ナナッテ先生のおせっかいブログ

自己実現のために……

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

2-3 離婚を促す心理メカニズム

2019年11月12日 | 『少子化問題を考える』



2-3 離婚を促す心理メカニズム


 子どもが2歳、つまり3歳になる前に離別・離婚を促す心理的なメカニズムは他にもあるようです。

他人の子なのに可愛い

 ある時の知人との会話。
 「お子さんはいらっしゃるの」
 「はい」
 「おいくつ」
 「2歳です」
 「可愛い盛りね」

 親にとってわが子はいつでも可愛いはずなのに、なぜこの人は時期を限定するのだろうと、私は違和感を覚えました。でも、2歳を可愛い盛りとする意見は他にもあるようです。

 先日参加した集会に出席者が2歳のお譲ちゃんを連れてきました。愛くるしい笑顔や天真爛漫なしぐさ……に大人たちはメロメロ。普段は仏頂面・しかめっ面のおじさんでさえもニコニコしながら話しかけていました。

これは一般的なのでしょうか。
右の体験だけでは満足いかない私は、インターネットで「可愛い盛りはいつ」と検索してみました。たしかに、2歳が最も可愛いとするのが多数派のようです。「子どもは3歳までに一生分の親孝行をするけれど、2歳はその絶頂期」とする意見も散見されました。
 どうやら、2歳児の可愛さは無敵のようです。

 これも実子でなくても育てようとする共同養育を促進するための心理的メカニズムかもしれません。他人の子であっても「可愛い、だから世話をしたい」という動機づけになるからです。

 昔の人は、2歳児を連れた親に「子育てが嫌なら無理しなくてもいいよ」「後は任せなさい」と言い寄ることもあったでしょう。その原動力となる感情がわくように遺伝子に刷り込まれたのではないでしょうか。

物心つく前に

 次に取り上げる心理的なメカニズムは、子から小さい時の記憶を消し去ることです。

 記憶は3歳位までさかのぼることができるものの、それより前はムリという人が多いようです。
 私の記憶で最も古いのは、引越しです。土砂降りの雨の中を私たちの乗せたジープ(四輪駆動車)が疾走するシーンが刺激的だったから記憶に残ったのでしょう。後年両親に尋ねると、私が3歳の時だったそうです。
 しかし、それより前の記憶はありません。「いつも近所の木にまたがっていた」「○○さんに可愛がってもらった」……と母がエピソードを語っても、全く思い出せないのです。

 このようにある時を境に、覚えている、覚えていないと年齢的に線引きができるのも不思議と思いませんか。
2歳以下の記憶であっても、まだらに残っていてもよさそうなものです。
これも共同養育を容易にしているのではないでしょうか。小さい時の記憶を残さない方が新しい親との関係を作るのに都合がよいからでしょう。

 子どもを抱えて離婚した人に、あるいはパートナー・配偶者を亡くした人に対して、年長者が、「再婚するなら、子が物心つく前がよい」とアドバイスすることがあります。
 2歳と3歳とでは、なつきかたが違うことを経験則で得たのでしょう。


7:34 2019/11/12












コメント

2-2 イヤイヤ期の本質

2019年11月12日 | 『少子化問題を考える』


2-2 イヤイヤ期の本質

「自我の目覚め」で片づけていいのか

 子どもは2歳になるころにイヤイヤ期を迎えます。何でもかんでも「イヤーッ!!」と拒絶するあれです。それまで天使だったわが子が手に負えない野獣、あるいは悪魔のようにも見える時期です。海外では「terrible two(魔の2歳児)」ともいわれます。

 電車の中で、スーパーなどの店舗で……泣き叫ぶのを見かけますね。何がイヤで何が望みなのか説明してくれれば対処のしようもあるのですが―。
理不尽な欲求に、あるいは意味不明な欲求に親は右往左往。

 イヤイヤ期については研究があまり進んでいないようです。「親はどう対処すべきか」という議論は盛んですが、私が知る限り、他の視点に立っている議論はほとんど聞きません。未開拓の分野といってもよいでしょう。それは確たる定義がないことでも分かります。定義はあらゆる学問において議論の出発点。定義なくして議論なしといってもよいくらいです。
通常であれば、インターネットで「イヤイヤ期とは、」をキーワードに検索すれば、それらしきものがヒットするのですが、グーグルでもヤフーでもヒットしません。そこで、私なりに定義を考えてみました。
イヤイヤ期とは、幼児の成長段階を示す言葉であり、自己主張を始める時期をさす。「魔の2歳児」と呼ばれることもある。主張が認められない、あるいは欲求が充足されない場合、癇癪を起こしたり、激しい拒否反応を示すことが多い―。こんな感じでいかがでしょうか。

