旅限無(りょげむ)

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オリンピックの裏側で 其の参

2007-08-11 07:50:22 | 外交・情勢(アジア)
■北京発、上海発のニュースが流れ込むテレビや新聞の情報に接していると、どうしても意図的な祝祭気分の演出に引っ張られます。これからの1年、北京五輪ガイドだの「見所」だの、旅行者や航空会社と手を結んで各マスコミが大キャンペーンを展開し、「隣国」をキー・ワードにして気安く海外旅行に誘う空気が広がって行くでしょう。しかし、北京五輪を世界中が諸手を挙げて祝っているわけではなく、広大なチャイナの中にも「国の誉れ」「発展の確認」と浮かれていない人達も無数に存在している事を忘れてはまりません。

■ちょっと変わったニュース・ソースうを利用して、裏側からの風景を追ってみましょう。さて、チョモランマを聖火リレーのコースに捻じ込む目的は、世界の屋根と呼ばれる世界で最も高い場所に位置するチベットを北京政府が完全に支配している事を見せ付ける事が第一、それはインドと国境を接して文字通りアジアの盟主の座を争う姿を際立たせるのが第二でしょう。第三が、大昔から続いている中華思想の復活で、「全ての道はローマでなくて北京に通ず」の演出に全力を注いでいると思われます。「青蔵鉄道」も、北京から聖都ラサまで鉄道が通じたのではなく、逆にラサが北京とダイレクトにつながったと考えるべきでしょう。

■黒子に徹して姿も見せない特殊部隊が高山地帯に展開しているという噂も有りますから、対インド戦略用に配備されているヒマラヤ山脈内のミサイル基地がどんどん発展してチャンスが有ればインド洋に向かって突き進む前触れかも知れませんなあ。唐の時代から、チャイナ・インド・チベットの巨大な三国志が展開された歴史が有って、そこにイスラムが絡み、更に大蒙古帝国の出現という大事件も起こったわけですが、欧州列強の植民地争奪戦から帝国主義の時代になると、アフガニスタンを中心とする「グレート・ゲーム」と呼ばれる大英帝国とロシア帝国とのユーラシア大陸を南北に分ける壮大な陣地取り合戦が始まります。大日本帝国がラサにスパイを送り込もうとしたのはこの動きに対応したものでした。

■有名な河口慧海は、海を渡って入ったインドで情報収集やその他の準備をしています。大英帝国が手中に収めていたインド亜大陸からヒマラヤを越えて北上するには、南下するロシアよりも先にチベットを押さえねばなりませんでした。短い期間でしたが、北からロシア・チベット・インド(英国)が並ぶ変な「三国志」が展開したわけです。地形が変わらない限り、地政学的な条件と動機は一種の普遍性を持ちますから、「独立」を果たしたインドと「侵略」を行った北京政府がヒマラヤを挟んで対峙しているというわけです。


中国は、2008年の北京オリンピックに先立ち、エベレスト山頂へのオリンピック聖火リレーを容易にするため、高速道路の建設を計画していることを表明した。現在、ベースキャンプへの道路は舗装されていないが、「波形のガードレールで柵を巡らしたアスファルト舗装の高速道路」になるだろうと新華社通信は伝える。この野心的な計画は、4ヶ月以内に完成予定となっている。アソシエイテドプレスによると、新しい高速道路は「旅行者や登山家にとって主要なルートになるだろう」とのこと。

■NHKが大いに宣伝に勤めている話題の青蔵鉄道も、「観光」と「技術発展」との二点だけが注目されるようにコントロールされている報道ばかりのようです。霊峰富士にろくなトイレ設備も用意しないで自動車用の登山道路を刻み込んでしまう日本ですから、エベレストの「8合目」にもドライブ・インとお土産屋さんが出来たら大喜びかも?でも、そこは標高7000メートルの世界ですから、どれほど大規模な工事で世界最悪の九十九(つづら)織りの道路を建設しても、宇宙船でもない普通の自動車では上がって行けないような場所です。これまた日本の奇怪な「スーパー林道」と同じく、使用を目的とはせず、建設そのものに意義が有る歴史的な遺産となる道を作りたいのでしょうなあ。新しい万里の長城みたいな物です。


環境問題の専門家達は、高速道路の建設は、すでに危機に瀕している生態系にさらに重い負担を強いることになると警告する。……コーネル大学環境学部理事のマーク・ベイン氏は、懸念すべきは道路からの汚染ではなく、増加する旅行者を収容するために「さらなる開発の機会」が創出されることであると語る。いくつかの団体は、今回の道路建設はチベットに対する中国側の正当性を主張するものであるとして、公然と非難の声をあげている。

■散歩中の犬が行う「マーキング」みたいなものですが、一見無駄のようでいて、いざ、領土問題が先鋭化した場合には、この道路建設が有力な自国領を主張する武器になります。尖閣諸島のボーリング工事と同じ理屈です。五輪大会にかこつけて、強かにこうした布石を打って来るのが北京政府のやり方だという事は覚えておいた方が良いでしょうなあ。

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