旅限無(りょげむ)

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そして誰もいなくなる? 其の参

2010-12-24 23:25:36 | 政治
■南蛮渡来のクリスマスのイブに、菅アルイミ首相は「立ち上がれ日本」に色目を使って国会運営の協力を要請した由。ちょっと前に有事の際には日本の自衛隊が朝鮮半島に乗り込んで北朝鮮に拉致された被害者を探索・救出するなどと、菅アルイミ首相が出来もしない絵空事を口走ったとの唐突な報道がありましたが、最新号の『週刊ポスト』の記事を読んで珍奇な発言の場に問題の「立ち上がれ日本」の平沼赳夫代表が同席したいたという基本的な事実が書かれておりましたぞ。数合わせのためには某新興宗教の美術館にニヤニヤしながら「鑑賞」に行ったり、大企業からの献金が無ければ日干しになってしまう前の政権政党に露骨に塩を送るように「一部解禁」を打ち出したりする、とても分かり易く国民に政局の動きを教えてくれる菅アルイミ首相は、結党以来のテーゼである「公開と説明」の半分を実践しているのかも知れませんなあ。

菅直人首相は23日夜、都内の日本料理店で、民主党の石井一副代表、藤井裕久元財務相と会談し、政局の焦点である内閣改造をめぐって意見交換した。石井氏によると、首相は年明けの内閣改造に前向きな姿勢を示したという。参院で問責決議を可決された仙谷由人官房長官、馬淵澄夫国土交通相を交代させ、辞任のため空席となり、仙谷氏が兼務している法相ポストも含め、人心一新を図る意向とみられる。……石井氏らは「今後3年間は首相を務めなければいけない」と主張。具体的な改造時期や人選などを提案した。石井氏は会合後に記者団に対し「内閣改造が首相の頭にある。やる気十分だ」と述べた上で、具体的な改造時期については「必要があれば年明け早くにやるだろうが、私の想像では1月13日の民主党大会の後ではないか」と、通常国会直前の改造の可能性に言及した。…… 

■今更、二番煎じの内閣改造をやって見せたところで急降下中の支持率が下げ止まったり、奇跡のように急上昇するはずもないのに、どうして「今後3年間」などという恐ろしい皮算用が出来るのでしょう?少なくとも後2回、現政権が国家予算を組むのか?!「いくらでも財源はある!」などと、政権交代さえ起これば天から地から財源が降ったり湧いたりするんだと言い続け、それを前提に寄り合い所帯らしくマニフェストに実行不可能な公約を羅列した大罪を一度も国民に詫びるでもなく、まるで天災ででもあるかのように「不景気で税収が減った」だの「人口減少が止まらない」だの、救いようのない泣き言を重ねて自らの責任や力不足を認めようとしないのですから、ちびちび、ちくちくと取り易いところからじわじわと陰険な増税を仕掛けて稚拙なマニフェストを強引に実現しようとし続ける限り、来年早々の通常国会は目も当てられない小中学校の生徒会にも劣る恥ずかしい騒動で終始しそうですなあ。


首相が内閣改造に前向きな姿勢を示す背景には、民主党の小沢一郎元代表の国会での説明責任をめぐる攻防が行き詰まっていることがある。小沢氏に近い議員らは、党内に生じた亀裂を修復するには、仙谷氏の交代が必要との声を強めており、国会運営だけでなく、党内対策としても仙谷氏交代が必要との考えに傾いているとみられる。首相は臨時国会閉幕後の6日の記者会見では、仙谷氏に対して「期待以上の活躍をしている」と評価。強制力のない問責決議と、憲法の規定で衆院解散か内閣総辞職を迫られる内閣不信任決議とは法的拘束力が違うなどとして、仙谷氏交代に慎重姿勢をみせていた。
2010年12月24日 産経新聞 

■菅アルイミ首相に比べれば、300余人の民主党議員の中で、何も知らない・何も出来ない御本人の「期待以上の活躍」をする人材は山ほど居るでしょうから、あの発言は仙谷ノーコメント官房長官を盾にして政権の延命を図るための妄言ではないのかも知れません。しかし、普天間基地移転を頓挫させた鳩山サセテイタダク前首相と同じく「脱小沢」の権力闘争も虫のいい「良いとこ取り」を素朴に願う稚拙な言動の結果が取り返しのつかない重大で深刻で致命的になってしまいそうです。仮に仙谷・馬淵の両問責決議コンビを切ったところでクラッシャー小沢一人に引導を渡して党外に追放しておいて、数合わせ用に小沢支持者を引き戻すなどという錬金術めいた政局詐欺が成功すると総理大臣ともあろう人が本気で考えているのでしょうか?外交の稚拙さと同じ根っこから民主党内に伸びて来た毒々しくも軽い茎が年明け早々に地表に顔を出すのかも?

■仙谷ノーコメント官房長官を手放した後の菅アルイミ首相の醜態は残酷な見世物にはなるのですが……。

そして誰もいなくなる? 其の弐

2010-12-24 16:10:37 | 政治
■検事総長の次は誰でしょう?

