小指ほどの鉛筆

日記が主になってきた小説ブログサイト。ケロロ二次創作が多数あります。今は創作とars寄り。

最も残酷なのは運命だと、彼は言った。1 (カゲ→ジラ)

2008年11月16日 23時59分37秒 | ☆小説倉庫(↓達)
―月―

夜空に浮かんだ真っ赤な月を眺め、彼を思い出す。

残酷で、非情で、悲しい彼の事を。


僕は彼方を忘れません。


恨みもせず、憎みもせず・・・

それでも


彼方を忘れることはないだろうと思うのです。


___________

冷気が頬をかすめ、冬が近づいているのだという事を感じさせた。
暗闇に浮かぶ大きな赤い月は、もぅあの日のように不吉な予感を感じさせることは無い。
それでもドロロは走った。
その月を何所よりも近く、大きく見ることの出来る場所へ。
―早く。このタワーの一番上まで。
地面を蹴って、鉄の柱を駆け上がる。
西澤タワーへはよく来ている。
ここから見る町の様子はとても綺麗なのだ。
けれども今回は町を見下ろすことは無く、ただ、ひたすら上を向いてタワーの天辺へと上った。
一瞬視界が開け、そしてすぐに真っ赤な月に目の前を覆われる。
辿り着いたこの町で一番高い場所からでも、月に触れることは出来ない。
それでもドロロは満足だった。
この大きな月を目の前にして、なんの不満も浮かびはしない。
「ジララ大尉・・・」
彼が自分を頼りにしてきたのも、こんな赤い月を見た日の後だった。
忌々しい記憶でしかないはずなのに、どうしてこうも悲しくなるのだろうか。
あの日、彼も運命に縛られたアサシンの一人だったという事に、とてつもない安心感と共通意識を持った。
そして自分は確かに彼を殺した。
『アサシンである彼の死』それはつまり、彼の自由を意味した。
強いものは、自分より強いものを育成して自由を得る。
それはアサシンの定め。
昔からずっとそうしてきたのだと、
そうせざるを得なかったのだと、誰かに聞いた。
彼も誰かを解放したのだろうか。
その強さによって、誰かの運命を代わりに背負ったのだろうか。
彼の心が知りたい。
彼の行方を知りたい。
アサシンの運命を知りたい。
自分はこれからどうすればいいのか
強さとは何なのか
誰かの強さを持ってしなければ、自分は自由になれないのだろうか?
それでは最後のアサシンは、最強になった身体でどんな最後を望めばいい?
自分は誰にそれを望めばいい?
それは幸せに繋がらない。
どこかで断ち切らなくてはいけない。
それが自分であるためには、どうすればいい?
アサシンとして、最後まで生きればいい?

―ジララ大尉・・・

―彼方は、いつからこんな疑問を抱いていたのですか?

