事のなりゆき

日々のなりゆきを語ります

逝ってしまった迎人④

2008-12-15 18:15:39 | Weblog
我が家に一冊の脚本がある。真っ黒の表紙に銀文字で「今日 悲別で」とある。その脚本の最終ページには倉本聰氏直筆のサインがしてあり、2001、1と黒のサインペンで少し斜めに記されている。21世紀初日のサインだ。もちろん我が家の宝物だ。これは倉本氏との思い出とともに迎人の思い出でもある。
2000年12月31日の美瑛は暖かった。雪が緩んでいた。一滴また一滴と屋根からのしずくが真下の雪原に穴を開けていく。「ぽた」。早春の音がしていた。「今日 悲別で」はご主人と行った。偶然席が取れたのだ。そんな電話を迎人からもらっていた。生で演劇を見る機会はほとんどない私だが、生の迫力に圧倒された。特に富良野塾の生徒たちは自給自足で演劇を学んでいる。そういったハングリーさというか必死さというのが伝わってきて、見入るというより演ずる塾生に飲み込まれたかのような錯覚に陥った。演劇は年をまたぐ設定になっているため、終わった時にはすでに21世紀になっていた。そこで終演後に倉本聰氏のもとへ走り、サインをねだったのだ。それほどミーハーではないと思っているが、その時は倉本氏に有無も言わせずにサインをねだったことを覚えている。ペンションに帰ってみると年越しそばが用意されていた。迎人の心遣いがうれしい。ご主人の出身地は十日町だ。だから妻有そばと説明してくれた。 その夜は深夜までいろんな話をした。倉本聰のサインを私はみんなに見せびらかし、自慢した。そんな話をしながら家族のように新年、新世紀をそばをかこんで祝った。そばを食べてみんなが健康で長生きできますようにとみんなで祝ったはずだった。しかしそれが迎人との最後になってしまった。
迎人の声が聞こえそうな・・。
富良野塾の起草文
 あなたは文明に麻痺していませんか
 石油と水はどっちが大事ですか
 車と足はどっちが大事ですか
 知識と知恵はどっちが大事ですか
 批評と創造はどっちが大事ですか
 理屈と行動はどっちが大事ですか
 あなたは感動を忘れていませんか
 あなたは結局何のかのと云いながら
 わが世の春を謳歌していませんか
                     倉本聰
(富良野GROUPホームページより)

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