ろくでもない人間と同棲している時、
ペットショップにいた子の中から二羽選んで
飼い始めた。
同棲を解消後、うさぎを引き取り、
実家で共に暮らしていた。
まめに遊んでいた訳ではない。
たまに居間の中に囲いを作ってその中で放したり、
たまに庭で遊ばせたりぐらいなもので、
普段はケージの外から眺めたり少し撫でたり
その程度しか可愛がれなかった。
ここ半年ほどは、兄嫁が動物アレルギーを発症した為
今まで居間に置いていたケージを二階へ移動した事から
より触れ合いが減っていた。
居間で遊ばせなくなった。
毛が飛び散らないように、抱っこもあまりしなくなった。
その事が気になっていた。
ずっと遊ばせていなくて可哀想な事をしている、
という自覚があった。
そう思うだけだった。
餌やトイレ掃除は母がやっていた。
飼い始めたのは私なのに。
気まぐれに遊ぶ時はやっぱりうさぎは可愛いと思い、
でも世話をしない自分にどこか罪悪感を抱きつつ
多分、目を背けてきた気がする。
何だかんだで母が世話をしてくれる。
甘えていたと思う。
今日、部屋の外から、母がひなを何度も呼ぶ声がして
目が覚めた。
餌をあげる時に語りかけるような呼び方じゃない。
ついにその日が来たか、と思った。
昔から、ひなはお腹の弱い子だった。
最近も下痢する事が多かったし、
この間は気がついた時には大量の便がお尻にこびりつき
歩きにくい状態になっていたので
お尻をお湯につけて少しずつ綺麗にした事もあった。
体重も昔より軽くなっている事も気になっていた。
覚悟を決めて、部屋から出る。
ひなちゃん、ひなちゃん、と呼ぶ母の声。
母が私に気付き、
ひなちゃんの様子がおかしいの、と言う。
ひなを見ると、ケージの中で横たわっていた。
時折、足が痙攣するかのように少し動く。
名前を呼ぶと、立ち上るような動作をする。
でも、もう立ち上がれないみたいだった。
最初に気づいたのは妹だったらしい。
妹が出がけに異変に気づき、溜め息をつきながら
母へ異変を伝えて、出掛けていったとの事だった。
そして母が呼び掛けている声で私が起きた。
このままではいけない気がした。
タオルにひなを乗せ、軽くくるみ抱っこする。
軽い。こんなにも。
抱いたまま、居間のソファに座る。
時折、ひなが足を弱々しく動かす。
おでこを撫でる。
ひなはおでこを撫でられる事が何よりも好きだった。
母が、少し水を口にたらしてあげている。
好きだったクッキーも細かくして少し口元へ。
おでこを撫で続ける。
足がうごかなくなってきた。
一声鳴いた。
口を大きく開けてモガモガしている。
そして閉じた。
動かなくなった。
腕の中。
およそ9年、生きていてくれた、ひな。
異変に気付いてから、たった一時間の出来事だった。
身体が硬直していく。
耳や鼻や口から血の気が引いていった。
ひな…ずっと寂しかったよね?
毎日頭撫でられたかったよね?
もっと遊びたかったよね?
