電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩。時々は実際に散歩を楽しみます。

池井戸潤『下町ロケット〜ゴースト』を読む

2019年08月04日 06時01分07秒 | 読書
これまで『下町ロケット』(*1)、『下町ロケット〜ガウディ計画』(*2)と二作を読んで来ましたが、今度は三作目にあたる『下町ロケット〜ゴースト』を読みました。宇宙ロケットエンジンのバルブシステムに技術的強みを持つ中小企業・佃製作所が大企業との知財訴訟に勝利し、医療用バルブシステムに進出、こんどは農機具の分野です。まさに現在のわが領域です(^o^)/

佃製作所がエンジンを納入している農機具メーカーのヤマタニが、社長の交代を機に計画を白紙に戻したいと言い出します。背景にあるコスト競争の相手は、かつて危機を経験し経営改革によって復活してきたメーカー「ダイダロス」でした。佃製作所の経営陣が鳩首協議する中に、経理部長の殿村直弘の父親が倒れたとの報せが入ります。心筋梗塞だそうです。後日、佃社長が見舞いにでかけた先は、栃木県の稲作地帯で300年間代々稲作を受け継ぎ、今は二十町歩の水田を経営する旧家(*3)でした。そこで、ヤマタニ製トラクターによる農作業の様子を見て、農機具用トランスミッションに着目します。使われるバルブに佃製作所の技術を生かせないか、というわけです。

コストダウンをねらうヤマタニが目をつけた会社・ギアゴーストは、帝国重工から飛び出した二人、伊丹大と島津裕が起こしたファブレス・ベンチャー企業でした。同社のCVTタイプのトランスミッション用バルブのコンペで、大森バルブに競り勝った佃製作所チームは、ギアゴーストに降りかかった特許侵害の知財訴訟に肩入れすることになります。ところが、この裁判には実は裏がありました…というお話です。



ストーリーはおもしろいし、農業機械に関する描写もかなりリアルです。例えばトランスミッション。今回、我が家で更新した乗用草刈機の場合はマニュアル・トランスミッションで、前進1速〜4速と後退とを手でギアを切り替えるタイプです。これに対して、20万円ほどお高い上級機種は、フットペダルを踏む方向で前進と後退を、また踏み加減で前進速度を無断階に変速できるタイプでした。おそらくはCVT型のトランスミッションだったのでしょう。こういう機械の開発現場が舞台なのだと思うと、読む方にも思わず力が入ります。

がんばれ、島津裕! 

そうそう、なんだか同じように企業に勤める理系女子ということで、下の娘を応援しているような気分にもなってしまいます(^o^)/

(*1):池井戸潤『下町ロケット』を読む〜「電網郊外散歩道」2012年2月
(*2):池井戸潤『下町ロケット〜ガウディ計画』を読む〜「電網郊外散歩道」2018年10月
(*3):このへん、ちょっと戦後史的におかしい。農地改革を経て稲作を継続できたのは自作農までで、かつての大地主はほぼ耕地を失っていたはず。当地では、かつての大地主はほとんど没落し、代わって昔小作人だった農家のごく一部が多くの水田を集積し、何十町歩も耕す大規模専業農家になっている例がほとんどです。

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