届かないと知りながら、ドロロは両手を月へと伸ばした。
出来ることならこの月を抱き締めてあげたい。
けれどもそんなことは出来ないから。
せめて出来るだけ近くに寄ってあげよう。
身を乗り出せば、身体は重力に従い、下へ落ちていこうとする。
こんな月とのお別れもいいかもしれないなと、ドロロは空気に身をゆだねようとした。
「ゼ、ロロ・・・?」
しかし、過去の自分の名を呼ぶ存在に思いとどまることになった。
両手を下ろして、そっと下を見やる。
先ほどまではなかった影が、タワーの明かりによって作られていた。
「ゾルル!?何でココに・・・」
「ガルル、も・・・いる。」
「どうして!?」
また何か問題があったのだろうか。
あまりにも驚いたドロロは、タワーの先端から足を滑らせた。
「ぁ。」
「!?」
間抜けな声を出してしまったドロロは、落ちながらも尚、月を見上げていた。
―さよなら。また明日。
別れの言葉を忘れはしない。
また明日。
―また明日、ここに来ます。
虚像の彼方に会いに、またここを訪れるでしょう。
思ったよりも高いタワーの先端は、どんどん小さくなっていく。
こんなさよならの仕方も、良いものだ。
なかなか素敵じゃないか。
ゾルルのいた場所も通り抜け、落ちるスピードは更に加速していった。
途中ゾルルの驚いた顔を見たのだが、そんなことはどうでも良かった。
―どうして止まろうとしないんだろう。
考えて、考えて・・・
あぁ、と思った。
―死にたい、のかな。
アサシンとして死ねない自分は、そのままでの意味を持つ死を望んだのかもしれない。
ただ、そんなのはごめんだ。
自分はまだ死ぬなんて決めていない。
勝手に落ちていかれてたまるものか。
―勝手だなぁ、もぅ。
自分に対して笑い、ドロロは体勢を立て直した。
タワーの側面を蹴りながら、少しずつスピードを落としていく。
そしてそれを何度か繰り返した後、上へとのぼり直すことにした。
先ほどよりも少し低い位置でゾルルを見つけて立ち止まる。
「貴様・・・馬鹿、か・・・!!」
胸ぐらを掴み掛かられて、ゾルルが心配していたのだと悟った。
これくらいでなんとかなるようなアサシンではない。
しかも自分は、あのジララ大尉にも鍛えられているのだから。
そう分かっていながらも、やはり少しはヒヤッとするものだ。
「ごめんごめん。だって、ゾルルがいてびっくりしたから・・・」
「気配、で、気づけ・・・!」
「だって気配消してたじゃない!!」
「・・・」
黙ったゾルルに、ドロロは溜息をつく。
そして、もう一度月を見上げた。
ずっとずっと遠くなってしまった月は、もうすぐ黄色になってしまうだろう。
―さよなら。
もう一度、心の中で唱えた。
「ガルル、が・・・」
「え?何?」
ゾルルはドロロに背を向けて、タワーの端に歩み寄った。
「ガルルが・・・聞きたい事・・・が、あるそう、だ。」
「それで僕を呼びに来たの?」
こくりと頷くと、ゾルルは一度だけ振り向いた。
「日向家に、来い・・・」
そして、タワーからゆっくりと落ちていった。
「ちょっと!ゾルル!!」
自分だってドキッとする降り方をするじゃないか、と、ドロロは頬を膨らませた。