ごめんなさい。
せめて最後は腕の中で一緒にいれて良かった。
ひな、ありがとう。
虹の橋のたもとに、もしいてくれるなら
いつか私と共に虹の橋を渡ってくれたら嬉しい。
でも私がこんな事言う資格はない。
どうか安らかに。
優しい風が吹く草原で、思うままに駈けて
美味しい草を食べ、温かい日差しの中ゴロンして
幸せに過ごしてほしい。
何にも制限される事なく、楽しく暮らしてほしい。
寂しさとは無縁の優しい天国で。
ひなが危ない、と連絡していたら兄が来た。
間に合わなかったが、ひなはまだほんのり温かかった。
兄は兄のせいだと言う。
兄嫁のアレルギーでケージを二階に移動させたのは俺だ、と。
居間にケージを置いていた時よりも、
二階に移せば明らかに触れ合わなくなる事は分かっていたのに、
そうさせたのは俺だ、と。
寂しい思いをさせてごめん、ひな、と兄は泣いた。
母と兄と私で庭の花壇に穴を掘る。
穴の中の干し草のベッドにひなを寝かせた。
さよなら。
一緒にいてくれて、ありがとう。
ひな。
土を被せる。
石をのせる。
(ひならしい置物をまた買って乗せ替えよう)
ひな。
あの柔らかい毛並みは、もう土の中にいる。
その隣は、昔亡くなったベリといううさぎが眠っている。
寂しくないように。
ひな、ベリと仲良くね。
ベリ、ひなをよろしくね。
空になってしまったケージを庭に出す。
ひなが9年住んでいたケージ。
ばらして、全て洗う。
もう、ひなはいない。
母が妹にメールで連絡した。
ひなが腕の中で息を引き取った、と。
妹はこう返してきた。
「世話しきれないなら動物を飼うなよ」
母はそのメールにショックを受けて落ち込んでしまった。
私は妹しね、と心から思った。
それを言うなら、母にではなく私に言えよ。
私が事の発端だ。
あと、世話が出来てなかったから、
ひなに異変が訪れた訳ではない。
9年という年齢を考えても、
老衰という可能性が一番高い。
よって、その発言はおかしいと思う。
あと、今すでに飼っている状態なのに、
世話出来ないなら動物を飼うな、と言われても
すでに手遅れであって、今更言うことではないと思う。
妹、ごめん、お前、もう無理だわ。
勝手に生きてくれ。
ひな。
おでこを撫でると目を細めてウットリしていた、ひな。
抱っこが嫌いで腕の中で暴れる、ひな。
クッキーが好きだった、ひな。
顔立ちに品があって、遠慮がちで健気な、ひな。
少女らしかった、ひな。
ひな、自分にできることをしてこなかった罪悪感で
謝罪の気持ちばかり出てきてしまう。
ああすれば良かった、こうすれば良かった、なんて
今更手遅れなのに。
ひな、大好きだったよ。
出会ってくれて、ありがとう。
いつか、虹の橋のふもとで…。
今日、その内の一羽が死んだ。
名前は、ひな。
私が昔ろくでもない人間と同棲している時、
ペットショップにいた子の中から二羽選んで
飼い始めた。
同棲を解消後、うさぎを引き取り、
実家で共に暮らしていた。
まめに遊んでいた訳ではない。
たまに居間の中に囲いを作ってその中で放したり、
たまに庭で遊ばせたりぐらいなもので、
普段はケージの外から眺めたり少し撫でたり
その程度しか可愛がれなかった。
ここ半年ほどは、兄嫁が動物アレルギーを発症した為
今まで居間に置いていたケージを二階へ移動した事から
より触れ合いが減っていた。
居間で遊ばせなくなった。
毛が飛び散らないように、抱っこもあまりしなくなった。
その事が気になっていた。
ずっと遊ばせていなくて可哀想な事をしている、
という自覚があった。
そう思うだけだった。
餌やトイレ掃除は母がやっていた。
飼い始めたのは私なのに。
気まぐれに遊ぶ時はやっぱりうさぎは可愛いと思い、
でも世話をしない自分にどこか罪悪感を抱きつつ
多分、目を背けてきた気がする。
何だかんだで母が世話をしてくれる。
甘えていたと思う。
今日、部屋の外から、母がひなを何度も呼ぶ声がして
目が覚めた。
餌をあげる時に語りかけるような呼び方じゃない。
ついにその日が来たか、と思った。
昔から、ひなはお腹の弱い子だった。
最近も下痢する事が多かったし、
この間は気がついた時には大量の便がお尻にこびりつき
歩きにくい状態になっていたので
お尻をお湯につけて少しずつ綺麗にした事もあった。
体重も昔より軽くなっている事も気になっていた。
覚悟を決めて、部屋から出る。
ひなちゃん、ひなちゃん、と呼ぶ母の声。
母が私に気付き、
ひなちゃんの様子がおかしいの、と言う。
ひなを見ると、ケージの中で横たわっていた。
時折、足が痙攣するかのように少し動く。
名前を呼ぶと、立ち上るような動作をする。
でも、もう立ち上がれないみたいだった。
最初に気づいたのは妹だったらしい。
妹が出がけに異変に気づき、溜め息をつきながら
母へ異変を伝えて、出掛けていったとの事だった。
そして母が呼び掛けている声で私が起きた。
このままではいけない気がした。
タオルにひなを乗せ、軽くくるみ抱っこする。
軽い。こんなにも。
抱いたまま、居間のソファに座る。
時折、ひなが足を弱々しく動かす。
おでこを撫でる。
ひなはおでこを撫でられる事が何よりも好きだった。
母が、少し水を口にたらしてあげている。
好きだったクッキーも細かくして少し口元へ。
おでこを撫で続ける。
足がうごかなくなってきた。
一声鳴いた。
口を大きく開けてモガモガしている。
そして閉じた。
動かなくなった。
腕の中。
およそ9年、生きていてくれた、ひな。
異変に気付いてから、たった一時間の出来事だった。
身体が硬直していく。
耳や鼻や口から血の気が引いていった。
ひな…ずっと寂しかったよね?