 イヤイヤ期は、「子どもの自我の目覚め」と子ども主体に捉えられてきました。そのため第1次反抗期であるとする立場もあります。たしかに、親の加護にくるまれていた乳児期と異なり、自己主張が始まる時期です。しかし、遺伝の見地からは、違った意義・目的があると考えることができます。

 イヤイヤ期を前章で述べた共同養育という生存戦略の観点から考えることはできないか―という問題意識が本書のキモ、核心です。次のページから詳述いたします。

ネコの生存戦略

 山根明弘氏(西南学院大学教授 理学博士)の研究によると、ネコのメスは繁殖期を迎えると、仲間をさしおいてよそ者のオスと交尾するといいます。
 氏は、「ネコの島」として有名な福岡県の相島(あいのしま)で長年にわたりフィールドワークを行ってきました。200匹ものネコを1匹ずつ個体識別した氏の研究により今までに知られていなかったネコの生態が明らかになってきました。私が、特に関心を持ったのは多様性の確保です。

 相島では、地域ごとにネコのグループがいくつかあるとか。グループといっても、群(むれ)というほど強力な絆で結ばれたわけではなさそうです。ゆるい地域コミュニティみたいなものでしょうか。そして、ネコの間で地域(縄張り?)を越えての交流はありません。ところが、繁殖期になると、メスは仲間のオスにぐるりと囲まれているにもかかわらず、隙をついて異なるグループのオスと交尾するといいます。
 この行動の背景は何でしょうか。
おそらくメスネコは、近親交配は生命力を弱めることを知っているのでしょう。誰に教えられたわけでもなく、種の多様性を確保するために、あえて他のグループのオスと交わることで生命力の強い子が生まれるということを経験で学んできたのかもしれません。そのため仲間、あるいは家族を裏切るような行動にでる―。ネコの生存戦略の一環といってよいのではないでしょうか。

 地球の環境は、時代的にも地域的にも普遍的(不変的)ではありません。温暖期と寒冷期が交互にやって来ましたし、植物が豊かに育つ時代・地域もあれば、そうでない時代・地域も。あらゆる生物は、そうした環境の変化、食糧事情の変化……に対応できるよう、多様性を確保する努力を続けてきたのです。

 人間にも多様性を確保するための生存戦略があるようです。その最たるものが、「女の子の思春期」です。幼少期は「パパ、パパ」と甘えていたのが、いつのまにか父親と距離をとるようになります。「お父さん、臭い」「お父さんの服と一緒に洗わないで!」……などとキツい言葉を浴びせることも。
 このような手のひら返しは、近親交配を避けるためといわれています。倫理・道徳の面もあるでしょうが、「近親交配は生命力を弱くする」という経験則が遺伝子に刷り込まれ、時期が来るとそうさせるのでしょう。

余談ですが;
 哺乳類は、同一種のままで多様性を確保してきました。他方、昆虫は、種そのものを増やす戦略をとっているようです。確認されただけでも、約100万種とか。


妊娠は2年ごとに

 グラフをご覧ください。霊長類の妊娠間隔を示すものです。


 

 これによると、オラウータンの場合、妊娠と次の妊娠までの間隔が約7年であるのに対して、ヒトは約2年です。一概に2年とは言いきれませんが、2~3年のスパンで子をもうける夫婦が多いのはたしか。

現代では、子どもの受験を考えて計画的に子を設けるカップルもいるようです。受験は、精神的なストレスを家族に与えますから、高校受験と大学受験が一度に済むようにという考えがあるのでしょう。
いずれにせよ、2年~3年の間隔が一般的のようです。兄弟間の年齢が近いと「年子なんだ」と、長いと「年齢差がある兄弟だね」……と違和感を示す人もいるくらいですから。
とはいえ、他の霊長類と比べ、ヒトの妊娠間隔が短いことの不自然さはぬぐえません。
この点について、山極壽一氏(京都大学総長 霊長類学)は、「妊娠のサイクルを短くして多子化・多産をはかった」と解きます。次の妊娠まで本来は5年~7年かかるところ、意図的に短縮したのでしょう。
 独り立ちまで母親が子育てに従事するのが理想ですが、数を増やすためには、できるだけ妊娠と妊娠の期間を短くして、新たに子を設けることが望ましいわけです。 そこで、子どもが2歳になると、親子関係を解消することにした、それが人類の生存戦略―と解することができます。

