電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

カズオ・イシグロ『日の名残り』を読む

2017年10月28日 06時03分27秒 | -外国文学
早川書房のハヤカワepi文庫の中の1冊で、カズオ・イシグロの『日の名残り』を読みました。ノーベル文学賞受賞を機に、子どもから借りて手にしたものですが、ギュンター・グラスとかガルシア・マルケスなどと同様に、なかなか手にしようとは思わないだけに、老母の病院付き添いの待ち時間が良い機会となりました。



ストーリーは、イギリスの名家の執事が主人公で、主人を敬愛し、自分の仕事を完璧にすることに情熱を燃やし、その他の私事~恋愛や父親の老いと病死など~よりも仕事を優先する様子が回想される形で進みます。前の主人が亡くなり、屋敷が売却され、新たな主人となったのはアメリカ人でしたが、ちょっとしたミスから人手不足を痛感し、休暇をもらって昔の女中頭からの手紙を頼りに仕事への復帰を打診に行く、という成り行きです。

このドライブの途中に、様々な回想が挿入され、イギリスの古き良き時代の執事の誇りやエピソードが語られますが、尊敬していた主人が紳士としての信念を利用され、ナチス・ドイツの英国における窓口としての役割を持たされてしまっていたことが明かになっていきます。しかも、仕事への復帰を当てにしていた女中頭が、かつて主人公を愛したけれど、鈍感で仕事一途な彼を諦め、今は平凡な幸福~ときどき波風はあるけれど基本的には大切な家庭~を築いていることを知ります。

結局は、人手不足の解消と共に仕事の相棒を求めた旅行は目的を果たせず、もう少し日の名残りを楽しむように暮らしてみようか、というような感慨に浸ります。



年をとれば、時の不可逆性を痛感するこうした後悔の1ダースやそこらは誰しもが持っていることでしょう。時を逆転させることはできないだけに、こうした感慨に共感するところが大きいのではないかと思います。そこが、普遍性を持った所以かもしれません。


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