……22日の海上保安庁は重苦しい空気に包まれた。「あってはならない事態。国民の信頼を大きく損ねた」。海保の鈴木久泰長官は苦渋の表情で、沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐる映像流出事件を謝罪した。停職12カ月の処分を受けた一色正春元保安官(43)は、「後悔していない」ときっぱり言い切り、職を辞した。…… 

■もしも、一色氏が海上保安庁を辞職してから証拠映像を流出させていれば、同僚達からの支持はもっと多かったことでしょうが、サイトに「違法に」流出した映像を嬉々として、しつこく何度も使い回して放送し続けたテレビ局には、一色氏に感謝こそすれ何も責めるような事は一切言えないはずです。まだ「未公開」の映像が残っているのですから、匿名性が守られるウィクリークスにでも全貌が流れ出したら、いよいよ海上保安庁の長官から国交大臣まで辞職、辞職の大安売りが始まるかも知れませんなあ。勿論、慌てて「国家機密だ!」と言い出した誰かさんも無事では済みますまい。


(22日)午後6時から始まった海保本庁の会見。顔に汗を浮かべた鈴木長官は「再発防止の取り組みを徹底する」と何度も繰り返した。処分に関して「いろんな声があったことは承知している」と鈴木長官。最終的に停職とした理由を「過去の事案などを総合的に判断して冷静に決めた」と強調した。最も重い「免職」か、「停職」にとどめるか。処分をめぐって海保は揺れに揺れた。元保安官が流出を告白した11月10日以降、海保には「辞めさせないで」といった電話が殺到した。政府が映像を非公開としたことへの不満の世論も多かった。一方で「規律違反を許せば組織が成り立たない」という組織論も根強く存在した。ある海保職員は「元保安官が17日に、自ら辞職願を出したことで、停職で依願退職という流れができた」と解説する。…… 

■「総合的に」「冷静に」と言葉を重ねられますと、いよいよお役所仕事の片鱗が見えてしまいますが、国家という組織が崩壊しないようにするには、たとえどんなに馬鹿馬鹿しくて愚かしい指示であっても組織の上層部から下される命令には絶対に従って貰わねばならないのは当然でありましょう。マスコミに上手にリークする方法を知らない愚直な保安官が一人、変な政府の変な官房長官の変な思い込みによる実に変な命令に背いたばかりに、チャイナの暴走船長を更に喜ばせるような処分結果になってしまったのは残念至極。

■出来ますれば「取り組みを徹底」して貰いたいのは、変な「柳腰外交」の「再発」の方なのでありますが、それは間も無く内閣支持率が笑ってしまうほど下落して、問責決議案の重みに耐えられなくなれば「石に齧りつく」菅アルイミ首相自身が、しっかりと「再発」防止に努めることになるのでしょう。でも、首相が変わるのが最も効果的なのですが……。


長官の会見は30分間で打ち切られた。……鈴木長官は「まだ地検の判断が出ておらず、捜査との関係があるので控えたい」と歯切れが悪いままだった。……元保安官が所属した第5管区海上保安本部(神戸市)でも、大島啓太郎本部長が「映像の流出はあってはならない行為。深くおわび申し上げます」と沈痛な表情で謝罪。元保安官には午後4時半過ぎに処分書を手渡したといい、「書面を読み上げて渡すと、無言で受け取った」という。元保安官はその後、樋口由幸・神戸海上保安部長の部屋を訪れ、「申し訳ございません」などと頭を下げたという。 

■組織としては「映像流出」は確かに「あってはならないこと」でしょうが、国家・国益を考える責任のある政府には有効な外交カードを勝手に秘匿してしまうような愚行こそ「あってはならない行為」でありましょうし、一色元保安官が謝罪したのは決して変な命令を下した内閣の誰かさんでもなく、いわゆる「国民の皆様」に対してでもないのでしょう。同僚達と組織に対しての謝罪に留まる一方で、本部長が謝罪している相手は任命権者の誰かさんになるのでしょうなあ。実に変な謝罪会見であります。本当に国民に謝罪しなければならない張本人が、まったく自分の非を認めていないのですから困ったものであります。


また、馬淵澄夫国土交通相も「職務上知り得た情報を故意に流出させたことは職員にあるまじき行為で、海上保安庁に対する国民の信頼を損なうことになり、心からおわび申し上げる」と謝罪。今後、流出防止対策を抜本的に見直すための検討委員会を立ち上げる考えを示した。
2010年12月23日 産経新聞 

■「国民の信頼を損なうことにな」ったのは、海上保安庁ではありません。したがって「抜本的に見直す」のは流出防止対策などではなく、現政権の外交に関する司令塔の不在という恐ろしい現実の方でなければなりますまいなあ。

そして誰もいなくなる? 其の壱

2010-12-24 15:37:40 | 政治
■民主党政権が金看板に掲げた「政治主導」というのは、政治家は(小沢系を除いて)常に絶対に正しく、悪いのは役人だけだ!という強固な信念の上に成り立っているのかも知れません。