余談ですが;
 クマは、生後1年くらいで「子離れ」をするようです。それはそれは、見事な手のひら返し。ある日を境に、母グマは子グマを突き放すのです。突然に親子関係から敵対関係へ180°転ずるといいますから、コペルニクスもびっくりの転回ですね。

 人間は、他の動物に比べ成長が遅いというか、大人になるまでに時間がかかる動物です。だから、2歳での独り立ちはムリ。そこで、妊娠間隔の短縮と子育て期間の確保という相反する問題を同時に解決すべく共同養育のシステムを構築したのです。
 「子どもは2歳になったのだから、もう大丈夫。後は私たちが育てるから、あなたは次の妊娠の準備をしなさい」と働きかけて親子の関係を断つ。さらには、「あなたは別のパートナーを見つけて、その人との子を設けなさい」と働きかけて夫婦の関係をも断つ。そして、実親でない者による養育へと移行する―そういう共同養育のシステムを構築した。そう考えることはできないでしょうか。


余談ですが;
 かつて地球上には、我々ホモサピエンスとは傍系にあたるネアンデルタール人が存在していました。彼らは、屈強であったにもかかわらず、滅亡しました。その理由は、喉があまり発達していなかったので音声表現が上手でなく文化の継承がなされなかった、男女の役割分担がなされていなかった(全員が狩猟に参加?)……などといわれています。加えて、共同養育がなされていなかったのではないでしょうか。あくまで私の想像ですが。

 「甘い新婚生活もせいぜい3年」といいますが、夫婦間の関係が悪化するのは、この多様性を確保するためではないでしょうか。営々と積み上げた生存戦略が遺伝子の情報に組み込まれて、それがタイムスイッチの働きでテストステロンのような攻撃性や敵対感情をもたらすホルモンが分泌されるのかもしれません。
幸せホルモンとして知られるオキシトシンの副作用とする立場もあります。「オキシトシンは愛情を強めるホルモンといわれてきたが、愛情を邪魔する相手には攻撃性を強めるはたらきもある。たとえ夫でも」と唱えるのは、ジェニファー・A・ハンホルブルック氏(チャップンマン大学心理学部 准教授)。

 その生存戦略とイヤイヤ期に何の関係があるのかというと、それは親子の関係を解消しやすいための工夫ではないでしょうか。

 写真をご覧ください。ライオンの親子です。

  
(C) アフロ

母親が子どもを咥えています。子どもを危険な場所から安全な場所へと移しているのでしょう。ネコ科の動物によくみられるシーンです。
この時、子どもはどうしていますか。なされるままにしています。たとえ直前まで暴れまわっていたとしても。見方を変えると、体を丸めた姿勢を保つことで、母親による救命行動に「協力」していると見ることもできます。ここにも生存戦略があります。危険を回避、そして生き残るために双方が協力する例です。

 子どもが「イヤーッ!!」とだだをこねるのは、「こんな子、もう知らない!!」と思わせて、離別の際に罪悪感を残さないような工夫かもしれません。



7:33 2019/11/12


参考:
「『イヤイヤ期』再考」坂上裕子『教育と医学』2018年 12月号
『ねこの秘密』山根明弘〔文春新書〕
NHK『ダーウィンが来た「北の森のオキテ 母グマ愛情物語」』2010年7月4日放送
NHK 日曜カルチャー「人間を考える~人間へのメッセージ」山極壽一 2014年12月7日放送
NHK『あさイチ』「夫婦を壊す?!“産後クライシス”」2012年9月5日放送
攻撃性と不安が増強される! 幸せホルモン「オキシトシンの副作用」とは?
https://re-curious.com/oxytocin-side-effect/

コメント

2-1「離婚適齢期」

2019年11月12日 | 『少子化問題を考える』


2-1「離婚適齢期」


 「子は鎹(かすがい)」という言葉があります。子どもの存在が夫婦の絆を強めてくれるという意味ですね。たしかに、子どもは、いつでも夫婦間の共通の関心事です。喧嘩の絶えない夫婦でも、子どものためなら一致団結することもしばしば―。

