小指ほどの鉛筆

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最も残酷なのは運命だと、彼は言った。2 (カゲ→ジラ)

2008年11月17日 21時03分25秒 | ☆小説倉庫(↓達)
悪いのは彼じゃない

辛いかったのは自分だけじゃない

だからどうぞ

そんな風に彼を責めないで。

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「ふざけるな!!」

その声が誰のものかなんて、分かりきっている。

「カゲゲ殿・・・」
両手は拳を握り、今にも掴みかかりそうなほどの勢いで、カゲゲは叫んだ。
ドロロとゾルルは顔を見合わせる。
「貴様は何もわかっていない・・・!!」
顔を横に振り、感情をめいいっぱい表現するカゲゲは、必死だった。
自分の気持ちを証明するためにも・・・
何が分かる。
貴様にジララの何が分かるというのだ。
何も分かるまい。
むしろ、自分以外には誰も、彼のことを分かる人物などいらない!!
「アイツはアサシンだからこそ耀けたのだ!!」
殺して、血に濡れて、それで初めて、自分の役目を果たせたのだ。
平凡に生きる彼なんて・・・
「X1を作る前、我々は影の技を競いあう親友だった・・・どちらかが死ぬまで、ずっとそうだと思っていた・・・!!」
「甘いな。」
冷ややかに、ガルルは呟く。
「そうだ!!甘かった!!アイツはアサシンの中で更に部隊を作り、そこでの任務に全力を注いだのだ!!」
自分を置いて、彼は遠くへ行ってしまった。
だんだんと変わっていってしまった。
「それからというもの、ジララの口に上る名前は『ゼロロ』『ゾルル』そればかりだった!!」
もぅこれ以上遠くへなんて行かせるものか。
そう思っていたのに、こんなにもあっさり・・・しかも頼ったのは、あの『ゼロロ』だった。
絶望した。
苦しくて、どうしようもない心の葛藤に押しつぶされそうになって・・・
自分がシュララ軍団に居る間にも、彼の心は移り変わりつつあったのだ。
気づくことが出来るはずが無い。
自分はそこにいることができなかったのだから。
「貴様に分かるものか!!ジララのことも、何もかも・・・!!」
「あぁ、分からないな。」
ガルルはキッパリと言い切った。
ゾルルは口をぱっくりと開けてしまっている。
ガルルがあまりにも酷いものだから、もぅ何も抗議などはできそうにはなかった。
その隣で、ドロロは何かを思い出そうとしていた。
なんだったか・・・
以前に、ガルル中尉をアサシンの訓練中に見たような気がするのだ。
普通はアサシンの訓練中に一般兵が入り込むことはない。
だが、あの時は・・・
「彼のことなど、知りたくも無い。」
「!!それは我がジララの友だと知っていての発言か!!!」
「あぁ、その通りだ。貴方達が戦友だったことは知っている。」
「そうだ・・・そういえば、いたな・・・お前は確かに、アサシンの訓練所に居た!!」
カゲゲはガルルへの憎しみをいっそう募らせ、唇を噛んだ。
ドロロは思い出す。
彼がいた風景を・・・ゾルルがまだ、自分を慕っていた頃を・・・


