「腐女子&妄想部屋へようこそ♪」BYななりん

映画、アニメ、小説などなど・・・
腐女子の萌え素材を元に、勝手に妄想しちゃったりするお部屋です♪♪

風に吹かれて(#148)

2018年03月14日 02時14分30秒 | RUN&GUN風土記
指定したロビー横の休憩コーナーには、まだ麻衣子の姿はなかった。
何となくホッとした幸佑は、すぐ近くにある自販機で缶コーヒーを2本買って椅子に腰を下ろした。
稽古疲れからか、少し重い瞼に冷たい缶コーヒーを当ててみると、思いのほか心地良い。 そのまましばらく目を閉じてじんわり染みわたる冷涼感を味わっていると、人が近づいてくる気配を感じて目を開けた。
 「すいません、遅くなりました」
急いでやって来たのか、少し乱れた呼吸で詫びる麻衣子がそこにいた。 妙な格好を見られた気恥ずかしさから、幸佑は慌てて姿勢を正した。
 「いや、俺も今来たとこだから」
多少作り笑いのような笑顔を見せて、隣に座るよう促す。 軽く会釈しながら腰を下ろした麻衣子に、幸佑が缶コーヒーを差し出した。
 「缶コーヒーで悪いけど」
目の前に出された缶コーヒーと幸佑を交互に見較べた麻衣子が、何か信じられないものを見たような表情を浮かべた。
幸佑が、自分のために時間どころか飲み物まで用意してくれるなど、予想もしていなかった。
それでもおずおずと缶コーヒーを受け取って、麻衣子が礼を言う。
 「・・・俺に、何を聞きたいの?」
先に口火を切ったのは、幸佑の方だった。 とっくに空になった空き缶を弄りながら訊ねる幸佑に、しばし何から話すべきか迷っていた麻衣子だったが、やがて心を決めたらしく静かに語り始めた。
 「・・・・・・私には3歳上の姉がいるんです。 姉も、役者でした」
 「でした・・・って、今は違うの?」
その問いかけに、ふと麻衣子の表情がわずかに曇る。 だが麻衣子は肯定も否定もしない代わりに、驚くべきことを口にした。
 「・・・姉は、桐畑晃の被害者なんです」
俯き加減でぼそりと発せられたその一言が、幸佑の脳に電気ショックのような一撃を与えた。 驚愕で見開いた目で、麻衣子を凝視する。
 「・・・姉は実家に引きこもって、一歩も外に出なくなりました。 桐畑から暴行を受けた1年前から、もうずっと・・・」
 「・・・・・・・・・」
未開封の缶コーヒーを両手で握り、唇を噛みしめた麻衣子の肩が微かに震えているように見える。 かける言葉が見つからず、幸佑もまた唇を噛みしめた。
 「姉には、婚約者がいました。 桐畑に暴行されたのは、奇しくも結納の前日で・・・」
苦しげに表情を歪ませて吐き出す麻衣子の言葉が、幸佑の胸に突き刺さる。 あまりに惨い話に、たまらず幸佑はきつく目を閉じた。
ここにも、桐畑に人生を滅茶苦茶にされた被害者がいた。
裏ではこれほどの悪行を重ねながら、表面では何事もなかったかのように振る舞い、平然と仕事を続けていたその不可解な精神に慄く。
思えば、幸佑と映画の仕事をしていた時も、桐畑の背後には何人もの犠牲者たちの無念や絶望が渦巻いていたことだろう。
だが当の本人は恐らく蚊に刺されたほどにも感じておらず、その顔に薄っぺらい笑顔を貼り付け、心にもないことを口から垂れ流していたのだ。
そして性懲りもなく、今度は幸佑にも毒手を伸ばそうとした・・・。
 「・・・・・・・・・」
にわかに気分が悪くなり、思わず幸佑は手で口元を覆った。 もはや、同じ人間とは思えない所業だ。
 「どうしたんですか?」
急に苦しそうな表情を浮かべて口を押える幸佑に気付き、麻衣子が少し心配そうに尋ねた。 だがその言葉は彼の耳には届いておらず、独り言のような呟きがその口から漏れた。
 「・・・・・・なんてことを・・・」
低く呻く幸佑の腕に恐る恐る触れた麻衣子が、再度呼びかける。
 「米原さん・・・?」
その感触ではっとした幸佑が麻衣子を見た。
 「あ・・・ごめん。 何でもないよ・・・」
 「・・・・・・・・・」
無理に笑顔を作って心配させぬよう努める幸佑に、麻衣子は戸惑った。 幸佑と接すれば接するほど、麻衣子の中で築かれていた幸佑像がどんどん形を変えていくのを感じる。
姉と同じく、桐畑から暴行を受けた幸佑。 未遂だったとは言え、同性から襲われた幸佑が受けた傷は、もしかしたら姉のそれよりも大きかったかも知れない。 そう思い、最初は同情していた。
