電網郊外散歩道

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宮城谷昌光『新三河物語(上)』を読む

2012年09月27日 06時02分27秒 | -宮城谷昌光
宮城谷昌光という作家は、息子が高校生の頃に教えてもらったのがきっかけで読み始めました。もっぱら『太公望』や『孟嘗君』などの中国古代を舞台にした物語に親しみましたが、近年は日本国内を舞台にした小説も手がけているようで、興味深く読んでいます。この『新三河物語』もまた、『風は山河より』と舞台を共にするもので、多面的・重層的な描き方を得意とする作者らしい作品となっています。

本書は、徳川家康の家臣、大久保氏の一族、とくに大久保忠俊(常源)、大久保忠員とその息子である忠世、忠佐、忠教(平助)らの姿を通して、松平元康から徳川家康への変化を描いていきます。

上巻では、今川義元に酷使される三河松平家とその家臣たちが、桶狭間での今川義元の横死をきっかけに独立するものの、一向一揆の内乱に突入してしまいます。同じ一族が分かれて殺しあう戦は酷いもので、このままでは三河の国が崩壊してしまいます。一揆の首謀者を許そうとしない家康に、常源(大久保忠俊)は、

御手さえ広くなれば、何をなさろうとも、おもいのままになるのですから、ただいまは、なにかと仰せらるるところにあらず

と言います。家康はこれを受け入れ、一揆は沈静化しますが、これは常源のほうが器が大きい。しかし、家康がさすがなのは、すぐに八面城を攻めることに切り換えるところです。内乱の余波は、新たな共通目標で、鎮めることができる、ということでしょうか。

一読しただけではなかなか把握しにくいという点は、この作品だけでなく、宮城谷昌光作品に共通する傾向ですが、地図や系図などを参照しながら再読すると、戦国の群像がくっきりと浮かび上がります。この点は、作者の特徴でしょう。力作です。

もう一つ、新潮文庫の中でも、本書の活字の大きさ、組版のゆったりとした加減は、格別に読みやすく感じます。想定する読者層が中高年だからでしょうか、ありがたい配慮です。
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