 一方で、「あの夫婦は子どもがいないから、いつまでもラブラブなのよ」ともいいますね。これは、子どもがいることでかえって夫婦間の愛情が冷めることが多いことを言い表しているのでしょう。実際、子どもがいるカップルの方がいないカップルより離婚しやすいといいます。それを裏付ける数字があるのです。
 最新のデータによると、1年間に離婚したカップルのうち、子どもありが14万3,834組、子どもなしが10万7,302組となっています(『離婚に関する統計』厚生労働省)。その比率は、およそ3:2。子どもがいると離婚率が高まると示しているのです。どうやら「子はかすがい」ではなさそうです。
 もっとも、このデータは子どもについて「親権を行わなければならない子」と定義しています。これでは0歳から19歳までの広範囲にわたり、中には成長して養育を必要としない「子ども」も含まれます。
 そこで、実態をもっと細かく表しているデータもご紹介しましょう。次のグラフをご覧ください。離婚時に末子は何歳だったかを示しています。

「母子世帯になった時の末子の年齢」

平成28年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告」厚生労働省
をもとに作成

 これによると、離婚時に末の子どもが3~5歳だったというのが401世帯なのに対して、0~2歳は792世帯と、わずかな年齢差でも顕著な違いが。子どもが2歳未満のときに離婚したカップルが圧倒的に多いことが分かります。逆にいうと、この時期に離婚しやすいといえます。いうなれば「離婚適齢期」。
 
 この2歳という時期に特別な意味がありそうです。 次項でさらに掘り下げることにしましょう。

余談ですが;
 ミツバチのオスは、交尾の直後に死んでしまいます。ミツバチに限らず、ほとんどの生物において、男女間の「愛」は交尾の瞬間だけのようです。ところが、人間の場合、すべての夫婦が子どもが2歳になったからと離婚するわけではなく、長年連れ添う夫婦も珍しくありません。なぜ人間の愛は長持ちするのでしょう。それは、カップルで子育てにあたった方が子どもの生存率が高くなるからです。





7:31 2019/11/12











参考:
『愛はなぜ終わるのか』ヘレン・E・フィッシャー〔草思社〕
『NHKスペシャル「女と男」~最新科学が読み解く性~第1回 惹かれあう二人 すれ違う二人』2009年1月11日放送
NHK『あさイチ』「夫婦を壊す?!“産後クライシス”」2012年9月5日放送
働く妻と専業主婦の「幸福度格差」が示す、日本社会の厳しい現実(佐藤一磨) | 現代ビジネス
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67894

コメント

1-3 赤ちゃんの営業スマイル

2019年11月12日 | 『少子化問題を考える』



1-3 赤ちゃんの営業スマイル


 空前のペットブームです。テレビではペットを取り上げた番組が目白押しですし、ホームセンターに行けば、
ペット用品が百花繚乱です。あちこちで「可愛い」と声が上がります。

 そんなペットブームの中、ついに犬と猫の数が子どもの数を超えてしまったとか。
 子どもの数は1553万人(2018年「人口推計」総務省統計局)。対して、ペットとして飼われている犬は約890万頭、猫は約964万頭。合わせてざっと1854万頭(2018年「全国犬猫飼育実態調査」ペットフード協会)。なんと、子どもより犬猫の方が300万も多いのです。

余談ですが;
 「子ども」の定義は、定まっていません。人口の統計では15歳未満ですが、刑法上は14歳未満です。また、交通機関では12歳未満ですね。

 ここで素朴な疑問、そもそも可愛いという感情はどこから湧き出るのでしょうか。全ての動物が持つ感情なのでしょうか。
ライオンが子ウサギをみて「あら可愛いウサちゃん」とペロペロと舐めるでしょうか。ワシがひよこに「可愛いね。これをお食べ」と餌を与えるでしょうか。わが子が可愛いとするのは、どの動物にも共通します。しかし、他人、いや他種の動物まで可愛いと感じるのは人間だけかもしれません。
 その感情の源は、「一寸の虫にも五分の魂」に表れるような殺生をしてはいけないという宗教観でしょうか。それとも徳川綱吉の「生類憐みの令」の影響でしょうか。しかし、どの時代も、どの国でも……赤ちゃんを可愛いと感じるようなので、人間が普遍的に抱く感情といってよさそうです。
私は、この「可愛い」という感情は、生存戦略の一つである考えています。