その日、アサシンの訓練施設では異例の出来事が起こった。
アサシン兵と一般兵が口論をしているというのだ。
しかもそれは・・・
「ジララ大尉!!彼方のやり方は理解しかねる!!」
「俺は、誰かに理解してもらいたいわけではない。」
「それでは認められないではないか!!」
「誰かに認められたいワケでもない。もちろん、お前にもだ。ガルル中尉。」
「ふざけるな!!」
ガルルはジララへと詰め寄る。
ガルルの逆鱗に触れたのは、ゾルルの精神崩壊が原因だった。
全てはアサシンの訓練が原因で、しかも指導者はとんでもない残虐者だったのだから、当然のこと。
「この訓練は何だ!!仲間同士で殺しあう?辛い拷問に耐える?彼らは彼方の玩具じゃないんだぞ!!」
同時に、軍の兵器でもない。
「当たり前だ。何を言っている。」
「なら、今すぐ彼を医療班へ引き渡せ!!」
ガルルの視線の先には、ゼロロによって・・・愛する人によって傷つけられたゾルルの姿があった。
気迫のこもったガルルの視線を軽く退けるように、ジララは微笑む。
「これも『訓練』のうちだ。お前に指図される筋合いはない。」
「貴様・・・!!」
「俺を殺したいか?その銃で撃つつもりか?」
ガルルは歯を食いしばっていた。
撃ってはいけない。
こんなことをしている暇があったら、向こうで殺されかけているゾルルを助けに走りたい。
「お前の腕は良く知っている。素晴らしいものだな。だが、それでも俺を殺すことは出来ないだろう。」
褒められたのか、冷やかされたのか。
どちらにせよ、ガルルにとっては不名誉なことこの上なかった。
ジララに限ったことではない。
恐らくガルルは、ここにいる誰にも勝つことは出来ない。
そう、誰しもが確信することが出来た。
ここはアサシンの訓練所なのだから。
「止めるが得策ぞ。」
背後から聞こえてきた声に、ガルルは振り向く。
そこには、不敵な笑みを浮かべた男が立っていた。
「貴様に勝機はない。早々に立ち去れ。」
ガルルはもう一度ジララを見やる。
彼は腕を組み、金属の指をカシャカシャと動かしていた。
「それよりジララ。また勝負でもしないか?」
先ほどより明るい声で、背後の彼は言った。
しかし、ジララは興味が無いようだった。
相変わらず指を動かし、カシャカシャとだけ音を発する。
「こんな男を相手しているより、ずっと面白いだろう?」
「・・・俺は忙しい。」
そう言うと、ジララは二人に背を向けた。
男はそれでも引こうとはしない。
「新しい技を造ったんだ!!」
「ゼロロの相手をする。」
それは、男に対して一番強い否定の言葉だった。
男は悔しそうに俯く。
ガルルはそれにハッとして、ジララの背を追った。
「待て!話は終わっていない!!」
「・・・ゼロロ。」
ジララは、ガルルへは返答しなかった。
「そこまでだ。あえてゾルルを殺さないとは、あまりアサシンとしては感心しないな。」
「すみません。」
倒れたゾルルから視線を上げたゼロロの目は、ガルルの知っている彼のものでは無かった。
けれども、ゼロロはガルルを見て一瞬ひるんだようだった。
それは昔の自分をしっている人間だったからか、それとも目の前で倒れている愛しい人を愛した人だったからか・・・
「次は俺が相手をする。あまり手ごたえが無いようだったら、問答無用で切り捨てるぞ。」
「はい。」
ゼロロはもぅ、ゾルルを見なかった。
しっかりとジララへついていき、それきり、周りも何もかもがいつもどおりへと戻っていった。
それが恐ろしいほどに残酷な日常で、やりきれない思いを抱える。
そして、呼吸を荒くしたゾルルへと駆け寄ったガルルは言うのだ。

「俺のところへ来ないか?」

と。


「あの後、ジララは貴様をべた褒めしていた!!」
カゲゲは全てを聞いていた。
「そうだ、貴様は居たな・・・あの場所に・・・」
呟くカゲゲに、ガルルは溜息をついた。
「あの時、か・・・」
ゾルルは頭を抱えると、隣のドロロを見た。
ドロロも冷や汗を流してゾルルを見る。
随分と嫉妬深い人だ。
そう思いながら、もぅ一つ新たな面を見たことについて驚く。
ガルルがココまで冷たい表情をすることは珍しいのだ。
よほどのことがないと。
その理由が今、分かった。
ジララがゾルルを死んでも良いかのように扱ったからだ。
そして幼い頃からの顔なじみを、兵器に育て上げたからだ。
「我はジララを尊敬している。あれほどに尊大なアサシンは未だかつていない!」
ゾルルはそっとドロロを見る。
最も麗しく気高いアサシンは、彼のように思えた。
もっともそれは、自分だけの個人的意見でしかないのだが。
「私は彼が嫌いだがな。」
またしてもキッパリと言い切ったガルルに、カゲゲはもぅ冷静さを保っていられないようだった。
「暗殺超魔術・・・!!」
ゾルルとドロロはハッとする。
―危険だ。
そう、すぐに分かった。
黒く濃い影が、ガルルの喉元に向かって伸びる。
「ガルル!!」
ギロロが叫ぶのと、ゾルルが影を切り落としたのとは同時だった。
影は切れてから、すぐに再生した。
そして今度はゾルルを襲う。
ケロロが慌てて電気を消そうとするが、その動きすらをもカゲゲは封じ込める。
そして、一つの影がゾルルの頬をかすめた。
「っ・・・」
白い肌を、赤い血が伝う。
そしてその瞬間、ガルルの中で何かが切れたようだった。
カゲゲはゾルルの頬を傷つけたことで、満足そうな微笑を浮かべていた。
愛するものの愛する特質が失われる悲しみを、わからせてやりたいと。
ずっとそう思っていたのだ。
しかしそれは裏目に出た。
「ガルル・・・!?」
ゾルルが声を発したのも気にせず、ガルルはカゲゲへと歩みより・・・
そして、カゲゲが驚いている間に・・・

