関西出張に際し、持参した文庫本から、チャールズ・ディケンズ著『大いなる遺産』の上巻を読んだ。Wikipediaによれば、1860年~61年というから、ディケンズ49歳頃の作品。若い時代の作品とは異なり、後期の作風は戯画化された人間性の描き方に辛らつさが加わり、読むのが辛く苦しくなって思わず投げ出したくなる。たぶん、殺風景なビジネスホテルのベッドの上だったからだろう、なんとか読み終えることができた。
主人公ピップは、英国の貧しい沼沢地にある、姉の嫁ぎ先である貧しい鍛冶屋のジョーの家で、姉夫婦の手により育てられていた。ピップには、幼い少年時代に、逃亡した囚人に脅され、家から食料とやすり盗み、それを渡したという秘密があった。囚人は捕まるがピップの秘密は露見せずにすんだ。
成長し幼い秘密の記憶も薄れた頃、ピップは町の俗物バンブルチュク叔父の紹介で、過去の恋愛の記憶から復讐を誓った偏屈な老女ミス・ハヴィシャム家に出入りするようになり、愛するものを裏切り絶望させるよう入念に育てられた美少女エステラに出会う。エステラこそ、ミス・ハヴィシャムが自分の代わりに男や恋愛に復讐するための武器だった。だが、人生経験の浅いピップには、お金持ちの家の見かけの洗練や豊かさは見えても、ジョーの信念や誠実さ、ビディの優しさなどの価値は見えない。
「あんたが紳士になりたいってのは、そのひとを見かえしてやるためなの、それともそのひとを自分のものにするためなの?」ビディはちょっと黙っていてから、こうたずねた。
「ぼくにはわからないんだ」と、わたしはふさぎこんでいった。
「というのはね、もしそのひとを見かえしてやるためだったら」と、ビディはつづけた、「そのひとのいうことなんか、ちっとも気にかけないでいるほうが、もっといい、もっと独立的なやりかただと、わたし思うの----でも、あんたがいちばんよくごぞんじよ。それから、もしそのひとを自分のものにするためだったら、----あたし、そのひとは、自分のものにする値打のないひとだと思うの----でも、あんたがいちばんごぞんじよ」(新潮文庫版、山西英一訳)
こういう助言の価値は、経験をへて初めてわかるものだろう。
さて、奇妙な条件がついてはいるものの、ピップには突然大きな遺産が入ることになる。若者の好奇心と独立心は、村を出て紳士になり、エステラと結婚することを夢見て、この条件を受諾させることとなる。ロンドンの生活も、後見人となったジャガーズ氏の冷酷さや、現実と関わらないことが貴族的だと育てられた妻と結婚したポケット氏の無力な怒りや、単に上品であるにすぎない浮草のようなハーバートなどとの関わりの中で、金遣いだけが荒くなるだけだった。
そして、ミス・ハヴィシャムの招きで村に帰ることになったとき、ジョーとビディの待つ家に戻らず青猪亭に泊まり、ミス・ハヴィシャムの屋敷に行く。私には優しさがないのよ、と警告するエステラの美貌に、ピップはただ憧れるだけだった。
さて、下巻に取りかかるのが、いささか気が重い。たしか、むかし若い時分に読んだときも、後味はずいぶん悪かったように思う。ピップの破滅に幼い頃の恐怖がどう関わってくるのか、細部の記憶は残っていない。新規に読むのとほとんど同じ状態であり、作者の意図は残念ながらまだつかめていない。
主人公ピップは、英国の貧しい沼沢地にある、姉の嫁ぎ先である貧しい鍛冶屋のジョーの家で、姉夫婦の手により育てられていた。ピップには、幼い少年時代に、逃亡した囚人に脅され、家から食料とやすり盗み、それを渡したという秘密があった。囚人は捕まるがピップの秘密は露見せずにすんだ。
成長し幼い秘密の記憶も薄れた頃、ピップは町の俗物バンブルチュク叔父の紹介で、過去の恋愛の記憶から復讐を誓った偏屈な老女ミス・ハヴィシャム家に出入りするようになり、愛するものを裏切り絶望させるよう入念に育てられた美少女エステラに出会う。エステラこそ、ミス・ハヴィシャムが自分の代わりに男や恋愛に復讐するための武器だった。だが、人生経験の浅いピップには、お金持ちの家の見かけの洗練や豊かさは見えても、ジョーの信念や誠実さ、ビディの優しさなどの価値は見えない。
「あんたが紳士になりたいってのは、そのひとを見かえしてやるためなの、それともそのひとを自分のものにするためなの?」ビディはちょっと黙っていてから、こうたずねた。
「ぼくにはわからないんだ」と、わたしはふさぎこんでいった。
「というのはね、もしそのひとを見かえしてやるためだったら」と、ビディはつづけた、「そのひとのいうことなんか、ちっとも気にかけないでいるほうが、もっといい、もっと独立的なやりかただと、わたし思うの----でも、あんたがいちばんよくごぞんじよ。それから、もしそのひとを自分のものにするためだったら、----あたし、そのひとは、自分のものにする値打のないひとだと思うの----でも、あんたがいちばんごぞんじよ」(新潮文庫版、山西英一訳)
こういう助言の価値は、経験をへて初めてわかるものだろう。
さて、奇妙な条件がついてはいるものの、ピップには突然大きな遺産が入ることになる。若者の好奇心と独立心は、村を出て紳士になり、エステラと結婚することを夢見て、この条件を受諾させることとなる。ロンドンの生活も、後見人となったジャガーズ氏の冷酷さや、現実と関わらないことが貴族的だと育てられた妻と結婚したポケット氏の無力な怒りや、単に上品であるにすぎない浮草のようなハーバートなどとの関わりの中で、金遣いだけが荒くなるだけだった。
そして、ミス・ハヴィシャムの招きで村に帰ることになったとき、ジョーとビディの待つ家に戻らず青猪亭に泊まり、ミス・ハヴィシャムの屋敷に行く。私には優しさがないのよ、と警告するエステラの美貌に、ピップはただ憧れるだけだった。
さて、下巻に取りかかるのが、いささか気が重い。たしか、むかし若い時分に読んだときも、後味はずいぶん悪かったように思う。ピップの破滅に幼い頃の恐怖がどう関わってくるのか、細部の記憶は残っていない。新規に読むのとほとんど同じ状態であり、作者の意図は残念ながらまだつかめていない。
今度は、ディケンズですか!…私はこの本を途中で投出してしまった一人です…(苦)全部読みきると、得るものもあるのでしょうが…中々手が出せません。
下巻は進んでいらっしゃいますか?感想を伺いたい…けど、聞いたら更に手が出せなくなるでしょうか(汗)