余談ですが;
 従前は、暗愚だとされた徳川綱吉は、実は名君だったと評価が変わっています。綱吉が将軍になる前は、戦国時代の殺伐とした空気が残っており、命を軽んじる風潮が蔓延していました。それを平和な社会へ導く端緒になったのが「生類憐みの令」なのです。ただ、行き過ぎた取り締まりのせいで後世の評価を下げたようです。ついでに付け加えると;鎌倉幕府の成立は1192年ではなく、1185年に変更されました。「歴史」は固定的なものではなく、流動的なのですね。

 娘が生まれた時、私はそれほど嬉しくはありませんでした。
 親としての責任が生じたので、「やっかいなことになった」と思いました。同時に、赤ちゃんが、甘い新婚家庭に侵入してきた「おじゃま虫」にさえにも見えました。

 ところが、生後3カ月頃だったでしょうか。娘を抱きかかえると、大輪の笑顔を見せてくれました。それは、「パパ、大好き」といっているようで、私は歓喜に震えました。それからというもの、自他共に認める子煩悩になったのです。

 後に知ったのですが、これは発達心理学にいう「三カ月微笑」であり、どの赤ちゃんにも見られる現象とか。娘が私に対して「パパ、大好き」というメッセージを送ったわけではなかったのです。
 冷静に考えれば、生後3カ月の赤ちゃんが、巧みに感情表現ができるとは思えません。あの微笑は「ちゃんと育ててね」、あるいは「可愛がってね」というアピールだったのでしょう。つまり、「どうぞ、ごひいきに」というキャバクラ嬢も顔負けの営業スマイルだったのです。

 これは共同養育を促すための“遺伝子のタイムスイッチ”が入ったためではないでしょうか。そのメカニズムはというと―。
 動物の社会では出産後に母親が亡くなると、子は直ちに死の危険に直面します。人間の場合、他の動物と違って個体数が少ないので、「せっかく生まれてきたのだから、何とかして皆で育てよう」という意志が共同体に強く働いたのでしょう。いわば、危機管理あるいはリスクヘッジとして共同養育のシステムを構築したといえそうです。
 その結果、実子でない赤ちゃんも可愛いと感じるようになった。そして、大人たちにその感情を誘発するような仕草を赤ちゃんもするようなった。その一つが微笑であり、生後3カ月になると、そのスイッチが入るように遺伝子に仕組まれたと解することができます。
 それが三カ月微笑の背景ではないでしょうか。
 
 冒頭のように動物を可愛いとする感情は、その波及的な効果ではないでしょうか。小さくて頼りない存在を慈(いつく)しみたいと思わせる点では赤ちゃんもペットも同じですから。

 ところで、なぜ生後3カ月なのでしょうか。そういえば、生まれたばかりの赤ちゃんは、さほど可愛いいとは思えないという方も多いようです。

 それは近寄りがたいからでしょう。生まれたばかりの赤ちゃんは、とてもか弱い存在なので、抱っこを躊躇してしまいますね。このためらいが可愛いという感情を抑制するのでしょう。
可愛いという感情を抱く条件として、小さければよいというものではなく、「撫でたい」「抱っこしたい」……等の接触の意欲を含むとされています。また、抵抗力が弱いので、親の「気安く触わるな」という気持ちを察しているのかもしれません。

 これには二足歩行も影響しているとも思われます。二足歩行により骨格が変わり、産道が狭くなったので、胎児が十分な生育してからでは難産になってしまいます。加えて、脳の発達で頭が大きくなったことも早めの出産を促しているようです。だから、本来より早めに産まれるようになったのでしょう。
生まれたばかりの赤ちゃんは、本来は胎児であり、非常にデリケートなので近寄るべきではないという考えになったのでしょう。
 生後3カ月くらいの時間がたった頃が、本格的に人間社会にデビューするのにふさわしい時期としたのかもしれません。その合図として微笑を始めるのではないでしょうか。

 なお、この微笑には、先述の産後うつに悩む母親を元気づける役目もあるのではないでしょうか。



7:29 2019/11/12







参考:
『赤ちゃんと脳科学』小西行郎〔集英社新書〕
NHK『又吉直樹のヘウレーカ!「“かわいい”ってどういうこと?」』2019年4月17日放送
















コメント

1-2 産後うつはなぜ起こる

2019年11月12日 | 『少子化問題を考える』


1-2 産後うつはなぜ起こる


 「産後うつ」は、共同養育を促進するための生存戦略とわかってきました。産後うつとは、母親が出産後に発症するうつ状態です。不安や孤独を感じやすくなります。重い場合は、乳児を虐待したり、母親自身がノイローゼとなり自殺することさえあります。
 下のグラフは、産後1年までに死亡した妊産婦の主な死因を示しています(2015年から2016年の2年間)。これによると、もっとも多いのは自殺で、102人となっており、がんや心疾患などの疾病を上回っています。


