晴明がレンと呼ぶようになってから半月が経ったが...レンの方からは此と言った返答は無い。
ただ..晴明が修業の時は必ず縁の下辺りから様子を伺う様な気配が感じ取られる。
晴明「レンよ...こちらが気になるのなら..そん所に隠れていないで上がってこい。」
レン「...........。」
晴明「可笑しな奴だ! はははっ。」 神通力も使える様なのだが?
ある晩..村人が晴明の元へ頼み事を持ってきた。屋敷の中で村人と晴明があれやこれやと話し合っている。
村人「もーう我慢出来ない...いくら晴明様の頼みでも..我々にも生活が命が掛かってるんだ!! 晴明様が退治してくれないなら..オラ達でやるだ! 昨日..皆で決めたんだ..これ以上..畑を荒らされたら俺達も生きちゃいけねぇ!!」
晴明「二日後の満月まで待ってはくれぬか! 大人しくさせる術が完成するのだ。あやつも命懸け..お前達もただでは済まないぞ!! それでも良いのか!!」
村人「晴明様..本当に後二日辛抱すれば良いのですね!!」
晴明「あーそうだ..私に任せろ!!」
村人達は少し硬い表情だったが...晴明に任せる事にして帰って行った。
そんな出来事があった次の晩の事である。 晴明は朝から姿を見せないレンに一抹の不安を抱いていた。 まさか..その嫌な予感が的中する事になるとは......。
レンが大きなイノシシをくわえて来た..自分の体の四倍は有ろうかという大物だ!!
それは晴明が村人達から大きな猪に畑を荒らされて困っている...何とかならないかと頼まれていた奴だ。晴明は猪が畑を荒らさず..どうにか森の奥で生きられるよう考えていたのだが.....。
軒下で村人と晴明の会話を聞いていたのか....レンが血まみれになって仕留めてきたのだ。
晴明「レンそれは私に対して..日頃のお礼のつもりで仕留めてきたのか? そんな傷だらけで血塗れになって...。取り敢えずは有難うと言っておこう! ただ..私は焼き魚で充分だ。その猪は畑を荒らされた村人達の所へ持って行ってやれ! 喜ぶ事だろう。お前も村人達と命の重みを噛みしめながら食べると良い....。生きる為に食べるのだから...食べられる事に感謝して。」
晴明はレンの事が心配になった。良からぬ方向へ進みはしないかと...命と言うものを軽んじはしないかと.....。レン自身は気付いてはいないがレンの体の奥底に凄まじい力が隠れている事を...。
晴明「あの猪にも守るべき物が在ったかもしれぬ。生きるとは..残酷で儚い物だな....。」
次の朝の事だった...縁の下からレンが神通力を通して晴明に語りかけてきた。
突然の事に驚いた晴明だったが冷静を保ち..レンの言葉に耳を傾けた。
レン「晴明様..勝手な事をして御許し下さい。二度と勝手な真似は致しません...ですから後少しだけ晴明様の側に居させて下さい。」
レンは晴明と暮らしてきたこれ迄の事を思い出していた。得体も知れぬ自分の事を暖かく優しい眼差しで見守ってきてくれた。毎日毎日欠かさず...何も言わず...焼き魚を置いておいてくれた。
レンは知っている...釣りをして一匹しか捕れなかったのに其の魚を自分の為に差し出してくれた事。術を使えば魚なんて何匹も捕れるのに....。
レンは自分の中で晴明が..自分を生み出しでくれた物と似た存在だと...。 そんな想いが重なった。
晴明「レン...上に上がって..私と一緒に焼き魚を食べないか! 実は今日..これ迄に釣ってきた魚の中で一番大きな奴が釣れたのだ。 大きすぎて一人じゃ食べきれないからな! はっはは。」
晴明の前には1メートルは在ろうかと言う大きな岩魚が横たわっている。 こいつを釣り上げるのに三年かかったなどと..訳の解らぬ事を言ってるかと思へば...何処から調達したのか? 巨大な七輪が裏庭に置かれた..。 全身..真っ黒になって備長炭を七輪の中へ...上には巨大魚!!笑
ぼわっと火を着ける。大きな火柱が立ち昇る。
晴明「そろそろ..良いな♪」 晴明は大きなウチワで焼き魚の煙を縁の下へと送り込んだ!!!
レン「ごほ..げほ..くるじぃーいい!!」 レンは堪らず外へと飛び出した。
晴明「おぉーお!!レンょ♪遂に焼き魚の香ばしい匂に誘われて出て来たな。」
レン「ごほ..ぶほっ...晴明様..うげげ...煙が...煙が...。」
これを機に晴明とレンは屋敷の中で食事をとる様になった。
晴明にとってもレンと共に食事をとる事は...これ迄に無い嬉しい事だった。ずーっと一人だけの暮らし...心の片隅の中に密かに望んでいた想い。今..その想いが目の前にある♪ まるで弟子か弟でも出来たかの様な至福の時。 一年が過ぎ..二年が経ち...平穏な日々が逸までも逸までも....。
おわり