奈良のむし探検

奈良に引っ越しました。これまでの「廊下のむし探検」に倣って「奈良のむし探検」としましたが、動物・植物なんでも調べます。

ハグロハバチの検索

2021-04-07 20:46:41 | 虫を調べる

先日、用水路脇の草むらでハバチを採集してきました。たぶん、ハグロハバチだろうとは思ったのですが、最近、「日本産ハバチ・キバチ類図鑑」を購入したので、それに載っている検索表を試してみることにしました。ハグロハバチについてはこれまでに一度調べてみたことがありました。その時の結果はこちらこちらに載せています。その時は、「絵解きで調べる昆虫」と「大阪府のハバチ・キバチ類」に載っている検索表を用いたのですが、今回は新しい検索表なので楽しみでした。実際にやってみると、翅脈に関する項目が多くて、意外に難しかったです。それで、その記録のために、特に翅脈に関して書いておこうと思いました。

最初に検索に必要な各部の写真を撮っておきました。いずれも、実体顕微鏡下で焦点位置を変えて30枚ほどの写真を撮り、combineZPというフリーソフトで深度合成をしたものです。最近、デスクトップパソコンを買い替えたので、びっくりするくらい計算が速くなりました。

問題は翅脈です。これは「日本産ハバチ・キバチ類図鑑」の形態用語に載っている図を参考にして、翅脈に名称を付けたものです。ただし、ハバチの種類によって、翅脈が退化したり、変形したりするので、結構、難しい作業です。

さらに、翅脈の名称は文献によっても大きく変わります。この写真は次の本に載っている名称を採用したものですが、黄字の部分が上記の翅脈と異なっています。従って、検索表を作る時には必ずどういう方式の翅脈名を用いているかを明記すべきだと思うのですが、意外にこれが守られていません。この本について言えば、科の検索は絵解きになっていて分かりやすいのですが、亜科、属、種はまったく図が無くなるので、形態用語に載っている図をしょっちゅう見ないとなかなか分かりませんでした。せめて科か亜科の検索表のところに代表的な形態図が欲しいなと思いました。ハグロハバチについて言えば、属の検索表に「⑲前翅のRs脈は欠失する」という項目があるのですが、初め、この意味がまったく分かりませんでした。後でこのことは説明します。

H. Goulet, "The Genera and Subgenera of the Sawfliew of Canada and Alaska, Hymenoptera: Symphyta", The Insects and Arachnids of Canada, Part 20, Res. Branch, Agriculture Canada (1992). (ここからダウンロードできます)

科、亜科、属、種の検索表で、ハグロハバチに至る項目を拾っていくと次のようになります。

①腹部は基部や基部近くで細くならない。・・・
②中胸盾板を横断する縫合線または溝がない
③前脚脛節先端の距は2本
④前翅はSc脈がR脈と融合し、先端の横脈状部分のみ分離する
⑤触角は5節以上。第3節は触角の半分以下の長さ
⑥触角は糸状、鋸状、櫛状。腹部第1背板は側方で後基節から広く離れ、後胸側板と融合しない
⑦触角は9節で糸状、時に7~8節か10~17節で糸状、または9節で櫛状。ハバチ科
⑧触角は9節以上。
⑨触角は9節だが、ごくまれに8節
⑩前翅は2r-rs横脈を持つ
⑪【前翅はR脈(またはSc+R脈)がM脈と交点の前で後方に曲がることはなく、2A+3A脈は途中で消失するか1A脈と融合する。後翅は2r-m脈とm-cu横脈の両方を持つ】という形態と一部またはすべてが異なる
⑫前翅はR脈(またはSc+R脈)がたいていM脈との交点の前で後方に曲がらない。後脚第1跗節先端後方に刺状突起はない
⑬前翅はRs+M脈が直線状か、あるいは基部で縁紋方向に弱く曲がる。2A+3A脈はしばしば途中で消失するか1A脈と融合し、完全に認められる場合は常にA室に横脈がある。後翅は2r-m横脈とm-cu横脈の両方を持つか、いずれか一方または両方を欠く
⑭前翅は2A+3A脈が完全に認められ、基方1/4付近で1A脈に近づくか接し、A室の中央から先方1/4の間に横脈がある
⑮眼縁部に大きな点刻がないか、あるいは後眼縁部にのみ大きな点刻が並ぶ
⑯前翅1M室は後先方の角が明らかに90°を超える ハグロハバチ亜科
⑰触角は9節
⑱後胸後背板は広く、中央で狭まらない。大顎の形は左右非対称
⑲前翅のRs脈は欠失する
⑳後翅に閉じた室はない

㉑触角は腹部より短い ハグロハバチ属
㉒翅は全体が透明または暗色を帯びる
㉓前翅のM脈と1cu-a横脈はCu脈上で接して出会う。触角第3節の長さは第4節の約1.5倍
㉔上唇は黒色。腹部第1背板の両側は白色で、第8及び第9背板の中央に白紋がある。翅は通常全体に強い暗色を帯び、時に暗色の薄い個体がいる ハグロハバチ

このうち翅脈に関する項目を赤字で示しました。実に、こんなに多くの数の項目があります。今回はこの翅脈に関する部分だけ写真を見ながら確かめていきたいと思います。

最初はSc脈に関するものです。通常、Sc脈はC脈とR脈の間に起源を異にして存在するのですが、このハバチに関してはそんな翅脈はありません。ただ、R脈とC脈を斜めに結ぶ横脈(黄三角)だけが見られます。これをSc脈だと考え、さらにSc脈の基幹部はR脈と融合していると解釈します。これが④の内容です。

⑩は写真で示した横脈です。さらに、ハバチ亜科などはR+Sc脈がM脈と合流する直前(黄三角)で後方に曲がります。ハグロハバチは直線的なので⑪はOKです。⑯は橙三角で示した部分が鈍角であることを示しています。

2A+3A脈は前翅後縁に達する直前に1A脈と融合します。従って、この両方の項目は共にOKです。A室は横脈aにより区切られ1Aと2Aという二つの翅室に分かれています。

ハグロハバチの後翅には2r-mとm-cuという二つの横脈(破線)が共にありません。

さらに、前翅では黄三角で示したRs脈(破線)も欠如しています。これが⑲で示した内容でした。従って、Rs+M脈は途中までで、その先はM脈になります。

これは後翅に関することですが、先ほども書いた2r-mとm-cu横脈が共に欠如しているので、黄三角で示した翅室が共にありません。

最後は㉓で、M脈と1cu-a脈はほとんど接するくらい近くで分岐しています。翅脈の話は結構ややこしいので、記憶のために書いておくことにしました。



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