電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

清野豁『地球温暖化と農業』を読む

2020年02月26日 06時02分42秒 | -ノンフィクション
成山堂書店のシリーズ「気象ブックス」中の一冊で、2008年に刊行された清野豁(ひろし)著『地球温暖化と農業』を読みました。近年の温暖化に伴う豪雨災害の激化を見て、農業はどうなっていくのかと疑問を持ったのがきっかけです。著者は九大農学部出身で農林省に入り、一貫して技術畑を歩いてきた専門家らしく、警世的な表現はごく控えめに、地味な内容ながらデータをもとに問題の所在をまとめているようです。本書の構成は次のとおりです。

第1章 温暖化とは何、そしてその影響は
第2章 温暖化すると作物はどうなる
第3章 食料生産への影響はどのように調べるのか
第4章 温暖化で世界の食料生産はどう変わるのか
第5章 温暖化で日本の食料生産はどう変わるのか
第6章 温暖化の影響は回避できるのか

内容は、とても一口でまとめることはできないものですが、IPCCの気候変化の予測によれば、2030年代で影響が出始めるのが水不足だそうで、大気中の水蒸気量が増える反面、雨が降る地域が変化し、ヨーロッパやオーストラリアでは干ばつが広がり、世界的には数億人が新たに水不足になり、暴風雨の被害は世界中で広がるとのこと。2008年における予測は、なんだかもう実際に起こってきているようです。

ところで、植物は光合成によって二酸化炭素を吸収し炭水化物を作りますので、二酸化炭素濃度の上昇は農業にとってプラスに働くのではないかと考える向きもあるかもしれませんが、残念ながら高温障害というのがあり、ある特定の時期に過度の高温にさらされると不稔になりやすい。単純に言えば、熱帯地域は収穫量が減少し、温帯北部は増加する。砂漠化の進行や暴風雨の巨大化などはそれに拍車をかけるでしょうとのこと。

日本国内では、南西日本から南関東までは減収傾向、北日本は増収傾向となるようですが、これも実際は単純ではなく、むしろ高温によって土壌微生物の種類が減少するなど、従来の常識では予測しがたい変化があらわれてくるようです。

果樹王国山形の観点から興味深いのは、休眠打破のために冬期に一定の低温期間が必要ですが、特に7℃以下の低温を要求するのが

ブドウ(巨峰)     500時間以上
和梨(幸水)、柿    800時間以上
桃、スモモ     1,000時間以上
サクランボ、リンゴ 1,400時間以上
西洋梨       1,600時間以上

となっています。そうすると、温暖化の進行で南国・暖地の作物が北上するという傾向から言えば、サクランボの主力産地が山形から北海道に移行するとか、内陸部の寒地系リンゴが着色不良で商品価値を失うとかいう事態が起こりかねません。現に、我が家でも毎年ゴーヤを栽培するようになっていますし、植えて三年で実がなる桃の北限は、以前は福島県あたりでしたが、現在は山形県から秋田県北部にまで移行しつつあります。ありうる事態だと考えるべきでしょう。

ただし、農業技術面からの議論以前に、豪雨災害で農地のインフラが広く破壊されてしまうなど、高齢農家が営農を諦め耕作放棄せざるをえない状況が起こったら、ノンビリした議論はしていられないのではなかろうか。ましてや、南北の経済格差で食料を奪い合う事態が起こったり、熱帯地域から亜熱帯〜温帯地域へ世界規模で難民が発生したりしたらどうなるのだろう。残念ながら、データに基づいて議論することは難しいようで、そうした視点は本書には見当たりませんでした。

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