電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

河北新報社編集局『再び、立ち上がる!~東日本大震災の記録』を読む

2014年01月25日 06時02分11秒 | -ノンフィクション
東日本大震災以降、多くの記録が刊行されています。その中でも、宮城県を中心とする地元紙・河北新報社の報道は、丹念に事実をひろい上げ、記録し、検証するという点で、実にていねいな仕事をされていると感じます。それは、同社のウェブサイトの3.11特集にも顕著に現れていますが、単行本として編集されたものを読むとき、訴える力は格別のものがあると感じます。本書は、前著『河北新報社のいちばん長い日』に続き、多くの津波被災者を丹念に取材したものです。

本書の特徴というか価値は、巻頭に置かれた3.13付の社説にもっとも端的に現れていると感じます。

生きてほしい。
この紙面を避難所で手にしている人も、寒風の中、首を長くして救助を待つ人も、絶対にあきらめないで。あなたは掛け替えのない存在なのだから。

という文で始まる、わずかに数ページしかない、広告もない紙面を実際に手にした人たちは、この言葉に込められた思いが強く伝わったことと思います。(*1)

ほぼ一年後に刊行された本書は、次のような構成になっています。( )内の数字は、記事の件数です。

第1章:その時、何が  (23件:何が起き、どう対応したか)
第2章:その命を    (16件:命を救おうと手を差し伸べる人々)
第3章:逃げる、その時 (19件:生死を分けたもの)
第4章:それでも、前へ (28件:苦難の中でも諦めず)

一つ一つの記事が、きわめて高密度に凝縮された文章になっているだけに、取り上げられている内容はみな重いものです。大きな話題になった、南相馬市長の YouTube を通じた SOS の訴えや、避難のあり方が問題となった大川小学校のようなケースだけでなく、「窮地に追い込まれた精神科病院の苦闘」など、ふだんは知る機会の少ない分野にまで、弱者の立場から実に目配りのきいた取材と構成になっています。毎日、様々なニュースや新聞記事を読み、耳にしますが、日常に流されて見過ごしてしまうことが多いものです。こうして単行本になることによって、全体像が見えてきます。まったく無名の人々が互いに助け合うあり方が、全体としてきわめて強い印象を残します。



丹念に事実を掘り起こす取材は、正面から悲劇と向き合うこととならざるをえません。否応なく、過酷な現実に直面する毎日に、「体調を崩した記者も少なくない」(p.313)とありました。まったくそのとおりだろうと思います。本書を読みながら、しばしば涙を禁じ得なかったのですから、取材をする記者は、さぞ心を痛めたことでしょう。しかしながら、それ以上に、被災した人々の悲しみと困難はいかばかりかと思うことしきりです。阪神淡路大震災から19年が過ぎ、東日本大震災からもうすぐ満三年になろうとする冬に、被災者の方々の悲しみが少しずつでも和らぎ、希望が増すことを祈ってやみません。そして、日本列島全体が、大地震の活動期に入っているのではないことを願いたいと思います。

(*1):地方メディアのありがたさ~震災関連報道に思う~「電網郊外散歩道」2011年3月

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