そんな彼を初めて見たのは、弁護士の吉住が開催した説明会の時だった。 それまで週刊誌の記事や周囲の人々から聞いて想像していたのは、姉と同じように落ち込んでふさぎ込む姿だった。
だが目に飛び込んできたのは、周囲の人と楽しげに談笑し、悲愴さなど微塵も感じられない幸佑の姿だった。
姉はあの日から笑顔を失い、言葉すら滅多に発しなくなってしまったというのに、この違いは何だ。
そしてその後耳にした、幸佑にまつわる黒い噂。 桐畑に襲われるよう自ら仕向け、そのスキャンダルを己の売名に利用したという、まことしやかな話。
耳にした当初はそんな馬鹿なと一笑に付したが、幸佑のその不可解な態度を見てからというもの、にわかに麻衣子の中で信憑性を持ち始めた。
もしこれが事実なら、被害者のふりをして私腹を肥やす、ある意味桐畑と変わらない偽善者であり、とても看過することはできない。
事の真偽を見極めたいと思った麻衣子は、この舞台の間を利用して幸佑を監視することにしたのだった。
 「・・・・・・横山さん?」
いつの間にか険しい表情で何かを考え込む麻衣子に、幸佑が声をかける。 その声で我に返った麻衣子が、慌てて取り繕う。
 「あ、すいません。 えっと、どこまで話しましたっけ・・・」
焦りながら見失った話の行方を探す麻衣子に、ふっと微笑んだ幸佑が答えた。
 「お姉さんも、桐畑さんの被害者だったんだね。 でも、それが俺を観察してたことと何か関係あるの?」
穏やかな笑みを湛え、威圧感を与えぬよう問いかける幸佑の気遣いを感じて、麻衣子は思わず胸が苦しくなった。 
 「すいません、ほんとに。 米原さんに不快な思いをさせてしまって」
幸佑の顔を直視できず、俯いてひたすら詫びる麻衣子を、幸佑が不思議そうに見つめる。
 「いや、別にそこまで不快には思ってないよ。 ただ理由を知りたいだけなんだ。 訳もなくそんなことはしないだろ?」
諭すように言い聞かせる幸佑の表情は、あくまでも優しい。 麻衣子は、今まで自分が勝手に作り上げていた彼に対する固定観念が間違っていたことを確信した。
ふと、馬場に言われたことを思い出す。 【他人の言うことなどアテにならない・・・】
今、それを身をもって実感する。 百聞は一見に如かずという諺が頭に浮かぶ。
もう詳細を聞かずとも、幸佑が噂どおり計算高く保身第一の人間などではないということはわかった。
だが、今度は純粋に自身の欲求から幸佑のことを知りたくなった麻衣子は、改めて訊ねてみた。
 「・・・米原さんも、桐畑の被害者ですよね」
それまで穏やかだった表情を微かに曇らせながらも、静かに幸佑が頷く。
 「私の姉は、今もショックから立ち直れないままです。 だけど米原さんの様子を見てると、とても同じ目に遭ったように思えません。 どうやって
  立ち直ったんですか? すごくショックだったはずですよね」
言葉を選んで慎重に訊ねてくる麻衣子に同調しながら、幸佑が答えを模索する。 
麻衣子の疑問は尤もだと思った。 普通ならこんな短期間ですっかり立ち直れるものではないだろう。 麻衣子の姉や茜が、その典型例だ。
じっと幸佑の返事を待つ麻衣子の目には揶揄や興味本位の色はなく、あくまで真摯だった。
 「・・・俺も、同じだよ。 一時は抜け殻みたいになって、生きる気力も失くした。 このまま役者も辞めて、消えた方がいいんじゃないかとも思った」
 「・・・・・・・・・」
ぽつぽつと語る幸佑を、麻衣子が真剣な目で見つめている。
 「でも、周りにいる大切な人たちのおかげで、その深い沼から抜け出すことができたんだ」
 「大切な人たち?」
そう聞き返され、幸佑の脳裡に雄也と馬場の顔が浮かんだ。
 「そう・・・。 彼らは言葉だけじゃなく行動で、俺の心に訴えかけてくれたんだ。 それは、俺にとってとても衝撃だった。 電気ショックを受けたと
  言ってもいいくらいに。 それで、ようやく目が覚めた」
 「いったい、どんなことを・・・?」
そこまで幸佑に言わしめる『行動』とは何なのか、非常に気になった麻衣子が訊ねる。
 「・・・詳しくは言えないけど、目一杯の誠意で俺の頬を叩いて目を覚まさせてくれたんだ。 苦しんでるのは俺だけじゃないし、このまま殻に閉じ
  こもっててもしょうがないって気持ちにさせてくれた」
 「・・・・・・・・・」
その時のことを思い出しているのか、遠い目をして訥々と語る幸佑を麻衣子は少し複雑な気持ちで見つめた。 慰めるだけではなく、生きる気力を思い出させてくれる友人がいる幸佑は幸せだと思う。
