電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

外山滋比古『思考の整理学』を読む

2009年10月05日 05時34分57秒 | 手帳文具書斎
ちくま文庫で、外山滋比古著『思考の整理学』を読みました。2008年大学生協調べで、「東大・京大で一番読まれた本」という帯のコピーに、まんまと引っかかった読者の一人です(^o^)/

本書の構成は、こんなふうになっています。

I. グライダー/不幸な逆説/朝飯前
II. 醗酵/寝させる/カクテル/エディターシップ/触媒/アナロジー/セレンディピティ
III. 情報の"メタ"化/スクラップ/カード・ノート/つんどく法/手帖とノート/メタ・ノート
IV. 整理/忘却のさまざま/時の試練/すてる/とにかく書いてみる/テーマと題名/ホメテヤラネバ
V. しゃべる/談笑の間/垣根を越えて/三上・三中/知恵/ことわざの世界
VI. 第一次的現実/既知・未知/拡散と収斂/コンピューター

冒頭の「グライダー」で、自分で物事を発明・発見し、論文をかけるようにならないと、コンピューターに仕事を奪われますよ、と導入し、最後の「コンピューター」の章では、記憶と再生に頼るのではなく、創造性が大切、と訴えます。この主張に対応する、様々な思考の特質とノウハウを紹介した内容になっています。著者は、1923(大正12)年生まれの世代らしく、手作業に基づく考察を展開している点で、パーソナル・コンピュータやソフトウェア、コンピュータ・ネットワークなどを取り入れた思考と生産のノウハウを紹介した野口悠紀雄氏の著書とはだいぶ肌合いが異なります。インターネットにどっぷりとつかった人間には、実用的な意味合いは薄いかもしれません。
ただし、II.で紹介される、時間をおいて醗酵させることや、異質なものを比較し・混合し・連想する意味などは、思考の特質をうまくとらえたものと思いますし、V.で指摘される、話すこと・仲間の価値・過去の知恵などは、本当に大切な指摘だと思います。III.のカードやノートやスクラップなどは、いささか古典的と言うか、古色蒼然たる感を免れません。IV.の整理・忘却・すてる、などの内容は、常識をひっくり返した面白さが、気が利いています。
ブログ等で記事を書く立場から言えば、「とにかく書いてみる」「テーマと題名」は参考になりますし、「ホメテヤラネバ」の章はまことにそのとおり。当方も、多くの読者の方々に、過分のおほめをいただき、ここまで書き続けることができました。

総じて、古い世代の碩学が、コンピュータを意識し、コンピュータにはできない、人間らしい思考の特質とノウハウを、親しみやすいエッセイの形で紹介した本であると言えます。ある世代には、「何を今更、当然でしょ」、という感を持つでしょうし、デジタルエイジにはたいへん新鮮に映ることでしょう。現代のデジタル書斎における実用的な意味では?ですが、思考の特質を把握することができるという意味において、面白い本です。
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