電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ベートーヴェン「交響曲第2番」を聴く

2009年01月25日 07時48分23秒 | -オーケストラ
このところ、通勤の音楽で聴いていたのが、ベートーヴェンの交響曲第2番です。この曲は、1802年に完成し、1803年の4月5日に、アンデアウィーン劇場において、ピアノ協奏曲第3番等とともに初演されたのだそうで、若いベートーヴェンの溌剌とした清新さを残しながら、聴覚障碍の絶望を乗り越え、音楽の革命児としての役割に踏み込んで行こうとする、まさにその頃の時期にあたります。
演奏は、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団による全集の掉尾を飾る1964年10月23日の録音と、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団が120周年を記念して公開した、マリス・ヤンソンスが指揮する2004年のMP3ファイル。

楽器編成は、Fl(2), Ob(2), Cl(2), Fg(2), Hrn(2), Tp(2), Timp に弦楽5部、というもの。

第1楽章、アダージョ・モルト~アレグロ・コン・ブリオ。セルとクリーヴランド管の演奏の、冒頭のジャジャーン!がすごいです。整然としていながら、実に力強い始まり。♪=84 と指示された序奏部のアダージョが、いかにもベートーヴェンらしいです。主部は、d(2分音符のつもり)=100、アレグロ・コン・ブリオと指定があります。力強い第1主題、行進曲風の第2主題が、対照も鮮やかに展開されます。演奏の緊張感、集中感が、精妙で力強いリズムの対比とともに、特徴的です。
第2楽章、ラルゲット。この楽章には、若いベートーヴェンの魅力となっている、清新な叙情性に通じるものがあります。第1楽章の集中と緊張に対し、清く安らかな緩徐楽章で、なにかエピソードを求めたくなるような、ロマンティックな気分もあります。
第3楽章、スケルツォ、アレグロで。ベートーヴェンの9つの交響曲の中で、はじめてスケルツォ(イタリア語で冗談の意味だそうです)を名乗っている短い楽章です。伝統的な3拍子の舞曲(メヌエット)の性格を離れ、より激しく速く、もしほんとに踊ろうと思っていたら「冗談だろ!」と言われるような、そんな楽章。確かに、冒頭の、音色と強弱の両面で鋭い対比を見せる楽想は、もはやロココ時代の優美なメヌエットではありません。セルの演奏は、シンコペーションによるリズムも抜群の切れ味です。
第4楽章、アレグロ・モルト。本楽章では、速いテンポにもかかわらずまったく意に介さないような、唖然とするばかりの見事に精妙なリズムの処理と、クールな外見とは裏腹に、次第に高揚する熱気に驚かされます。セルとクリーヴランド管の演奏の精華を示す代表例の一つと言ってよいのかもしれません。

一方で、ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏を、MP3 ファイルを再生しながらタイムを引き算して調べたところ、緩徐楽章はむしろ速めで、わりに淡々とした感じです。ふっくらとした響きや、やわらかで滑らかな印象を受けますが、次第に心理的な速度を増し、終楽章の熱狂的なテンポに至る構成などは、曲全体の設計という意味で、おそらく指揮者の意図するところでしょう。

■セル指揮クリーヴランド管 (LP:SOCZ 38-43, CD:SBK 47651)
I=10'09" II=11'30" III=3'37" IV=6'16" total=31'32"
■ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管
I=11'47" II=10'38" III=3'19" IV=5'57" total=31'41"

写真は、LP 全集の解説書とCD、スコアはネット上のPDFファイルをダウンロードして印刷したものです。こういうのを見ると、著作権で保護される期間が過ぎた後は公共の財産になる、という考え方の美点が、実に良く理解できます。

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4 コメント

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ベートーヴェンの第2交響曲 (望 岳人)
2009-01-25 23:02:00
今晩は。9曲の交響曲の中で比較的影の薄いのがこの2番と4番かと個人的には思っています。

先日自分の記事のハイドンのピアノ協奏曲でも書きましたが、特にこの2番、聴いているときにはいい曲だと感じつつも、聴き終えてしばらくするとその楽想が思い出せなくなってしまう(私だけ?)曲の一つです。

私は最初LPのクリュイタンス/BPOで入門しましたが、セル/クリーヴランドでのCD全集で時折聴きます。ここ数年増えたその他の指揮者の全集でも、結構楽しんでいます。

ところで、アムステルダム・コンセルトヘボウのmp3のダウンロードには結構時間が掛かりますが、ジュリーニのドヴォ8をゲットしました。結構いい音で聴けますね(^^)
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望 岳人 さん、 (narkejp)
2009-01-26 06:47:08
コメントありがとうございます。たしかに、ベートーヴェンの交響曲の中では、一番影が薄い曲かもしれませんね。逆に、「これでもか!」と押し付けがましい(?)ベーさんの交響曲の中では、一番押し付けがましくない曲かもしれません(^o^)/
ロイヤル・コンセルトヘボウ管のmp3ファイルは、かなり良好なデジタル化のようで、なかなかの音質・容量ですね。当方は、全ファイルをダウンロードして、UbuntuLinux 上で楽しんでおります。ジャケット写真のpdfファイルまで用意されているという太っ腹に、感激しております(^_^)/
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1番と2番の組み合わせ (安倍禮爾)
2009-01-28 18:52:37
narkejpさん

 ベートーヴェンのこの曲は、LPの頃から第1番と組み合わされていたことが多いと思います。CDになった今も、結局そのようですね。安売りで買ったワルター、セル、クリュイタンス等々、この組み合わせで聴いてきましたが、今も忘れられないのは、子供の頃FMで聴いた、エーリッヒ・ラインスドルフ指揮ボストン交響楽団の演奏です。それまで聴いてきた演奏とは全然違っていて、何と言っても第1楽章の始まりが、「ダンダーーーッン!」という、もの凄い叩き音(?)で始まり、肝を潰しました。この人の演奏は、一般にこういう大きい音の傾向があり(元気が良い?)、第7番なども勇敢な演奏で、第4楽章など他の演奏では聴こえない音がトランペットで大きく聴こえたりで、昔のショルティのそれともまた違う特徴でした。
 ただ、すべての曲でそうかと言うとそうでもなくて、たとえばリヒテルと組んでシカゴ響を指揮したブラームスのピアノ協奏曲第2番など、騒がしいところは全くなくて、意外です。
 ベートーヴェンの交響曲第1番、第2番あたりは、ひょっとしたら少し勇ましい演奏の方が、聴き応えはあるかもしれません。
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安倍禮爾 さん、 (narkejp)
2009-01-28 21:14:37
コメントありがとうございます。第1番と第2番のカップリングは多そうですね。第1番も、溌刺としててわりに好きな曲です。第3番がいかに破天荒な曲だったか、ということを実感しますので、当時のウィーンの聴衆のとまどいも、理解できるように思います。
ラインスドルフの演奏は、まだ聴いたことがありません。勇ましい演奏ですか。ラインスドルフが振ったボストン響やシカゴ響との録音などは昔の廉価盤にはなかったので、当方には縁遠い指揮者になってしまったのかもしれませんね(^_^;)>poripori
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