旅限無(りょげむ)

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オリンピックの裏側で 其の四

2007-08-11 15:07:35 | 外交・情勢(アジア)
■更に別のニュースを引用してみましょう。

中国は1951年にチベットを占領した。亡命チベット人や世界中の人々からの抗議にもかかわらず、中国は現在もチベットを支配し続けている。「オリンピック聖火のエベレスト山頂への到達」は「北京オリンピックを通じて、中国がチベット支配を誇示していると理解する人もいる」とアソシエイテドプレスは論述する。


■2002年に英語名の「エベレスト」に対して、北京政府がチベット名のチョモランマを採用しろ!と言い出したそうですが、何故か日本はマスコミを上げて即応して見せたようです。別にチベット人達からそんな申し出があった訳でもないのに、「珠穆朗瑪峰」などと音写して自国の領土を誇示するために誰かさんが言い出したとしか思えませんなあ。チベット語と言っても、シェルパ族が使っていた呼称だそうですから、それほど目くじら立てて主張するほどの事でもないようなものです。因みに、「シェルパ」は徹底的に誤解されてしまって登山専門のガイド兼荷物運びのように使われたのが、とうとう国際会議の雑務をこなすスタッフもシェルパと呼ばれるような事になってしまいました。困ったことです。

■日本語に似たような単語を探せば、関西人・九州人・東北人など、方位を使って住民を区別する呼称に似ています。「シェル」は東の方位を意味して、「パ」は人や物を示す接尾辞ですから、和語にしたら「あずまびと」という意味になります。ヒマラヤ南麓のネパールやインド北部に暮らしているシェルパ族は立派なチベット民族で、一説には16世紀頃に移住したと考えられているそうですが、チベット文化の広がりを示す好例と言えましょうなあ。古代のチベット王国を築いた王族の出身地は、今のラサよりもずっと西なので、「あずまびと」という呼称の発生は非常に古いと推測できます。

■世界の屋根に暮らしているチベット人の間には、「太古の海」伝説が昔から語り継がれています。何処からそんなアイデアが生まれたのかは分かりませんが、ヒマラヤ山脈がインド亜大陸の北上によって海底から隆起した事を地質学者達が証明したのは20世紀になってからだったはずです。仏教が伝来する前、チベットには壮大な創世神話に支えられた山岳信仰が根付いたのでした。概略を記しますと……。


 太古の昔、チベットは大海原で、遠くに陸地があったそうです。その海岸には巨木が生い茂っていて深い森が有りました。その奥には草原が広がって、鳥や獣の楽園になっていましたが、或る日、海中から五つの頭を持つ巨大な龍が現れると、大きな波が起こって大地のほとんどが水没してしまったのだそうです。
 大波に驚いた生き物は一斉に東に向かって逃げ出しましたが、波がその後を追いかけて来ます。逃げ疲れて倒れそうになった時、空に五つの美しい雲が現れました。雲は分かれて五人の天女となって海辺に降り立ちました。天女達は不思議な力で五つの頭を持つ毒龍を退治したので、生き物は大いに感謝して仙女達の足元に跪(ひざまづ)きました。
 天女達は再び天に帰ろうとしましたが、生き物達は地上に留まるように懇願したので、天女はそれを聞き入れました。また不思議な力を使って大地を沈めた海の水を押し戻したので、広い大地が現れました。その東には鬱蒼とした森が生まれ、西は地味豊かな耕地になったそうです。南には美しい花園が広がっていて、北の地は見渡す限りの草原になったのでした。
 天女達はその大地を見下ろせるヒマラヤ山脈の山に変身してチベットの南西に鎮座ましまして、長くその地を祝福して守っているのあります。五人の天女が変身したので、山脈の最も高い所には祥寿天女の峰、翠顔天女の峰、貞慧天女の峰、冠咏天女の峰、施仁天女の五つの峰が連なっているのです。その中でも最も高いのが、翠顔天女の峰、即ちチョモランマになったというお話です。
 
■天女に懇願した生き物の中には、きっと猿も含まれていたはずで、それがチベット人の祖先になるという伝説が続きます。どう考えても漢民族が古くから伝えて来た創世神話とは何の関係も無い伝説だという点が重要でしょうなあ。


インディアタイムズ紙によると、ニューデリーの当局者達は「エベレスト山はチベット人が崇敬する山である。鉄道プロジェクトの実施直後に、道路計画が発表されたことは、チベット高原と中国大陸との統合を急ぐ胡錦涛主席のチベット政策が、ここでも繰り返されたことを意味する。」と述べた。

■第二次天安門事件を正当化するのに大いに役立った1989年3月7日のラサ市街の大暴動に対する戒厳令の発令と共に始まった武力鎮圧を指揮したのが、当時の地方政府の責任者だった若き胡錦濤ですから、江沢民政権が始めた「西部大開発」を継承しながらチベット開発に重心を移すのは当然なのでしょう。でも、自慢の青蔵鉄道が開通したのに、ラサに乗り込んで来ないのは、きっと政務が忙しいからなのでしょうなあ。多分……。

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