電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

帚木蓬生『天に星 地に花』(下巻)を読む

2017年07月13日 06時04分10秒 | 読書
集英社文庫で、帚木蓬生著『天に星 地に花』(下巻)を読みました。下巻では、八年前の騒動を収めた稲次家老が蟄居する津古村で、高松庄十郎は鎮水先生とともに元家老の疱瘡を看病しますが、残念ながら名家老は不遇のうちに昇天してしまいます。

年月が経過し、医術の修行も進む頃、庄十郎の妹の千代が城島町にやってきます。大庄屋の大石猪十郎に嫁ぎ、月に一度はつる婆さんに料理を習うために診療所に通うようになり、息子の久作が生まれ、このあたりは平和で幸せな日々と言えましょう。実家の父は老い、長男の甚八は生真面目というよりも片意地をはって、弟も妹も寄せ付けません。当然のことながら、大庄屋に必要な人望も集まりません。

その実家とは筑後川を隔てた隣の北野新町に、庄十郎は診療所を開業し、高松凌水を名乗ります。幸いに借地の地主は北野天満宮の神官で、世話好きな人でした。庄十郎は、師の教えを守りながらここで誠実に医業に携わり、信頼を得ていきます。そんなときに、亡くなった稲次家老の遺族が訪ねて来て、庄十郎が独立した日に贈るようにと託された品を届けます。それは、

天に星 地に花 人に慈愛。

と書かれた掛け軸でした。幼い頃、家老の屋敷において、この「人」に百姓は含まれるのかと問うた庄十郎に、家老は「当然、含まれる」と答えたのでした。

没後十三年、百姓らは、一揆の犠牲を未然に防いだ稲次家老の遺徳を忍び、城下に五穀神社を建てているといいます。しかし、人別銀に始まり、苛政を行う為政者の下で、天候不順は天災とばかりは言えない様相を呈しはじめます。再び百姓一揆の動きが始まるのです。



この後の大きな動きは、ねたばらしになってしまいますので、割愛しましょう。重厚な、充実した作品です。まことに読み応えがあります。一章ずつ読み進めてきましたが、読み終えるのが惜しいと感じました。

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メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲の作曲順序は

2017年07月12日 06時02分44秒 | -室内楽
メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲は、すでに第1番、第2番、第3番の3曲を実演で聴いております。「夏はメンデルスゾーン」という例にもれず、この週末の7月15日には、山形弦楽四重奏団の定期演奏会で第5番を聴く予定。当日は仕事で出勤予定となっていますが、演奏会には充分に間に合う見通しで、今から楽しみです。

ところで、メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲の作曲順序はどうなっているのか? ここでも、番号と作曲順には食い違いがあるのだろうか?



メロス弦楽四重奏団による3枚組み全集CD(G:UCCG-4333/5)に添付のリーフレットによれば、次のようになるのだそうです。

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曲名と作品番号等    作曲年代 作曲者年齢
======================================
弦楽四重奏曲変ホ長調   1823年  14歳
同第2番イ短調 Op.13    1827年  18歳
同第1番変ホ長調Op.12   1829年  20歳
同第4番ホ短調Op.44-2   1837年  28歳
同第5番変ホ長調Op.44-3  1838年  29歳
同第3番ニ長調Op.44-1   1838年  29歳
同第6番ヘ短調Op.80    1847年  38歳
弦楽四重奏のための4つの小品Op.81  不詳
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たしかに、Wikipedia の作品一覧でも同様の記述があり、おそらくはほぼ確定した年代なのでしょう。今回、定期演奏会で取り上げられる第5番は、3曲セットになる作品44のうちの真ん中の曲です。キャッチーな要素は薄いけれど、繰り返し聴いているうちにじわりと親しみが感じられるようになる、どちらかというと思索的な面の強い作品みたいです。

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身につけているものは使うが、カバンの中のものは使わない傾向が

