電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

群ようこ『かもめ食堂』を読む

2015年09月26日 06時02分42秒 | 読書
幻冬社文庫で、群ようこ著『かもめ食堂』を読みました。読む前には、どこか外国で場末の食堂を開き、日本食のおにぎりが意外に大ヒット!みたいなストーリーかと思っていましたが、予想とはだいぶ違っていました。

主人公サチエは38歳、独身。子供の頃は、古武道の達人である父親の影響で、武道大会で優勝したりしたけれど、12歳のときに交通事故で母親を亡くしてからは、家事に時間を費やすようになります。おかげで料理は上達しますが、中学校の三年間、遠足と運動会の日だけは、父親が大きなおにぎりを作ってくれます。「人生すべて修行だ」が口癖のお父さんの、不器用な愛情表現だったのでしょう。

高校は食物科のある女子大付属に通い、大学を卒業するまで料理教室に積極的に行って、美しく盛り付けるフランス料理やエスニック料理などにも上達はしたものの、亡き母が作ってくれた家庭料理や父が作ってくれたおにぎりが頭から離れません。このあたりまでは、シリアスなものが基調にあるように感じられます。

ところが、大手の食品会社に就職し、弁当開発部に所属してあまり本意ではない仕事をしているうちに、ふと「外国で料理店をやる」という夢をいだきます。そこからの展開が、まるで「お話のよう」でした(^o^)/
それまで不思議にくじ運が良かったことに賭けて、年末ジャンボ宝くじを買ったら、それがなんと一億円の大当たり。どこからも個人情報が漏れなかったようで、怪しい人たちが群がることもなく、開業資金はできました。さらに、父親の古武道のお弟子さんの一人でフィンランドに在住の人がいて、その人が保証人になってくれたので、労働ビザが取れてしまいます。えっ、フィンランドで労働ビザ?ウソ~!まるで「お話みたい」(^o^)/

そんなこんなで到着したフィンランド、ガッチャマンが大好きな少年トンミ君や、書店で偶然に出会い、一緒に「かもめ食堂」で働くことになるミドリさん、荷物が届かず困ってしまったマサエさんなど、皆さん不遇でもいい人ばかり。悪漢が出てくれば武道で撃退しますし、ミドリさんは絵が得意で手描きのメニューを作ってくれます。お客さんも少しずつ入ってくれるようになりました。ただし、海苔で巻いたおにぎりはやっぱり不人気です(^o^)/



まあねえ。プラザ合意のあとの円高もあったでしょうし、日本円で一億円がフィンランドでどのくらいの価値を持ったのか、為替レートなども全く記述がありませんが、王子様は白馬に乗ってやって来ないと気づいた大人の女性のための童話のようです。「普通だけどおかしな人々が織り成す、幸福な物語」というよりは、変形された童話と言うべきでしょう。

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