彼の頬を思い切り殴った。

「!!?」
それはあまりにも人間的過ぎる原始的攻撃方法で・・・
その場に居た誰もが思った。
―彼はゾルルを本当に愛しているのだ、と。
ガルルはゾルルが傷ついて帰ってくるところなんて何度も見ているし、その身体が半分になった事件だって知っている。
痛みくらい、分かるのだ。
このくらいの傷、どうって事ないのだ。
ただ許せないのは、過去のことによってゾルルが傷つけられた。
自分を守ろうとした愛するものが傷つけられた。
その事実なのだ。
「っ~~!!!貴様あぁぁ!!!」
吹き飛ばされたカゲゲは、新たに体勢を立て直そうと立ち上がる。
彼だって必死だ。
ジララを尊敬していた。
いや、もぅ隠すこともあるまい。
―彼を愛していた。
その相手を面と向かって嫌いだなどといわれて、怒らないはずが無い。
正当なこの怒りをぶつける義務がある。
そしてカゲゲが本気でガルルの息の根を止めに掛かったその瞬間・・・

「いい加減にしてください。」

誰よりも落ち着いた、凛とした声が響いた。
ゾルルはぴたりと静止し、ガルルは視線を柔らげ、カゲゲでさえもその動きを止めた。
今まで一切の手出しもしなかった『真の最強』であるアサシンが、3人の動きを止めたのだ。
「ガルル中尉、あまり日向家の皆さんに迷惑をかけないようにしてください。」
「・・・」
「ゾルル、事を大きくしないように注意して行動するようにね。」
「・・・あぁ・・・」
「カゲゲ殿。」
カゲゲの目を真っ直ぐに見据えたドロロは、少しの間をおいて口を開いた。
その言葉は戒めるものでも、蔑むものでもなく・・・

「僕も、ジララ大尉を尊敬しています。」

素直な、その言葉だった。

驚いているカゲゲに、ドロロは明るい笑みを向けた。
「愛の表現は人それぞれです。その人の魅力も、好きになった人それぞれで違います。」
諭すように、ドロロはゆっくりと喋った。
「ゾルルも僕も、確かに酷い日々を過ごした。でも、もぅそれも過去のこと。ガルル中尉、そうですよね?」
「あぁ・・・」
「だから、もぅいいじゃないですか。」
にっこりと笑って、ドロロは言った。
「ジララ大尉は、もぅアサシンじゃないんです。カゲゲ殿、それもまた、彼の人生。誰も何も言う権利なんて無いはずです。違いますか?」
「貴様に何が分かる!!」
荒々しい口調ではあったが、それでもカゲゲは、ドロロへは強い言葉を放てないようだった。
ドロロは首を振る。
「分かりません。でも、仕方ないじゃないですか。」
仕方ないのだ。
いくらアサシンだって、人の歩む道まで見定めることは出来ないのだから。
悲しき運命を背負った自分達が・・・ゾルルや自分が笑うことが出来るなんて、誰が想像しただろう。
そして彼が笑って過ごすことを咎める理由が、どこにあるというのだろう。
「・・・」
カゲゲはがっくりと膝をついた。
もぅ何も、残ってはいないようだった。
涙をこらえる姿は、歳の差なんて感じさせないほどに素直で、純粋で・・・
それ故に、どこか痛々しかった。
強さに憧れ、心惹かれたアサシンの絶望感は、時代交換によって生じる。
誰しもが、いつかは衰えるのだ。
それは仕方の無いこと。
けれどもその定めに逆らい、彼は最後まで強さを示し続けた。
それでいいじゃないか。
他に何を、彼に望むというのだろう。
他に何を代償にすれば、彼の自由が認められるというのだろう。
「ジララ大尉は、自分でこの道を選んだんです。僕に倒されることによって、それを選んだんです。過去を悔やんで、疲れ果てて、倒れる前に僕のところに来たんです。」
自分で運命を捻じ曲げた彼を、自分は尊敬している。
そしてドロロは、ガルルに向き合った。
「ガルル中尉。僕等はとっくに彼を許している。そしてアサシンである限り、いつかは僕等が恨まれる日が来る。だから、もぅ許してあげてください。」

