電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

C.W.ニコル『盟約』を読む

2011年02月23日 06時04分41秒 | -外国文学
文藝春秋社の単行本で、C.W.ニコル著『盟約』を読了しました。上下二巻の物語は、同じ著者の『勇魚』(*)の続編にあたり、息子の三郎を中心とするものです。

カナダで暮らす甚助とスーザンとの間に生まれた三男・三郎は、母が生後すぐに亡くなってしまっているせいもあってか、血の気の多い乱暴者で、カナダの学校では人種的偏見に敏感に反応し、暴れてばかりで適応できません。相手を怪我させたときに、刃物を持っていた、という事態を重く見た父・甚助は、三郎を明治の日本に帰国させ、日本人の武術家の下で鍛えてもらおうと考えます。日本への航海で船乗りとして鍛えられた三郎は、その武術家のもとで心身を鍛え、江田島の海軍兵学校に入学して頭角を現します。仲間も出来て、優秀な成績で卒業、日露戦争の日本海海戦に従軍します。実戦経験を持ち、容姿端麗で語学に堪能な青年士官として英国に留学、実は海軍情報部員としての活動をする、というのが上巻のお話です。前著より成人向けの描写も増え、日英同盟の時代が描かれます。

これに対し、下巻では、海軍情報部員としての闇の活動が中心となります。前著『勇魚』とはずいぶん違った趣きを持ったお話です。ストーリーをあまり簡単に要約してしまうと面白さが半減してしまいますので、以下は省略いたしますが、三郎が父親の故郷・太地の浜を訪れ、アザミの花に来たスズメガをスケッチしているところへ、前著で夫を失ったおよしが老婆となって登場し、夫と同じ名を持つ若者と出会う場面はたいへん印象的。

もちろん、ツッコミどころは少なくなく、三郎は超人的な格闘技の強さを持つスーパーマンとして描かれ過ぎかも。それに、超美人だが麻薬中毒で性マニアという想定のロシア側スパイ・リリーとの腐れ縁は、愛があれば何でもありなのかと、当方、むしろ呆れてしまいます。全体に、前著よりもいささか極端な物語になってしまっており、作者の気性の激しさが出ているというべきでしょうか。

文春文庫で出ていたこともあるようですが、現在は品切れのようで、図書館で単行本を借り出しました。こんなときに、図書館はありがたいものです。

(*):C.W.ニコル『勇魚』上巻を読む~「電網郊外散歩道」2008年6月
(*):C.W.ニコル『勇魚』下巻を読む~「電網郊外散歩道」2008年6月
コメント (2)