2017年07月11日 06時02分43秒 | 手帳文具書斎
ふだんの生活の中で、身につけているものはよく使うけれど、カバンの中にしまっているものは使わない傾向があるようです。例えば名刺、胸や内ポケットの万年筆・ボールペンとメモ帳、ポケットにしのばせた認め印、ハンカチとティッシュペーパーなどはよく使うほうです。これに対してカバンの中に入れてあるものは、移動先でカバンから出して広げてはじめて役に立つものが中心です。例えば老眼鏡、ペンケース、システム手帳、備忘録ノート、カードケースなど。

この区分から言うと、立ったまま予定をチェックするのに、いちいちカバンからシステム手帳を取り出すのは不便です。システム手帳は、単独で手に持って便利さが感じられるものですので、カバンに入れて持ち運ぶようになったら、潔くポケット型の綴じ手帳に戻すべき時期なのかもしれません。これはよ~く考えてみる価値がありましょう。

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広告やチラシがその時代を思い出させる

2017年07月10日 06時02分19秒 | Weblog
広告やチラシが、その時代を強く印象づけ、後になってその時代の記憶を呼びさますことがあります。例えば、リヒテル、オイストラフ、ロストロポーヴィチにカラヤンとベルリンフィルが共演したベートーヴェンの三重協奏曲は、東西冷戦の時代に、たいそう印象的な出来事(*1)でした。

最近では、角川文庫版のヒルトン『心の旅路』についていたブックカバーが、写真のような映画のチラシ風のものでした。たしか、高倉健と薬師丸ひろ子が共演した1978年の角川映画「野性の証明」だったと記憶しています。1978年頃といえば、関東某県在住でやみくもに働いていた時代。過日、訪ねてきてくれた某氏(*2)も、まだ若かったはずです。思わず遠い日々を思い出します。

(*1):ベートーヴェンの三重協奏曲を聴く~「電網郊外散歩道」2007年7月
(*2):38年ぶりに懐かしくもうれしい来訪者~「電網郊外散歩道」2017年6月


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パイロット・カスタム・グランディ(M)を水洗いする

2017年07月09日 06時06分28秒 | 手帳文具書斎
愛用している万年筆が、偶然にもみな一斉にインク切れになりました。とくに、手持ちの万年筆の中では最も使用期間が長く、自分の書きぐせにいちばんなじんでいるはずの万年筆、パイロット・カスタム・グランディ(M:中字)は、すっかり乾燥してしまっていました。同社のカートリッジの青インクが裏抜けがひどく、使用できる紙が限定されてしまうために、どうしても使う頻度が激減してしまっていたためでしょう。しかたがないので、カートリッジを引っこ抜き、水洗いすることにしました。


(水につけたところ)


(一晩放置した後)

思えば、つるつるの紙の上でスリップするだの、インクが裏抜けして使いにくいだの、様々な不満を持ちながら、辛抱して使い続けてきたきたものです。さて、水洗いした後はどうしようか?

  • プラチナ古典ブルーブラックを入れる。カートリッジにスポイトで充填。
  • モンブラン「ロイヤルブルー」を入れる。同上。
  • パーカーQuinkブルーブラックを入れる。同上。
  • 乾燥して保管、待機組に編入。

うーむ、乾燥に弱い特性を考えると、水洗いですっきり洗浄できる染料系インクが良さそうにも思えます。さて、どうしたものか。



TWSBIダイヤモンド580ALラヴァーは、意外に乾燥にも強いようです。インク容量が大きいということは、実は乾燥もしにくいのでしょうか。

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忙しい一日を終えて

2017年07月08日 20時40分45秒 | Weblog
今朝は、早朝から水田の用水路の一斉草刈りに従事し、朝食後に病院に老母を見舞い、その後は仕事で夕方過ぎまで出張しました。やれやれ、疲れました。

