≪神と悪魔(女)の闘い!≫
始めて見た舞踊歌劇である。舞踊歌劇はもう劇団『乙姫』そしてそれを引き継いだ『うない』の十八番芸である。それに今回うない地謡のメンバーが聞かせた。うないに「うないの地謡」が、聞かせてくれた。歌にのせて踊る場面が必ず挿入されるが、独特な形式である。
船越義彰さんの「針突(ハジチ)伝説」はまた独特である。幻想的な舞踊歌劇になっていた。ハジチが魔から身をまもる伝承が生かされている。そして神々の世界が生きている。若い恋愛ドラマである。綾羽の棚原由里子さんは愛らしく、悪魔風根の平良芽美さんは鋭利な美を見せる。青年金真弓の花岡尚l子はその容姿の美と歌で魅了した。風根の演技に迫力がありました。平良さんは適役でした。
兼城道子作「忍び御門」(時代人情歌劇)もベテランの歌で聞かせた。乙姫時代からの作品は、温かさが底に流れていると感じさせる。幻想性は美の追求であり、ある面、理想的な人間の心を描きたい思いが悪と善の闘いで勧善懲悪的だが、「忍び御門」などは規範の中の情の悲劇でもある。階級制が貫かれている社会の壁の前で情理が崩れる。親子の情愛は信じられる世界。命を大切にしてきた島ちゃびの島の人間の最低限の思いかもしれない。非情さ≪過酷さ≫が埋め込まれてきた琉球の歴史、その中で懸命に生きてきた人々の生存そのものの闘いや歓びがある。舞台に花を夢を希望を美を求めてきた女性劇団の歴史があり、乙姫の精神がうないにバトンタッチされている。
女性だけの劇団の男役に注目がいく。律子団長の役柄は愛に破れた男のストイックな愛の生き方でもある。規範を超えられない城の主になった姫と臣下の男性との愛の物語は格と形の権威を生きざるを得なかった、つまり形(法・社会規範)を逃げられない、逸脱できない親子物語かもしれない。理性・規範が情理・真実・愛に優る物語で見せる。人はもはや本能から疎外された社会性をいきざるをえないので、時代劇でも現代に通じる。