電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩。時々は実際に散歩を楽しみます。

池井戸潤『下町ロケット』を読む

2012年02月10日 06時04分42秒 | 読書
少し前に、図書館に池井戸潤著『下町ロケット』が返却されているのを見つけ、借りてきました。たしか、第145回直木賞受賞作です。「その部品がなければ、ロケットは飛ばない---。」というキャッチコピーは、町工場とロケットという組み合わせの妙を示唆しており、てっきり大阪の「まいど一号」の話なのかなと思っておりました。ところが、話はまるで違い、「プロジェクトX」のようなノリで書かれた小説でしたので、読み始めたら止まらず、深夜まで読みふけってしまいました。

主人公、佃航平は、種子島宇宙センターで実験衛星打ち上げロケットに搭載する新型水素エンジン「セイレーン」の開発者でしたが、エンジンの異常燃焼のため打ち上げに失敗し、宇宙科学開発機構を辞して父親の町工場の経営者となっています。業種は精密機械製造業で、エンジンやその周辺デバイスを含めた売上が百億円といいますから、かなり優秀な企業でしょう。ただし、中小企業の常で、大口得意先との取引が急になくなってしまうと、資金繰りの問題が発生します。主力銀行にすげなくされ、頭を抱えているときに、競争相手の大企業ナカシマ工業が、特許侵害で訴えを起こします。狙いは、佃製作所の技術を支配すること。顧問弁護士は技術にうとく、相手の思うツボで窮地に立ったとき、救いの手を差し伸べてくれたのは、バリバリの研究者として活躍する、別れた奥さんでした。知的財産権専門の凄腕の弁護士を紹介してもらい、技術論争の枠を越えて、ナカシマ工業が佃製作所の持つ別の権利を侵害していると逆提訴したため、裁判長は両者の和解に持ち込み、佃製作所は高額の和解金を得ます。これで、資金繰りの問題は一挙に解決し、潤沢な資産として内部留保されます。

ここまでで終わればメデタシメデタシなのですが、話はそう単純ではありません。次の展開は、政府から製造委託された宇宙ロケットの開発を一手に引き受ける大企業、帝国重工グループの「スターダスト計画」に関わるものでした。発端は、帝国重工が開発した水素エンジンのキーデバイスであるバルブシステムに関する特許を、資本金三千万、従業員数二百人の小さな企業が、すでに先行取得済みであることが判明したことです。帝国重工の財前部長がじきじきに乗りだし、特許の譲渡を持ちかけます。提示された20億という金額に、佃社長も迷いますが、冷静に考えれば、せっかく開発した新しい技術を売ってしまったら、佃製作所に何が残るのか。ここから、大企業内部の権力闘争やら中小企業いじめやら、中小企業内部の社員の足並みの乱れやら技術屋の誇りやら、物語は一気に「プロジェクトX」の様相を呈してきます(^o^)/



いや~、面白いです。テーマも良いし、主人公も周辺の脇役たちも、類型的というよりは典型的なタイプを描いているように思います。思わず深夜まで読みふけってしまったのも、納得です。さすがは直木賞受賞作、という面白さです。金看板は伊達ではありませんでした。


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2 コメント

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「空飛ぶタイア」もぜひ (よし)
2012-02-10 15:29:42
私も「下町ロケット」を息もつかせずに読みました。
「空飛ぶタイア」も負けずに面白いですよ。
ほぼ企業名が特定できるので直木賞が取れなかったとかどうとか・・・(笑)。
よし さん、 (narkejp)
2012-02-10 21:07:34
コメントありがとうございます。『下町ロケット」おもしろかったですね。さすがは直木賞、という感じでした。『空飛ぶタイヤ』ですか。面白そうですね。探してみましょう。おすすめありがとうございます。楽しみです。

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