厚生労働省の資料をもとに作成

 赤ちゃんの誕生はめでたいことです。かといって、お母さんは、毎日幸せいっぱいというわけにはいかないようです
 「おっぱいは足りているか」と不安になったり、「なぜ泣くの」と自信をなくしたり、時には「もう赤ちゃんなんか いらない」と窓から投げたいという衝動にかられることも。葛藤の毎日なのです。
 その葛藤の原因は「産後うつ」。産後うつの発症割合は、出産・育児に無関係な一般的うつの4倍とか。原因物質は、女性ホルモンのひとつ「エストロゲン」とされています。エストロゲンは、出産を境に急減します。すると不安や孤独を感じやすくなるのです。実際、70%の母親が不安・孤独を感じるという調査結果もあるくらいです(「子育てに関する意識調査報告書」内閣府)。

 松沢哲郎氏(京都大学霊長類研究所 教授)によると、チンパンジーは5年間つきっきりで子育てにあたるが、孤独感に苦しまない―といいます。
 どうやら、産後うつは霊長類全般の症状ではないようです。むしろ人類が進化の過程で独自に編み出した生存戦略といってよいのではないでしょうか。

  産後うつがもたらす不安・孤独感が、母親が誰かを頼るように仕向けるのです。
 乳児は生命力が弱いので、子育てを経験浅い母親の「孤育て」にしておくと、丈夫に育たないおそれがあります。しかし、むやみに他者が介入すると加害行為とみなして、子どもを守ろうとする防衛本能が働き、母親が「反撃」にでるかもしれません。サルなど動物の世界では、子どもを抱えた母親に近づくだけでも歯をむいて威嚇するではありませんか。
子育てに限らず、よかれと思ってのアドバイスも、「余計なお世話よ」と反発されることがありますね。あの心理と同じです。

 前項で述べたように、人間は集団行動で狩りをして生き延びてきました。狩りは危険なので、亡くなるメンバーも多かったでしょう。グループの規模が小さくなってしまうことは死活問題です。乳児は生命力が弱いですから、リスクヘッジとして、集団で子育てを行っていたはずです。
したがって、皆が子育てに参加できるような仕組みが、遺伝子に刷り込まれても不思議はありません。それが、適時にスイッチが入って発症するのでしょう。その一つが産後うつ。
松沢氏は、共同養育の本質をこう説きます;「人間は進化の過程で必要な時には子供を預けられるようにできている。助けなくして子育てはできないようになっている」。
 どこに助けが必要なのかを知らせるのが、産後うつの役目ではないでしょうか。

余談ですが;
 人間は、新しい環境に入った直後は無我夢中で気が張っているので、健康状態を保っています。しかし、少し慣れて、ほっと一息ついた頃に風邪をひくなど体調を崩しがちですね。
新米ママたちも出産直後は緊張感でいっぱいですが、少し落ち着いてくると「私の育児は間違っていないかしら」「夫は、仕事にかまけてちっとも育児をシェアしてくれないし、理解すらしてくれない」と不安や不満が募り出す頃です。そんなマイナスの感情が募ると、産後うつになりやすいのではないでしょうか。

 ところで、産後うつに限らず、人間の感情は理路整然に説明できるものではありません。「可愛さ余って憎さ百倍」のように相反する感情に転じることがありますし、場合によっては、同時に起こることも。これをアンビバレンスといいます。母親が赤ちゃんに対して「あなたは可愛い」と「あなたのせいで私の自由がなくなった」と相反する感情を同時に抱いたとしても不思議はないのです。
ですから、虐待防止という観点からも、母親が一人きりで子育てをするのは無理があるし、危険でもあるのです。

余談ですが;
 愛知県で生後11カ月の三つ子の次男を母親が暴行して死亡させた事件。傷害致死の罪に問われた母親に対し地裁につづき高裁も実刑判決を下しました(2019年9月24日)。
産後うつの本質と多胎児を育てる実態を十分に考慮していない不当な判断といわざるをえません。