「お邪魔するでござる。」
「あ!ドロロいらっしゃーい。」
ご丁寧に玄関から日向家へおじゃましたドロロは、冬樹に迎えられてリビングへと向かった。
聞こえてくる声はガルル中尉のものに間違いなかった。
「こんばんわ~・・・」
「ドロロ!やっと来たのね!」
夏美はほっとしたように肩を下げ、ソファーから立ち上がった。
そしてドロロの耳元に口を近づけ、そっと呟く。
「ギロロのお兄さん、凄い威圧感ね。」
ソファーに座っているガルルは、確かにどこか近寄りがたい雰囲気をかもしだしていた。
ドロロはその言葉にクスクスと笑い、そして夏美の代わりにソファーへ腰掛けた。
ガルルの斜め後ろにはゾルルが立っていて、ジッとこちらを見ている。
むしろこっちの方が威圧感が凄い。
借金取りにでもなればいいんじゃないのか?などと思ってから、自分で自分を粛正した。
「何の御用ですか?ガルル中尉。」
にっこりと笑ってドロロが問うと、ガルルは長く息を吐いた。
「あぁ、やはり君のほうが落ち着くな。女性と向かい合って座るのは少し心臓に悪い。」
「アハハ、お互い様ですよ。きっと。」
恐らく向かい合った女性の方が、彼よりよほど緊張していることだろう。
色々な意味で。
「今回君に聞きたいのは、脱走兵との接触についてなのだが・・・」
ドキッとした。
「ジララ大尉のこと、ですか?」
「そうだ。」
ジララの名前を聞いたとき、ガルルの表情が歪んだ気がした。
「・・・なんでしょう。」
「あぁ、接触したときの様子を聞きたい。何か特別なことがなかったか、などな。」
地球人とも接触している時点で、既に大問題だ。
そして軍の人間を抹消しようとしたことも。
けれどもそれも全て・・・自由への第一歩だったのだ。
「それなら、我輩が話すでありまーす!!奴は手ごわかったであります・・・赤い光が伸びてきて、そして我輩と冬樹殿を飲み込んで・・・」
「馬鹿か貴様は!!俺達は囚われていただろう!!しかもお前は戦ってすらいないではないか!!」
何所から出てきたのか、ケロロが名乗り出る。
そしてそれがあたかも自分の武勇伝か何かのように話し始めたため、ギロロが押さえ込み、落ち着かせた。
「すまんなドロロ。話を続けてくれ。」
「ハハ、ありがとう。ギロロ君。」
口を押さえられてモゴモゴしているケロロに苦笑して、ドロロは口を開いた。
何を話すべきか・・・
全てを話すべきか・・・
「彼は・・・ジララ大尉は、アサシンとして生きていくのが辛かったんです。」
いきなりの告白に、ガルルもゾルルも目を丸くする。
「何・・・?」
ガルルが、今度は見て分かるほどに表情を歪ませた。
嫌悪感から来る表情だという事は分かったのだが、それがいったい何に対する嫌悪感なのかまでは分からなかった。
「見た目がアレでも、彼も歳ですからね。」
笑ってから、ドロロは俯く。
ゾルルも少しだけ顎を引いた。
「もぅ、疲れていたんです。最初から、僕に倒されることを望んでいた。」
「まさか。」
ガルルが意外そうに眉をひそめる。
「そうじゃなかったら、ケロロ君もギロロ君も、地球人の冬樹殿なんてとっくに息の根を止められてます。」
そんなスマートでない仕事を、彼は好まない。
人質にする必要も無い人を、彼は生かしてはおかない。
それは自分自身が学んだことでもあるから、断言できる。
いや、もぅ何もかもに疲れていたのかもしれないが。
「確かにそうだな・・・そうか・・・彼が・・・」
どこか思うところがあるようで、ガルルは小さく唸った。
ドロロは首をかしげる。
「いや、なんでもない。それで、彼は今何所に?」
「・・・わかりません。」
誰も彼を知らないところで、静かに過ごしているのだろう。
軍はそんな無害な彼のことも探し出そうとするのだろうか。
探し出して、どうするのだろうか。
「そうか。」
溜息をついて、ガルルは腕を組んだ。
「それは、言いたくないという事ではなく、知らないということでいいんだな?」
「えぇ。」
「分かった。協力に感謝する。」
どこか腑に落ちない様子ではあったが、ガルルは質問をそこで終了させた。
むしろ最初から、さして興味も無いようだった。
それはガルルとしてはとても珍しいことで、ドロロは更に角度をつけて首をかしげる。
そしてゾルルを見たが、ゾルルもまた頭をひねっていた。
「さて、今日はここに泊めていただけると嬉しいのだが。ケロロ軍曹。」
「むご?んぐぐご・・・っぱー!!ちょっと!ギロロ!!いつまで人の口抑えてるんでありますか!!」
「あ?あぁ、すまん。」
慌てて手を引っ込めたギロロは、立ち上がる。
「俺はもぅ寝ることにしよう。じゃあな。」
「全く~・・・ぁ、ガルル中尉にゾルル兵長、基地の部屋が空いてるでありますから、そこで。」
「助かる。」
微笑んだガルルは既に素に戻っていて、先ほどまでの威圧感も感じられない。
その様子に場の空気も和み、夏美も笑顔を見せた。
「じゃあ、寝る前にハーブティーでも淹れましょうか?」
「お!飲む飲む~~であります!」