自宅に戻り、ほっとして休憩。こういうときは、PC-audio で音楽三昧に限ります。

  • ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番、パールマン(Vn)、アシュケナージ(Pf)
  • ボッケリーニ 弦楽五重奏曲、ダニュビウス・カルテット+エーデル(Vc)
  • モーツァルト ピアノ協奏曲第21番、アンダ(Pf)、ザルツブルグ・モーツァルテウム・カメラータ・アカデミカ

ああ、いいなあ。

明日は、同様に早朝から一斉河川清掃で堤防の草刈りです。その後は、モモとリンゴの世話が少しはできるかな? お天気と暑さはどの程度か、気になるところです。

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老母、入院する

2017年07月07日 06時02分50秒 | 健康
このところ元気がなかった老母は、高齢でもあり、しかたのないことかと思っていましたら、どうも心臓の不調があったようです。かかりつけのお医者さんに、胃がんのその後の状況も含めて、一度しっかり検査してもらったらどうかと勧められておりましたが、今回、血液検査をしたところ、BNP(*)値が1200もあり、胃がんの手術をした病院に紹介状を書いてもらって、即入院となったところです。うっ血性心不全ということで、しばらく安静が必要になります。息切れする原因がわかって、本人なりに納得しているようです。

本人は畑が気になるようですが、当分はムリでしょう。妻もこのところあまり本調子ではないですし、結果的には私の週末農業の分野が多少広がるのかもしれません。いやいや、むしろ私が働きすぎにならないように気をつけなければ(^o^;)>poripori

(*):BNP検査Q&A~日本心不全学会 心不全予防委員会のPDF

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検診の際に活躍するボールペン

2017年07月06日 06時01分33秒 | 健康
過日、職場の健康診断がありました。あらかじめ、オプションの大腸がんや前立腺がん検診なども申し込んでおりました。大腸がん検診というのは、要するに便潜血の検査で出血性の腫瘍の有無を調べるものでしょうし、前立腺がん検診というのは、前立腺の腫瘍マーカーである特異的抗原(PSA:prostate specific antigen)の量を調べるもので、2日分の採便と、当日朝の採尿が必要になります。

採便した容器やポリ袋に、氏名、年齢、採便日付等を書き込む必要がありますが、ここはやっぱり、ポリ袋にも記名できる「パワータンク」ボールペンの出番でしょう。また、採尿したスピッツのラベルに記名するのも、やっぱり Power Tank に如くは無し。

となれば、事前の問診票も勢いでパワータンクで、と思ったら、これは鉛筆でした(^o^)/

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山形弦楽四重奏団の第64回定期演奏会はいよいよ来週末に

2017年07月05日 06時01分07秒 | クラシック音楽
毎回楽しみにしている室内楽演奏会、山形弦楽四重奏団の第64回定期演奏会が近づいて来ました。新しくなった七月のカレンダーで確かめたら、なんと、来週末ではないか!

あと○○日などと聞けばまだ先のような気がしますが、来週末というとすぐ来てしまうように感じます。今回のプログラムは、

  1. メンデルスゾーン 弦楽四重奏曲第5番
  2. ハイドン 弦楽四重奏曲 Op.77-2 「雲が行くまで待とう」
  3. シューベルト 弦楽四重奏曲第5番 変ロ長調 D.68

というものです。



文翔館議場ホールにて、18時開場、18:15〜プレコンサート、18:45開演、となっています。
まてよ、チケットは入手していたかな?確認しなければ。

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ボッケリーニ「ギター五重奏曲第7番G.451」を聴く

2017年07月04日 06時03分32秒 | -室内楽
クラシック・ギターと弦楽四重奏では、撥弦楽器と擦弦楽器のせいか、音量にだいぶ差があります。ともすると、音の小さなギターが隠れてしまい、うっかりすると弦楽四重奏曲と間違えるほどです。とくに、通勤の音楽として選んだ時など、ロードノイズの中で聞いている時にはその傾向が強く感じられます。今回、選んだCD(NAXOS:8.550731)に収録されたボッケリーニ作の三曲の中では、第7番ホ短調、G.451というギター五重奏曲が、比較的はじめからギターの出番をちゃんと作ってくれているようで、繊細なギターの音色を楽しむことができます。