 くり返しますが、産後うつは共同養育を促し、種の保存をはかるための生存戦略であり、それが、進化の過程で遺伝子に刷り込まれたと理解することができます。
産後うつの他にも、遺伝子に刷り込まれた生存戦略があっても不思議はありません。次項から順次に詳述することにします。


余談ですが;
後掲番組のサイトは、産後うつについて こう伝えています。
なぜそんな一見迷惑な仕組みが体に備わっているのか?その根本原因とも考えられているのが、人類が進化の過程で確立した、「みんなで協力して子育てする」=「共同養育」という独自の子育てスタイルです。人間の母親たちは、今なお本能的に「仲間と共同養育したい」という欲求を感じながら、核家族化が進む現代環境でそれがかなわない。その大きな溝が、いわゆる“ママ友”とつながりたい欲求や、育児中の強い不安・孤独感を生み出していると考えられています。「人類本来の育児」とも言える「共同養育」とはどんなものなのか。番組では、今なおそれが受け継がれている、アフリカ・カメルーンの部族を訪ね、驚きの子育てぶりを目撃しました。

 産後うつの一因として、子育てを学ぶ機会が少ないことをあげてもよいでしょう。昔の日本、特に地方では、祖父母だけでなく、親族が寄り合って暮らす大家族が主流でした。そこでは身近に赤ちゃんに接する機会がありました。時には、子どもが子守りを任せられることも。自然に子育てを学習できたのです。ところが、都市化と孤立化が進んでしまった日本では突然母親になってしまうといってもよく、子育てに不安を抱える女性も多いようです。産後うつ・育児ノイローゼの背景にはそういう社会事情もあるのではないでしょうか。この点については後に詳述いたします。


7:27 2019/11/12




参考:
『ヒトの発達の謎を解く』明和政子〔ちくま新書〕
『家族革命前夜』賀茂美則〔集英社〕
『協力と裏切りの生命進化史』市橋伯一〔光文社新書〕
NHKスペシャル「ママたちが非常事態!? ~最新科学で迫るニッポンの子育て~」2016日1月31日放送
https://www.nhk.or.jp/special/mama/qa.html
赤ちゃんはみんなで育てるもの。わかってないのは、日本人だけかもしれない。| ハフポスト
https://www.huffingtonpost.jp/osamu-sakai/mother_b_9128724.htm











コメント

1-1 サメの選択・ヒトの選択

2019年11月12日 | 『少子化問題を考える』


1-1 サメの選択・ヒトの選択


 人類は、厳しい自然を生き延びて、今日の繁栄を築いてきました。それには、他の動物にはない戦略があったからです。有名なものに道具、言語……がありますね。それらに加えて「共同養育」も戦略の一つと考えられています。共同養育、つまり実の親だけでなく家族、コミュニティー……で子どもを育ててきたことが今日の繁栄をもたらしたのです。
 
 共同養育について詳述する前に、人類の進化の歴史について軽くふれておきます。

 ご存知のとおり、人類の祖先は猿人、つまり二足歩行を始めたサルの仲間です。登場は今から約700万年前。その後、約200万年前に原人が現れました。
原人は、猿人と比べ脳が発達していました。いいかえると、約200万年前に脳が発達し始めたといえます。そのきっかけは肉食。

 想像するに、雷が落ちて森が焼けた。森林火災です。木の実など、本来の食糧は焼けてしまった。焼け跡には逃げ遅れた動物の焼死体のみ。「生きるためには仕方ない」と、おそるおそる食べたところ、意外に美味しい。しかも腹もちがいい。そこで、彼らは積極的に肉を食べることにしたのです。
 最初は肉食獣の食べ残しを漁(あさ)るだけでしたが、やがて自ら狩りを始めます。本格的な肉食の始まりです。これを境に人間は、草食動物から肉食動物(学問的には雑食動物)になったのです。人類史上 初の革命といえるかもしれません。

余談ですが;
 人間と反対に、肉食から草食に転じた動物がいます。パンダです。彼らも本来の食糧が手に入らなかったので、しかたなく他に食糧を求めたのでしょう。なお、パンダは、進化の過程で手首の骨が変形しました。ササを食べやすいように突起ができたのです。突起というより新しい指が生えてきたといってもよさそうなくらい大きな変化です。