仙谷由人官房長官(法相を兼務)は24日午前の記者会見で、林宏検事総長が辞任し後任に笠間治雄・東京高検検事長が就任する人事について、「検察の改革を進めるため、特捜内部のこともよく知悉し、改革志向の強い人事を実行することになった」と述べた。大林氏の辞任に関しては自発的だったと説明し、官邸の関与を否定した。
2010年12月24日 毎日新聞 

■寝た子を起こすでしょうから、今回は「検察の判断を諒(了)とする」とは言えない仙谷ノーコメント官房長官であります。日中間の外交関係を考慮して、拘留延長をしたばかりの暴走衝突船長を釈放してくれた実に気が利く「親思い」の那覇地検と責任を問われなかった検事総長との関係は闇の中なのですが……。

■大林宏検事総長(63)の引責辞任が伝えられたのは12月16日のことで、特捜部検事による証拠改竄という前代未聞の不祥事から続いた検察批判に白旗を揚げたようにマスコミは口を揃えて報道しているようです。しかし、就任して間もない大林検事総長の延命存続と引き換えに那覇地検に「外交判断」の越権行為を押し付けて、チャイナの暴走衝突船長を処分保留で釈放させたらしいともっぱらの噂になっておりましたから、この時期に突如として引責辞任するのなら別の理由があるのでは?と詮索してみましたら……。

■辞任の約1週間前に鹿児島で初の死刑か?無罪か?の究極の選択を迫られた裁判員裁判で、見事?検察の捜査と主張が真っ向から否定されて無罪判決が出ておりましたなあ。これは鹿児島市で昨年6月に高齢夫婦が殺害された凶悪な強盗殺人の裁判でしたが、ずっと無罪を主張していた白浜政広被告(71)が無罪判決を受け、危うく検察に殺されるところだったところを裁判員に救われたような話になりまして、御本人が判決後に晴れ晴れとした顔で早々と記者会見に臨んでいましたが、鹿児島地検は22日になって、「犯人性を認めなかったのは事実誤認」として控訴に踏み切っております。

■この控訴が検察の恥の上塗りになるのか、検察が威信を回復して信頼を得られるようになるのか?今のところは不明ですが、弁護側から「現場で採取された細胞片のDNA型鑑定や指紋・掌紋に偽装工作や捏造があった疑いがある!」と、まだ記憶も生々しいDNA型再鑑定の不一致で無罪釈放となった菅家利和さんの足利冤罪事件を思い出させるような厳しい反論が出され、判決は「偽装・捏造」とは断定できないけれど、被害者宅の網戸に付いていた細胞片は被告のものであっても、被告がいつ触ったのかは特定できない等の合理的な判断を下したのでした。ここでも大阪地検特捜部が仕出かしたフロッピー・データを改竄して証拠を「捏造」するという前代未聞の愚行を連想させる指摘があったのでした。

■無罪判決によって地に落ちた検察の権威は回復されないどころか、更に泥を塗られてしまったようなものですから、鹿児島地検は意地でも控訴して自分達が提出した「証拠」を認めて貰おうと考えるのは当然でしょうが、もしかしたらこの判決を聞いて検事総長は那覇地検を犠牲にして辞職を免れた己の行動を正当化し続けられないと思い至ったのではないでしょうか?

■間の悪いことに、この全国の注目を集めた死刑or無罪の裁判員裁判が鹿児島地裁で行なわれていたのも、検事総長が思い詰める原因になったかも?2003年に鹿児島県議選をめぐる選挙違反で起訴された被告12人全員が無罪になった「志布志・県議選事件」が未だに決着していない事を検事総長ならよく知っているでしょうからなあ。


志布志・県議選事件で無罪が確定した志布志市民らが起こした国家賠償請求訴訟は(12月)1日、鹿児島地裁(牧賢二裁判長)で進行協議があった。地裁が国と県に捜査記録の任意提出を促した文書送付嘱託について、県は「捜査会議議事録は作っていない。備忘録、メモもない」として提出できないと回答した。……国は来年2月4日の進行協議までに提出の有無を判断する見通し。同訴訟とは別に住民7人が県に損害賠償を求めた訴訟の進行協議もあり、県警の取調官8人と原告7人の尋問、関係者1人を証人尋問する方向で協議した。
2010年12月2日 南日本新聞 

■江戸時代の隠れキリシタン狩りでもあるまいし、「踏み絵」もどきの拷問まで行なった捜査は全国的に有名になりましたが、被害者が多いこともあり国家賠償の請求額は2億8600万円にもなるそうです。マニフェストを実行する財源が無くてピーピー泣いている現政権にとっては大きな負担になりそうであります。これから真相が明らかになる大阪地検の証拠改竄事件にも対応しなければならず、自分が総長に就任する前の失態に関してもあれこれ責めらそうだし、などと考えると尖閣衝突事件が起こる前に、大阪地検の改竄が発覚した直後に辞職しておけば良かったなあ、と御本人が考えたかどうかは分かりませんが、菅アルイミ内閣の代に検事総長が任期途中で辞職した事実は永久に記録に残るわけであります。