『ちょっと待て』

「!!」
「!?」
聞きなれない声に、ゾルルは刀を取り出してガルルの前に飛び出した。
ドロロは刀は取り出したものの、動こうとはしない。
それは一度聞いた声だったからであり、彼の戦い方も知っているからこそのことだった。
「何者、だ・・・!」
そう問うゾルルにハッとした夏美や冬樹が、台所へと隠れた。
『我が名はカゲゲ。光あるところに生まれる者・・・』
声の主は、天井からゾルルの前へと降り立った。
スッと立ち上がり光らせた目には、殺気は感じられない。
そのことにまずはホッとする。
「カ、カゲゲ!?シュララ軍団のカゲゲでありますか!!」
「貴様、今更何をしにきた!!」
ケロロはギロロの後ろに隠れ、ガタガタと震えている。
そしてゾルルは、後ろのガルルに危害が加えられないようにと警戒心を緩めようとはしない。
そんなゾルルを見て、カゲゲは少し興味を持ったようだった。
アサシンとして、普通はしないこと。
任されてもいないのに、自分の隊長を守るなんてこと、アサシンはしない。
あくまでも自分が前に出るようなことは避けなければいけないのだ。
―面白い。
「安心しろ。ガルル小隊のゾルルよ。お前にも、その後ろの奴にも用は無い。」
その言葉に、ゾルルは視線を鋭くしつつも刀を下ろした。
一方、カゲゲはドロロへと向かい直す。
「今の話、聞かせてもらった。・・・ゼロロよ。貴様の話に嘘は無いか。」
ゆっくりとした、重みのある声だった。
「・・・えぇ。」
「!!では、ジララがもはやアサシンでないというのも本当だというのか!!」
凄みを増した声色に、誰もが息を呑んだ。
ただドロロとゾルルだけが、寂しげな表情を浮かべていた。
自分の上司が、もはや仲間ではないこと
残酷さを増したこのアサシンから、先に逃げ出してしまったこと
それが間違ったことだとは思わない。
それでも、どこかやりきれない思いが残っているのは確かだった。
「本当です。」
「!!」
その表情は絶望感に満ちており、まるで親友が死んだ知らせを受けたかのような顔だった。
しかしその顔はだんだんと、憎しみの表情へと変わっていく。
「何故だ!何故・・・」
それは、かつてのゾルルがゼロロに対して向けた感情と似て・・・
渇望する狂気に冒された心の叫びに聞こえた。
「・・・」
だからゾルルには分かるのだろう。
彼の気持ちが。
事実、アサシンであるジララは死んだ。
カゲゲの求める存在がアサシンの彼であるならば、もぅ彼の存在は消えたも同然。
そんな相手にどんな言葉をかけていいだろうか。
俯いたドロロとゾルルの後ろで、ガルルは一人頭を上げていた。
けれどもその不自然さに気づくには、少しばかり遅かったのだ。
「良かったじゃないか。」
ガルルの口から放たれたその言葉は、彼に対して向けるには冷たすぎるものだった。
「ガルル・・・?」
ゾルルはゆっくりと振り向く。
おかしな程に、あまりにも声の温度が冷たかった。
「アサシンである彼は死んだ。それがなんだというんだ。」
彼の目は冷淡で、どこか嫌悪感すらも含まれていて、ゾルルが見てきたどんな表情よりもいい加減で・・・
あんまりだ、と思った。
「ガルル、何を言って、いる・・・」
そんなことを言わないでほしい。
もしもあの頃の自分がお前にそんな態度をとられたら・・・

きっと、俺は狂ってしまっていた。



最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
文字数の限界が・・・orz (naru)
2008-11-16 23:59:27
文字数の限界で書きたいことが全く書けなかったとです・・・
と、いうことで・・・ココが後書き。

だめだ。後で書き直したい・・・
文字数全く考えてなかった!!
一番文字数が半端なくなる場所をカットしたりしました。
そしてアンダーバーっていうの?それも切ってみました。
なんとか収まった・・・;
もしかしたら書き直して2編構成にするかもです。
返信する
分解しました! (naru)
2008-11-17 21:25:54
この小説、微妙に入りきらなかったので分割しました。
パート2に繋がります。
慌ただしくてすみません;
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。