電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ジャクリーン・ケリー『ダーウィンと出会った夏』を読む

2012年07月26日 06時03分28秒 | -外国文学
ほるぷ出版から2011年に刊行され、今年は高校の読書感想文の課題図書に選定されているという本、『ダーウィンと出会った夏』を読みました。ジャクリーン・ケリー著、斎藤倫子(みちこ)訳、ソフトカバー、412頁の本です。

なんといっても、ぱらぱらとめくったときに目にとまった場面、もうすぐ12歳の少女が町の図書館に行き、ダーウィンの『種の起源』を借りようとして断られる場面で、本好きな元科学少年としては、どうして読まずにいられようか!という勢いです。邦題はだいぶ映画のタイトル風になっていますが、原題は "Evolution of Calpurnia Tate" (キャルパーニア・テイトの進化)というもので、ニュアンスはだいぶ違います。

1899年の夏、アメリカ南部、テキサス州コールドウェル郡フェントレスに住む、七人きょうだいの真ん中でたった一人の娘であるキャルパーニア・テイトが、兄からもらった赤い革表紙のポケットサイズ・ノートを、自然観察ノートとして使い始めます。特徴の異なる二種類のバッタについて質問をするために、祖父の実験室に行きます。ところが、綿花工場の創設者であり、息子に事業を譲って引退した後には、自然科学の研究に没頭する祖父は、孫娘に自分で解決するように言い、「わかったら、答えをいいに来なさい」と命じただけでした。なにか参考になることが書いてあるのではと、兄ハリーが食料を買うために町に出かけた荷馬車に同乗し、祖父と牧師さんとの間で話題になっていた、ダーウィンの『種の起源』を図書館で借りようとしたのでしたが、図書館員は母親の許可が必要だと、取りつく島もありません。1899年の米国では、進化論は宗教的な論争の的であり、信心深い良妻賢母を育てる教育にとっては有害図書だと考えられていたようです。

結局、キャルパーニアは、自分の観察から、エメラルド色の小型のバッタは枯れた黄色い芝生の上では野鳥に見つけられ捕食されるけれど、黄色い大きなバッタは動きが鈍いのに保護色となり鳥たちから隠れるのに好都合だからだと知ります。この発見を祖父に報告し、つづけて図書館でみじめな思いをしたことを語ります。すると祖父は、孫娘を書斎に連れて行き、ダンテの『地獄篇』や、『熱気球の科学』『哺乳類の繁殖の研究』『裸婦の描写についての論文』などの本の間から、深緑色のモロッコ革の『種の起源』を取り出し、貸してくれたのです。こうして、孫娘と祖父との交流が始まります。



この後の、第2章から第27章までの内容は、母親の期待する家庭婦人ではなく、科学者になりたいという少女が、祖父とともに植物の新種を発見し、スミソニアン博物館で新種登録されるまでの、日常生活とその中で葛藤する思いを描き、秀逸です。元科学少年だった私には、性別を越えて、よく理解できる展開であり、共感できる心情です。

かつて日本には、「虫愛づる姫君」がいましたが、キャルパーニア・ヴァージニア・テイトは、19世紀から20世紀に移行しようとする頃のアメリカ南部で、自覚的に成長しようとしている「虫愛づる姫君」であると言えましょう。たぶん、現代ではもっと多くの少女達が、「理系女子」として夢を育てているのでしょうが、本書に素朴な共感が集まるのかどうか、興味深いところです。そういえば、大学生の頃に読んだ『種の起源』は、岩波文庫でした。あれはたしかに興味深かった。今なら、どのように感じるのでしょうか。


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