電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形弦楽四重奏団第55回定期演奏会でハイドン、オネゲル、フォーレを聴く

2015年04月26日 20時30分04秒 | -室内楽
晴天に恵まれた土曜日、早朝から週末農業でせっせと働き、夕方から山形市の文翔館議場ホールに出かけました。文翔館の無料駐車場に車を停め、最も近いお店で腹ごしらえをして、18時30分からのプレコンサートになんとか間に合いました。

プレコンサートは、山響メンバーである小松崎恭子さんのフルートと田中知子さんのヴィオラの二重奏で、ドヴィエンヌの二重奏曲Op.5-1という曲でした。ステージ左側のフルートは活発に伸びやかに、右側のヴィオラは落ち付いてしっとりと。このところ、予習と称して弦楽四重奏曲ばかりを聴いていた耳には、一本の管楽器が入るだけで音色の変化が快いものがあります。



さて、今回の曲目について、担当の中島光之さんが話をします。演奏の順序は、

  1. ハイドン 弦楽四重奏曲 ニ長調 Op.71-2
  2. オネゲル 弦楽四重奏曲 第1番 (1917)
  3. フォーレ 弦楽四重奏曲 ホ短調 Op.121

となっていますが、弦楽四重奏というジャンルは、ベートーヴェン以前と以後に二分できるのだそうで、「以後」の人はベートーヴェンの重圧を感じながら作曲したのだそうな。ハイドンはもちろん「以前」の人ですが、60歳でこの曲を書いたときモーツァルトはすでに亡くなっておりました。長い楽長生活を終えて自由の身になり、招聘されたロンドンで演奏会の人気に驚き、制約なしに音楽を書くことができた、そんな作品であり、作曲家が自分の内面を含めて本当に書きたい音楽を書く時代の始まりを意味するとのこと。
ベートーヴェンを尊敬したオネゲルは、部屋にベートーヴェンのデスマスクを飾るほどだったそうですが、同時に敬虔なクリスチャンでもありました。そんな青年オネゲルの25歳の作品は、第一次世界大戦の従軍経験がもとになっているとも言われ、戦争の暴力的な悲惨さや平和への祈りなどが込められているとのこと。Wikipedia の「オネゲル」の記述にも、弦楽四重奏曲のことは一言も触れられていず、たいへんレアな曲のようです。
最後のフォーレは、以前の定期演奏会(*1)でも取り上げておりますので、再演ということになります。フォーレの代表作は「レクイエム」ということになるだろうけれど、モーツァルトやヴェルディ他の名作「レクイエム」との違いは、怖い「怒りの日」がないこと。フォーレの「レクイエム」が静かでゆったりした曲になっている理由について、「死んで行く人のための安らかな音楽」にしたかったためでは、と推測します。なるほど! ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を超えるものは書けないと考えていたのに、死の直前にこの曲を書いた。最後にどうしても書いておきたかったのだろう、と想像します。うーむ、オネゲルといいフォーレといい、中島さんが希望したプログラムは、およそミーハー的感性からはかけ離れておりますが、聴衆の入りは、なんと、予想よりもかなり多いではないですか! すごいぞ、山形(^o^)/

さて、レディ・ファーストで2nd-Vnの今井東子さんを先頭に登場した山形Qは、ステージ左から1st-Vnの中島さん、2nd-Vnの今井さん、ヴィオラの倉田譲さん、チェロの茂木明人さんの順に並びます。皆さん黒を基調にした装いですが、中島さんはトークの担当ということで、ライトグレーのネクタイに少しのオシャレ心を感じました。

ハイドンの弦楽四重奏曲 ニ長調 Op.71-2 という曲は、当方の小規模なCDライブラリには含まれず、初体験かも。第1楽章:アダージョ~アレグロ。ヘンな言い方ですが、四つの楽器に次々に受け渡されていく音がナイスタイミング(^o^;)で軽やかで楽しく、おもしろい。第2楽章:アダージョ。ゆるやかで気品ある音楽です。第3楽章:アレグレット。チェロがきっかけとなり導かれる舞曲風のリズミカルな音楽。第4楽章:アレグレット~アレグロ。こんどはヴィオラから始まります。個人的な悩みなどではなく、音楽の楽しみのために書かれた、たいへん充実したダンディで明快な音楽と感じました。好きですね~、こういう音楽!

続いて、オネゲルの弦楽四重奏曲第1番。第1楽章の冒頭の、アパッショナートと指示された無機的でエネルギッシュな始まり(*2)に、思わず「こりゃ何じゃ!」と目を剥きました(^o^)/
でも、不思議な迫力があり、思わず引き込まれます。
第2楽章:アダージョ、ヴィオラから始まります。不安な緊張感の中での、切実な祈りを感じさせる音楽です。第3楽章:アレグロ。爆発音のような始まりに、思わずびっくり。でも、音楽は不協和に荒れ狂ったままでは終わらず、暴力的な力の象徴のような激しさを見せたチェロもしだいに静まって行き、全曲が終わります。

ここで、10分間の休憩となりました。日中はぽかぽか陽気だったけれど、夜には気温がだいぶ下がり、シマッタ、ベストを持ってくるんだったと今更ながら後悔。この件、来年のために書き留めておきましょう。

後半は、フォーレの弦楽四重奏曲です。再演であるというだけでなく、私のほうも、通勤の音楽で繰り返し聴いておりましたので、この曲に少しは馴染みができていたようです。第1楽章:アレグロ・モデラート。茫漠とした雰囲気だけに頼らず、バランスの明瞭さを保ちながら音の色調が移りゆくようなフォーレの音楽になっていると感じます。第2楽章:アンダンテ。静かで優しい瞑想的な緩徐楽章です。第3楽章:アレグロ。フォーレは、無理やりに解決するようなフィナーレにはしません。最晩年、人生の終わりを感じつつある人が、スパッと割りきり盛り上がるフィナーレを書けるわけもなし、ということでしょうか。ピツィカートも単純ではなく、ポロンという音に続けて、ハーモニクスのような高い音と組み合わせたものになっており、この付点リズムの音がチェロやヴィオラ、ヴァイオリンに移っていきます。まるで、水琴窟に落ちる雨だれの音に引かれて、織物の色合いが次々に変化していくようです。

演奏後、聴衆の拍手に応えて、アンコールを。今回はハイドン以外はフランスゆかりの音楽になりますが、有名でない2曲の後には有名な曲を(^o^)とコメントしつつ、ドビュッシーの弦楽四重奏曲の第2楽章を。
いいなあ! ピツィカートのリズム感、響きの清新さ、エネルギー感。あらためて、こんなにいい曲だったかと、思わずCDを探してしまいました(^o^)/
あ~、良かった。今回もまた、良い演奏会でした。

次回は今井さんの担当だそうで、7月20日(月)の海の日に決定。ハイドンの変ホ長調Op.50-3 に Beethovenのラズモフスキー第1番、尾崎宗吉、というプログラムになるそうです。

(*1):山形弦楽四重奏団第27回定期演奏会を聴く~「電網郊外散歩道」2008年4月
(*2):学生さんの演奏なのでしょうか、曲はこんな感じです。Honegger String Quartet No.1 part.1~YouTube より。
Arthur Honegger - String Quartet №1 part1.

同じく part.2 はこんな感じ。
Arthur Honegger - String Quartet №1 part2.


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