電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

久保寺健彦『青少年のための小説入門』を読む

2019年02月09日 06時05分56秒 | 読書
集英社刊の単行本で、久保寺健彦著『青少年のための小説入門』を読みました。イジメられっ子中学生の入江一真が万引きを強要され、駄菓子屋の店番をしていたヤンキーの田口登につかまります。登は文字を読んだり書いたりすることが困難なディスクレシアという学習障碍を持っており、一真に本の朗読をするなら許してやると持ちかけます。実は登は、文字の読み書きはままならないけれど、抜群の記憶力と創作力を持っており、作家になるのが夢でした。その日から中学を卒業して高校生になっても、一真は図書館員の勧める様々な名作を朗読し、これが二人の文学修行になります。やがて二人は、清水健人というペンネームで覆面の二人作家としてデビューし、人気が出ていきますが…というお話。

いや、おもしろかった。久々に引きこまれ、一気に読みました。同時に、本作のベースの一つになっているのは、ベルンハルト・シュリンクの『朗読者』ではなかろうか、と感じました。『朗読者』のほうは、虚弱な少年ミヒャエル・ベルクが、偶然にずっと年上の女性ハンナ・シュミッツに助けられたことがきっかけとなり、彼女のために朗読をしつつ性の経験を重ねるうちに、互いの関係が密接に離れがたいものに変わっていくのですが、彼女はある日突然に姿を消してしまいます。実は…という話でした。

弱っちい少年が、だいぶ年齢の離れた大人に助けられ成長する中で、彼を助ける大人の弱さや罪に気づき、その悲哀を理解する話であるという点で、共通するところがあります。どちらも大人(登とハンナ)の死によって終わりますが、『青少年のための小説入門』の方は、少年がそこから再びスタートする点が違っています。



小説家の苦悩を描く部分は、たぶん著者自身の経験が色濃く反映されているのでしょう。ありすの存在は、一真の少年時代の健康さを確保するための役割でしょうか。本書をきっかけに、『朗読者』をもう一度読んでみたいものです。


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