彼が平安な日々を送ることを、許してあげてほしい・・・

彼を愛する人が居ることを、許してあげてほしい・・・

確かに僕等は傷ついた。
愛する人は傷つけられた。
そして僕等は兵器と化した。

それでも、心までは失わなかった。

全てを奪い取られたわけではなかった。

そして彼も、それを望んでいる。
心を取り戻すことが出来るようにと、そう願っている。

もし、
もしも彼が生きているうちに、再び心を宿すことがあるならば・・・

そのときは、真っ先に自分に会いに来ることだろう。
そしてその後、ゾルルのところに来て、ガルルに許しを請うて・・・

最後に、旧友と微笑み合うのだ。

こんな自分でもいいだろうかと、問うのだ。

「ガルル中尉。」
「・・・分かっている。」
ガルルはドロロの懇願に溜息をついて、頷いた。
「私だって、彼のことをよく知っているわけではない。だから・・・」
この怒りは理不尽なものだ。
そう知っている。
けれども、感情が抑えられなかったのだ。
「2人とも、好きなんですよね。」
「・・・あぁ。」
カゲゲはジララが大好きで、ガルルはゾルルが大切すぎて・・・
それえ、周りが見えなかったのだ。
恋は盲目とも言うだろう。
だから、これも仕方の無いことなのだ。

「僕はジララ大尉も、ゾルルも好きでしたよ。」

それは嘘じゃない。

ドロロのその言葉に、ガルルとカゲゲはうっすらと、微笑を浮かべた。
そしてゾルルは、夜の暗闇に浮かぶ金色の月を見つめていた。
―赤い、月
ドロロが見ていた、大きくて真っ赤な月は・・・
彼を思い起こさせる。
あの月を見て、ドロロはジララの何を考えていたのだろうか。
それをゾルルは、まだ知らない。
「少しくらいのことは、多めに見てあげてもいいんじゃないですか?」
ドロロはカゲゲとガルルにそう言って、そして付け加えた。

「皆、同じですよ。」

恋をしている人間が考えていることなんて、皆似たようなものではないか。
そのことについていちいち喧嘩などしていられるか。
どうせ自分達は同じような運命をたどるのだから、相手のことを責めるなら、まずは自分を見つめなおしたらどうだ。
自分は、相手と同じ事をしているのではないのか?

ジララを敬い、愛情を湧き出させたカゲゲも

ゾルルを救い、愛情を隠し切れなくなったガルルも

皆、似たようなものじゃないか。
それなのに相手の感情ばかりを蔑むなんて、おかしくはないか?

―僕等だって、誰かを愛していないわけではないのだから。

「ね、ゾルル。」
「?」
「残酷なのは、人だと思う?人を殺す、僕等だと思う?それとも、この世界?」
突然のその問いに、ゾルルは数秒間固まった。
今の状況に、全然関係ないように思えたのだ。
しかし、
彼らの境遇を残酷なものとするならば・・・

最も残酷なのは、いったい何?

「愛さなければ辛くは無かった。殺さなければ強さを求めなかった。」
その通りだ、とゾルルは思う。
しかしそれは、人間の力ではどうにもならないこと。
「それは、仕方のないことだよ。どうにも出来ないんだ。」
ドロロは、淡い微笑を浮かべる。
「僕は思うんだ。手の届かない力で僕等を屈服させる、どうしようもない存在は・・・」
その存在を、恨むことができるならそうしたい。
自分を棚に上げてでも、それを責め続けたい。


「    」


そして一つの答えに、誰もが頷いた。

あぁ、そうか。
それならばずっとずっと、恨み続けてきた。

今更恨むものなど、もぅ何も残っていやしない。



―これまでも、これからも。僕等はそれを恨み続ける。



                           それを、知っている。