電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

新訳でハインライン『夏への扉』を読む

2013年04月04日 06時04分16秒 | -外国文学
某図書館で、ハインラインの『夏への扉』を見つけました。私が最初に読んだのは福島正実訳のハヤカワ文庫でしたが、今回手にしたのは、小尾芙佐さんによる新訳で、2009年に早川書房から刊行された新書サイズの本です。中高年世代としては、活字も比較的大きく、読みやすいのがありがたい。あまりにも有名なSFだけに、あらすじは簡単にとどめますが、再読、再々読でも面白さは減じることがありません。

主人公ダン(ダニエル・ブーン・デイヴィス)が発明した家庭用お掃除ロボットが大ヒットし、会社は景気がいい。でも、親友マイルズと、愛する(と思っていた)女性ベル・ダーキンの二人の裏切りにより、ダンはほぼすべての権利を失ってしまいます。失意のうちに、冷凍睡眠によって30年後の世界に旅立つ契約をしますが、あの二人がなぜこんな仕打ちをしたのか、その理由を知りたいし、出発前に抗議をしておきたい。というわけで出かけたところで判明した真実は苦く、盟友というべきオス猫ピートは逃げ出し、心を通わせた可愛い少女リッキーと別れて、不本意な形で冷凍睡眠に入ります。

どうやら、30年後は核戦争後の世界のようですが、アメリカとロサンジェルスは生き残っているようです。ダンは未来の世界でどのように生きていくのか、ピートやリッキーのその後はどうなるのか、ワクワク・ドキドキ、というお話です。



1970年ごろに流行った「未来学」なるものでは、地球温暖化もリーマン・ショックも予測はできなかったけれども、お掃除ロボットは「ルンバ」という名前で商品化されました。でも、どうみても本書に登場する「おそうじガール」のほうが進んでいるように思えます。
2000年からもう四半世紀が過ぎましたが、スカートの丈が多少変わったくらいで、衣服もベルトも基本的にまだ1970年代のままです。とてもハインラインが空想したようには進んでいません。技術を見る目はあっても、ベル・ダーキンのような悪女を見る目はないダンは、技術者の典型として描かれているようですが、リッキーのような可愛い少女は技術者に憧れたりするのでしょうか?いささか疑問は残りますが、この名作の価値をそこねるようなものではありません。猫が登場し活躍するという点でもポイントは高いのですが、それはさておいて、文句なしのおもしろさです。


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4 コメント

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お薦め本 (こに)
2013-04-06 10:56:16
本国での人気はイマイチらしいですが、実に日本人好みの作品ですよね。
何度読んでも満足出来ます。
こに さん、 (narkejp)
2013-04-06 20:20:26
コメントありがとうございます。私もお気に入りのSF作品です。こうしてみると、情報のデジタルな処理の部分ではずいぶん進歩したと思いますが、基本的な衣食住の部分では、1970年頃からあまり変化が感じられません。人間は、こうした基本的な部分では、変化を好まないのかもしれません。久々の再読も、なかなか楽しかったです。
新訳 (きし)
2013-04-09 00:18:08
気になったのですが、以前の表紙のイメージに愛着があって、手が出なかった1冊です。
扉の向こうを覗いている猫の後姿の表紙、印象深いのですよね。
きし さん、 (narkejp)
2013-04-09 06:18:03
コメントありがとうございます。新訳本、福島正実訳の文庫本に比べて活字が大きめで、その意味ではだいぶ助かりました。表紙の件、ほんとに印象的でしたね。あれは、どなたの絵だったのでしょうか。我が家のアホ猫たちも、冬の間中、カーテンの隙間から夏への扉を探していたようです(^o^)/

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