狩りによって食糧確保のチャンスは増えましたが、同時にピンチも増えました。
 狩りには危険がつきもの。獲物を捕まえる際には、抵抗する獲物と格闘しなければなりません。また、時には肉食獣のテリトリーに足を踏み入れることになるでしょうから、彼らに捕食される危険もあります。
 そんな危険を解消すべく人間も他の肉食獣のように、鋭い爪、牙、あるいは角……で武装してもよかったのです。肉体改造という途を歩んでもよかったのです。動物の体は、使わない部位が退化する一方で、よく使う部位は発達します。進化という変貌です。多くの動物はその途をたどってきました。もちろん肉体を改造するには長い年月を要するでしょうが―。
実際、狩りをしやすいように肉体改造に成功した動物もいます。サメは、より速く泳ぐために頭蓋骨を捨て、鳥はより速く、より高く飛ぶために歯をなくして体重を軽くしたといわれています。

余談ですが;
 サメに頭蓋骨はありません。頭部の硬い部分は顎だけで、そのほとんどは軟骨だとか。したがって、骨の数が少ないサメは、他の魚より原始的―とする位置づけに甘んじてきました。しかし、科学誌『ネイチャー』によると、頭蓋骨を持ったサメの祖先の化石が発見されたことで、あえて頭蓋骨を捨てたと分かりました。
 しかし、人類はその肉体改造の途を歩まなかった。代わりに選んだのは、知恵を出し合うことだったのです。肉食獣に比べて劣る攻撃力・防御力を道具とチームワークで補いました。木の枝や石などを武器に利用したり、合図や言語などでコミュニケーションをとりながら集団での狩猟を行い、大きな獲物も捕らえることができるようになったのです。
 これが文明の始まりといってもよいかもしれません。
 
このように肉体改造ではなく知恵を出し合うことが生存戦略となったのですが、知恵を出すには頭脳が必要です。
これには二足歩行も大きく寄与しているようです。四足歩行に比べて二足歩行は、高度なバランス感覚を必要とします。猿人は、地上はもちろん、樹上でも二足歩行していたといいますから、かなりのバランス能力を身につけていたことでしょう。その結果、神経細胞やそのネットワークが発達し、全体の脳細胞の発達も促したのではないでしょうか。
 近年、認知症の予防としてウォーキングが取り入れられていますが、原点回帰ともいえますね。


余談ですが;
 インドネシアのバジャウ族は、潜水能力に長けているそうです。70メートルもの深さまで潜れ、しかも10分間も潜水活動ができるというから驚き。イルカやクジラに匹敵するほどの潜水能力を手に入れたバジャウ族は、もはや半漁人に進化したといってもいいのではないでしょうか。それを可能にするのが発達した脾臓(ひぞう)だとか。何世代もの間、潜水を続けた結果が脾臓のパワーアップだったのです。
「こうなりたい」という欲求と長い期間の訓練が肉体改造をもたらすようです。道具に頼らず、あくまで丸腰で狩りに臨んだならば、人間は「オオカミ男」のようになったかもしれません。また、飛ぶ訓練を続けていたならば、天使のように飛べたかもしれません。
もし人類が道具に頼らず、肉体改造を目指していたら、現代のように文明も発達しなかったでしょう。すると、昨今問題となっている環境破壊も起こらなかったかもしれません。

 一人ひとりは か弱い存在でも、知恵を出し合うことで我々の祖先は、敵に立ち向かうことができるようになりました。いうなれば、知恵による武装です。こうして共同作業を軸とする人間の生活が始まったのです。
 共同作業は狩りにとどまりません。子育てにも及びました。「共同養育」です。
子育てを実の親の専任事項としたら、親が不幸にして死んだ場合、あるいは親が子育てを放棄した場合……には子は死んでしまいます。これは集落・グループにとって大きな損失です。だから共同して子育てにあたったのです。それが人間の生存戦略。

 共同養育については、次項以下で詳述いたします。

7:25 2019/11/12


参考:
『ホモ・サピエンスはどこから来たか』馬場悠男〔KAWADE夢新書〕
『人間とは何か チンパンジー研究から見えてきたこと』松沢哲郎〔岩波書店〕
NHK『SWITCHインタビュー「ゴリラから見たヒト、旅から見た日本人」山極壽一・関野吉晴』2015年8月15日放送
『NHKスペシャル 人類誕生 第1集 こうしてヒトが生まれた』2018年4月8日放送
「直立二足歩行のまとめ~歩き方の違いがもたらした革命~」
http://blog.monoshirin.com/entry/2015/11/06/003530















コメント