もちろん、ギター・ソロのCDを選べば、クラシック・ギターの音色は楽しめるわけですが、ギターと弦楽四重奏という組み合わせも、室内楽としてなかなか興味深いものがあります。本当は、「ボッケリーニのメヌエット」を含む「弦楽五重奏曲 ホ長調、G.275」を取り上げるつもりでいたのでしたが、何度も繰り返し聴いているうちに、抑制気味のカルテットとギターとのバランスの良さなどから、ギター五重奏曲第7番のほうを取り上げてみようと考えました。

第1楽章:アレグロ・モデラート。
第2楽章:アダージョ。
第3楽章:メヌエット。
第4楽章:アレグレット。

ちょいと感傷的なところもある、優しくチャーミングな曲、演奏です。

演奏はゾルターン・トコシュ(guit.)、ダニュビウス・カルテットで、1992年の8月17日〜21日に、ハンガリーのブダペストにあるユニタリアン教会で収録されたデジタル録音です。
参考までに、演奏データを示します。
■トコシュ(guit.),ダニュビウス・カルテット盤
I=7'48" II=3'09" III=4'08" IV=5'28" total=20'33"

YouTube にも、この曲がありました。権利処理が怪しいCDのものは避けて、たぶん学生さんが自分たちで撮影したものであろう、映像付きのものから、第1楽章。カメラワークは、まあご愛嬌でしょう(^o^;)>poripori
Boccherini Quintet No. 7 in E minor - I - Allegro Moderato (G.451)

次は第2楽章です。
Boccherini Quintet No. 7 in E minor - II - Adagio (G.451)

こんな感じで、第3楽章も第4楽章もアップされています。ちょいとたどたどしい感じもありますが、私には馴染みの薄いギターとカルテットの関係なども、映像のおかげでわりにわかりやすいです。

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同い年のサクランボの老木のことなど

2017年07月03日 06時01分45秒 | 週末農業・定年農業
サクランボの収穫作業は、ほぼ終了としました。実際は、まだもぎ残しがだいぶあるのですが、いつまでもやっているわけにもいきませんので、区切りの良いこの土日で終わりにしたところです。

ところで、老母に聞いたところでは、選果作業をしている作業小屋に一番近いところにある花粉樹ナポレオンの老木(写真)は、実は私と同い年なのだとか。なんでも、私が生まれた年に何本か植えた樹のうち、大部分は倒れたり枯れたりしたけれど、この一本だけは元気に残っているのだそうです。サクランボは、自家不和合性といって他の品種の花粉が付かないと実らない性質があるのだそうで、佐藤錦などの品種の結実のためには、ナポレオンや紅さやか等の花粉樹の存在が必須になります。


(こちらは佐藤錦)

昭和30年代〜40年代には、サクランボの品種の中心は缶詰用のナポレオンだったそうで、佐藤錦を中心とする生食の習慣は、昭和40年代の後半に、自動車輸送と宅配便の普及によるものらしい。たしかに、私の子供の頃は、貨車輸送が中心で、例えばリンゴを木箱に詰めて駅まで運んでいき、チッキにして送るものでした。送り主が駅まで持っていくのも、受け取り先で最寄り駅まで取りに行くのも、なかなか大変な時代でした。

それが、モータリゼーションとコンピュータ化を背景とした宅配事業の進歩により、がらりと変わってしまいました。老母によれば、我が家で佐藤錦を大量に植えたのは昭和44〜45年ころだそうです。現在の収穫の主力となっている佐藤錦は、樹齢が半世紀近い大木になっていますが、「クロネコヤマトの宅急便」の普及とともに収穫量も増えてきた形です。



