旅限無(りょげむ)

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100名山は考え直したら?

2005-09-26 02:33:33 | マスメディア
■毎日、毎日、老若男女が日本の何処かで殺されているのに誰もが嫌気が差しているからでしょうか?少しでも明るいニュースを探そうとマスコミの人達も必死なのでしょうなあ。秋の行楽シーズンでもあるし、紅葉も近い。地方は何処も不景気だから、観光産業の梃(てこ)入れもして上げたい、そんな気分も手伝っているのでしょうなあ。
12歳少女幸せ頂点、百名山を3年余りで制覇
 新潟県柏崎市の市立比角(ひすみ)小学校6年、大倉由衣(ゆえ)さん(12)が24日、北アルプスの黒部五郎岳(2840メートル)に登頂し、深田久弥氏の「日本百名山」を制覇した。…初めての登山は、5歳だった1999年夏。登山が趣味の母・里美さん(41)に勧められ、北アルプスの西穂高山荘に行って周辺を歩いた。
 本格的に「百名山」に挑むきっかけとなったのは、2002年夏の北アルプス・槍ヶ岳(3180メートル)登山だった。苦労して登頂した翌日、山小屋で出会った女性から「私のお守り」と、バンダナを贈られた。日本百名山の地図がプリントされ、著名な登山家重廣恒夫さんのサインも入っていた。「私も百名山に登ろう」と決めた瞬間だった。以来、そのバンダナを「宝物」として持ち歩き、夏休みは北海道や九州へ、週末は本州の山々に家族と一緒に登った。普段は土曜日の未明に家族の運転する車などで自宅を出て、日曜日の夜に帰宅する。現地でゆっくりする暇はないが、「家族みんなで頑張って登り、頂上に着いた時のうれしさがたまらない」と言う。
 百名山を目指してわずか3年余りで達成した由衣さんは、「二百名山など新たな記録に挑戦していきたい」と元気に話した。
 読売新聞 9月25日

■山登りを楽しみとする人が居るのは、日本が近代国家となって西欧人が神々の山を次々と征服して見せてからの事ですから、今更、日本古来の山岳信仰を取り戻せ!とは言いませんが、このニュースはそんなにお目出度い事なのでしょうか?「100名山」「わずか3年」と数字を並べる報道は、同じ趣味を持つ人々に不必要な競争意識を撒き散らすのではないでしょうか?高齢の登山者が急激に増加している現象を、誰も非難できないのが「敬老」精神らしく、「いつまでもお元気ですねえ」と無責任な激励などするものだから、散歩気分の登山で傍迷惑な大騒ぎが頻発しています。老人登山グループ同士で馬鹿馬鹿しいライバル心を燃やして、一つでも多くの山を征服しようなどと、愚かな事を考えているのがはっきり分かる会話を電車の中で何度も耳にした事が有ります。「足腰が丈夫な内に…」という気分も分かりますが、気の急く登山は必ず大事故に繋がるものです。

■この新聞記事でも、短期間に「100名山」を征服した種明かしをしています。徹夜でドライブして大急ぎで登って降りる、そんな事を週末ごとにやっているのを、山の専門家は決して喜びもしないし、褒めもしないでしょうなあ。体力不足の上に、深夜バスなどで登山口にやって来る睡眠不足の高齢者が、誰かに自慢でもしたいのか、頂上目指して押し登り、すっかり体力を消耗して下山途中で身動きが出来なくなる。最悪の場合は、転落・滑落、怪我なら救助隊に背負われて下山できますが……中には、年齢に区別無く、救難ヘリコプターをタクシー代わりに呼ぶアホも増えているようです。

■プロの登山家や冒険野郎は、スポンサーにアッピールするために、高さや距離や回数などの「数字」を使うことは有ります。しかし、素人が100だの200だの、しかも他人が決めたリストに従って山登りするのはどうでしょう?まるで、グルメ本のヨタ記事を信じて自分の味覚も体質も無視して食べ歩く変人と同じではないでしょうか?自分が気に入っている山を愛して、自然を大切にする心や謙虚さを取り戻す機会にするのは誠に結構な事です。しかし、マスコミに煽られるようにして、同じ山に日本中から集まって、ぞろぞろと一本道に列を作って登っている風景が時々報道されますが、ちょっと前の芋を洗うような状態のスキー場を髣髴とさせる異様なものを感じませんか?

■スキー場ならば、最低限のトイレが完備しているはずですから、まだ救いが有るでしょうが、山となると公衆便所が標高100メートルごとに設置されているとは来た事が有りません。情けない事に、コンビニ弁当の空容器と空き缶が登山道脇に捨ててあるそうじゃないですか?山に登るというのは、別の見方をすれば、食い物と排泄物を山の中に人間が運び上げている事なのです。霊峰だった富士山が、ウンコだらけで放置されているのを知って激怒したのはアイヌ人初の参議院議員になられた萱野茂氏でしたなあ。「即刻、便所を設置せよ!」と動いて下さって、今は幾つかの便所が整備されたと聞きます。アイヌ文化には驚かされたり、感心させられる点が多いのですが、山を敬う心を失った者と失わない者に民族の差は無いでしょうに!

■100名山を征服した少女が、山を汚さないようにどんな工夫をしていたのか、是非とも報道して欲しかったのですが、「3年で100名山」に登った事ばかりを強調している記事ですなあ。こんな記事を全国に配達すると、「子供に負けてはいられない!」などとトンデモない勘違いする元気な老人達が続出しそうです。町をゴミだらけにしている暇な若者の中にも、急に趣味を登山に決める迷惑者の出現するかも知れません。登山用品は売れるでしょうが、山は荒れますなあ。

■日本一の信頼を勝ち得ている富山県の山岳警察隊の皆さんは、この記事をどんな気持ちで読んだのでしょう?自分で天気図も書けない、磁石が使えない、ちっちゃなペットボトル一本持って軽装で2000メートル級の山に登って来るような人々を命懸けで救助しなければならないのですから、本当にご苦労様なことであります。まったく100名山などと、変な本が流行ったものです。体質的に社会主義国向きに出来ている日本人に「ノルマ」を示しては行けませんぞ!
山はノルマを気にして登るものではありません。

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