毎日頭撫でられたかったよね?
もっと遊びたかったよね?
ごめんなさい。
せめて最後は腕の中で一緒にいれて良かった。
ひな、ありがとう。
虹の橋のたもとに、もしいてくれるなら
いつか私と共に虹の橋を渡ってくれたら嬉しい。
でも私がこんな事言う資格はない。
どうか安らかに。
優しい風が吹く草原で、思うままに駈けて
美味しい草を食べ、温かい日差しの中ゴロンして
幸せに過ごしてほしい。
何にも制限される事なく、楽しく暮らしてほしい。
寂しさとは無縁の優しい天国で。
ひなが危ない、と連絡していたら兄が来た。
間に合わなかったが、ひなはまだほんのり温かかった。
兄は兄のせいだと言う。
兄嫁のアレルギーでケージを二階に移動させたのは俺だ、と。
居間にケージを置いていた時よりも、
二階に移せば明らかに触れ合わなくなる事は分かっていたのに、
そうさせたのは俺だ、と。
寂しい思いをさせてごめん、ひな、と兄は泣いた。
母と兄と私で庭の花壇に穴を掘る。
穴の中の干し草のベッドにひなを寝かせた。
さよなら。
一緒にいてくれて、ありがとう。
ひな。
土を被せる。
石をのせる。
(ひならしい置物をまた買って乗せ替えよう)
ひな。
あの柔らかい毛並みは、もう土の中にいる。
その隣は、昔亡くなったベリといううさぎが眠っている。
寂しくないように。
ひな、ベリと仲良くね。
ベリ、ひなをよろしくね。
空になってしまったケージを庭に出す。
ひなが9年住んでいたケージ。
ばらして、全て洗う。
もう、ひなはいない。
母が妹にメールで連絡した。
ひなが腕の中で息を引き取った、と。
妹はこう返してきた。
「世話しきれないなら動物を飼うなよ」
母はそのメールにショックを受けて落ち込んでしまった。
私は妹しね、と心から思った。
それを言うなら、母にではなく私に言えよ。
私が事の発端だ。
あと、世話が出来てなかったから、
ひなに異変が訪れた訳ではない。
9年という年齢を考えても、
老衰という可能性が一番高い。
よって、その発言はおかしいと思う。
あと、今すでに飼っている状態なのに、
世話出来ないなら動物を飼うな、と言われても
すでに手遅れであって、今更言うことではないと思う。
妹、ごめん、お前、もう無理だわ。
勝手に生きてくれ。
ひな。
おでこを撫でると目を細めてウットリしていた、ひな。
抱っこが嫌いで腕の中で暴れる、ひな。
クッキーが好きだった、ひな。
顔立ちに品があって、遠慮がちで健気な、ひな。
少女らしかった、ひな。
ひな、自分にできることをしてこなかった罪悪感で
謝罪の気持ちばかり出てきてしまう。
ああすれば良かった、こうすれば良かった、なんて
今更手遅れなのに。
ひな、大好きだったよ。
出会ってくれて、ありがとう。
いつか、虹の橋のふもとで…。