そうそう、懸案の防除衣ですが、農協に問い合わせたらちょうど良いものがありました。東レが製造し、アゼアス(株)が販売元となり、全農が扱っているもので、「快適防水ウェア・カッパ天国」というものです。これは、ポリプロピレン不織布の間に防水透湿フィルムをサンドイッチにした三層構造の素材で、ちょっと見ると紙でできた雨合羽という感じです。たいへん軽く、作業しやすいものでした。週末農業を始めた頃に購入した防除衣を更新するようになったということは、週末農家も年季が入ってきた証拠でしょうか(^o^)/



ハードなサクランボの収穫期が終わると、少しは読書も音楽も楽しめるようになるでしょうか。ただいま、未読の本は何冊か枕元で待機しておりますし、未聴の音楽CD等も何枚か机上に積み上がっております。楽しみながら少しずつ前に進むことにいたしましょう。

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今更ですが〜ステーショナリー・フリーマガジン『Bun2』2017年6月号を読む

2017年07月02日 06時01分50秒 | 手帳文具書斎
6月も終わり近い頃に、ようやく『Bun2』2017年6月号をもらってきました。今号の特集は、

「紙とペンのちょっとしたいい話」

タイトルからは、万年筆に適する紙を使った新しいノートの話〜例えばコクヨの新しいソフトリングノートなど〜を期待しましたが、実際のところは、

  • カラーペンで手紙を楽しもう! (ジュースアップ、サラサ等)
  • シャープペンにまたまた話題商品登場!! (クルトカ・アドバンス、オレンズ・ネロ等)
  • 銀座・伊東屋に聞く〜万年筆のちょっといい話
  • 画用紙の可能性を探る

ということで、ソフトリングノートの紙についての言及はありませんでした。残念!

あとはまあ、通常の最新ステーショナリーの紹介と、オジサン・ユーザーには縁が薄いイロモノ文具等の連載が中心です。その中でも興味を持ったのは、「一枚ずつ取り出せる丸シール」あたりでしょうか。丸シールはよく使っていますので、この便利さは理解できます。はがれにくいのも高ポイントです。その分だけ、はがして貼るのが面倒、という欠点を解消するための工夫でしょうか。

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帚木蓬生『天に星 地に花』(上巻)を読む

2017年07月01日 06時03分27秒 | 読書
文春文庫で、帚木蓬生著『天に星 地に花』(上巻)を読みました。始まりは、成長し独立して北野新町に診療所を開き、一揆を犠牲なく鎮めた功労者であるのに不遇の内に亡くなった稲次家老の墓に詣でる場面からです。これに対して、第1章では年代がぐっと遡り、26年前の亨保13年に、年貢改めをきっかけにして一揆の機運が高まる様子が描かれます。百姓と領主の間に位置するのが、百姓側では庄屋とそれを束ねる大庄屋であり、領主の側では武士団の実務責任者である家老ということになります。百姓と領主が力と力で直接対決することを回避し、お家断絶や領地替えを防ぐことを暗黙の合意点として、家老と大庄屋たちの交渉・交流が展開されます。

こういう背景下でも、疫病の流行はあり、飢饉は起こります。その収め方にも、為政者の資質は大きな影響を及ぼします。主人公の高松庄十郎は、久留米藩領井上村の大庄屋の次男ですが、疱瘡で生き延びたものの、母と奉公人ののぶを失います。次男として家に居づらいだけでなく、医者になりたいと志を立て、城島町の小林鎮水先生のもとに弟子入りします。鎮水先生は、オランダ医学を修めた医者で、庄十郎の命を救った人でもありました。圧政と飢饉に苦しむ百姓と領民たちの動きを観ながらも、庄十郎の医術修行は続きます。



著者の帚木蓬生氏の作品は、ラジオ番組「かがやく」の朗読に感銘を受け、『風花病棟』『閉鎖病棟』の二冊を読み、さらに大戦中の軍医を描いた『蝿の帝国~軍医たちの黙示録』などを読んでいます。おそらくは採話に基づくと思われる、物語の丁寧な語り口に好感を持ち、同氏の作品に注目しておりましたが、今回は時代物とあって、より自由な小説世界を味わうことができます。下巻が楽しみです。

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