ふと、己の行動を思い返す。 ショックのあまり茫然自失になってしまった姉にこれまでしてきたことと言えば、ただ慰め、両親とともにひたすら庇護に徹し、姉の要望するまま部屋から出さなかった。
その結果、事件から1年もたつのに未だ姉は一歩も前に進むことなく、奈落の底で蹲ったままだ。
 「・・・・・・・・・」
再び黙り込んでしまった麻衣子を、幸佑は声をかけずにそっと見守った。 彼女の胸中で渦巻いている思いを何となく理解できた幸佑は、しばしの間を置いて静かに語りかけた。
 「・・・・・・何を言えば良いかなんて、わかんないよね。 だから、無理に言葉をかけなくてもいいと思う」
 「え」
漠然とした言葉の意味を図りかねて、麻衣子が訊き返す。
 「言葉よりも、心に寄り添うのが何より大事だと思う。 自分は一人じゃないんだって思えるのが、一歩を踏み出す大きなきっかけになる。 少なくとも
  俺は、そうだったよ」
 「心に寄り添う・・・」
発せられた言葉を噛みしめるように復唱する麻衣子に、ふと幸佑が問いかける。
 「・・・裁判には、出廷するの?」
はっとした麻衣子が一瞬幸佑の目を見たが、すぐに目を伏せて小さく頷いた。
 「・・・姉はもう人前に出るのは嫌だって言ったんですけど、姉の人生を台無しにした桐畑をどうしても許せなくて、両親とも相談して私が代理で出廷する
  ことにしました。 吉住弁護士の説明会にも出席して、そこで初めて米原さんを見かけて・・・」
その時の様子を思い浮かべながら話していた麻衣子が、不意に言葉を途切れさせた。 そういえば、あの時幸佑が談笑していた相手は、確か馬場だった。
幸佑にばかり気を取られていたので深く考えなかったが、あの場に馬場がいたということは、彼も桐畑の被害者なのだろうか?
一度浮かんだ疑問が頭から離れなくなった麻衣子は、たまらず幸佑に訊ねた。
 「そういえば、あの時馬場さんもいましたよね? まさか馬場さんも桐畑の・・・?」
信じられないものでも見るように、極限まで見開いた瞳で訊ねる彼女の言いたいことを察した幸佑は、小刻みに首を左右に振って答えた。
 「馬場さんも君と同じだよ。 代理なんだ」
その答えに納得したのか、麻衣子の表情が少し和らいだ。
 「そうなんですか・・・。 でも、誰の代理ですか?」
当然の疑問を投げかけてくる麻衣子に、だが幸佑は言葉を濁した。
 「・・・それは、俺からは言えない。 馬場さんのプライベートなことだからね。 もし知りたいなら、直接馬場さんに訊いたらいいよ」
やんわり言い聞かせるように話す幸佑に、麻衣子がはっとして口をつぐんだ。
(直接本人に・・・)
馬場も幸佑も口をそろえて同じことを言う。 そこに、何か深い部分で繋がっている二人の絆のようなものを感じて、麻衣子は何故だか切なくなった。
麻衣子にはそこまで深く結び付ける相手はいない。 友人然り、恋人然り。
この胸の僅かな痛みは、そんな相手を持つ彼らに対しての羨望なのだろうか・・・。
そんなことをぼんやり考えていると、ぽつりと幸佑が呟いた。
 「・・・馬場さんは、俺に一緒に闘おうって発破かけてくれたんだ。 それまで俺も君のお姉さんと同じく表沙汰にはしたくないって思ってたし、自分には
  到底無理だと決めつけてた」
 「・・・・・・・・・」
 「でも馬場さんが一緒に闘ってくれるなら、何だかやれるような気がしてきて。 それで勇気が出たんだよ」
穏やかな中にも芯の強さを感じさせる眼差しで語る幸佑を、麻衣子が目を細めてじっと見つめる。
幸佑の笑顔は、すべてを乗り越えて高みにたどり着いた証そのものだった。
もう麻衣子の中で彼に対する負の感情は完全に払拭され、代わりに温かくほの甘い気持ちが広がり始める。
優しく微笑む幸佑を見つめる自分の瞳もまた、いつの間にか優しさを湛えていることに麻衣子自身はまだ気づいていない。
すっかり温くなってしまった手のひらの缶コーヒーをしっかりと両手で包み込み、麻衣子は密かに微笑んだ。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 風に吹かれて(#147) | トップ | 風に吹かれて(#149) »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

RUN&GUN風土記」カテゴリの最新記事