旅限無(りょげむ)

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ダライ・ラマ法王が訪米 其の伍

2010-02-08 11:22:20 | チベットもの
■奇怪な「正三角形」の夢を見ている日本の現政権には手に余る壮大なスケールの国際政治が、鳩山サセテイタダク首相が寝言のように繰り返す共同体構想の舞台となる「東アジア」で展開中なのでありますが、軽々しい言動と前言撤回を繰り返している今の首相には手に負えない大きなパズルのようであります。 
 
中国外務省の馬朝旭報道局長は(11月)3日、鳩山由紀夫首相がチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世に再会を希望するメッセージを送ったと報じられたことについて「いかなる国もダライの反中国分裂活動に便宜と舞台を提供することに断固反対する」との談話を発表した。馬局長は「チベット問題は中国の利益にかかわる」と強調した上で、「日本は両国関係の大局から出発し、慎重かつ適切に問題を処理することを希望する」と述べ、鳩山首相とダライ・ラマとの再会の動きをけん制した。
2009年11月3日 時事通信

■同年9月16日に就任した鳩山サセテイタダク首相は、こうして出鼻を挫かれてしまったのでした。そのまま民主党政権は「不起訴」幹事長の暴走もあって対チャイナ外交は腰砕けとなったまま、12月15日の特例天皇会見、小沢大訪中団の握手大会へと雪崩れ込んで行きました。そして、今となっては実に不思議なタイミングとしか言えない11月30日に、民主党は役員会を開いて「党所属議員に超党派議員連盟への参加を規制する」という新たな方針を了承していたのでした。陳情受付を一本化する話の方が注目されたので、超党派禁止令は聞き流されてしまったようなのですが、例外的に超党派議連で活動する場合は「幹事長室と十分協議の上、対応すること」という規則は小沢独裁そのものでしょうなあ。

■鳩山サセテイタダク首相からダライ・ラマ14世へのメッセージを伝えたのは「超党派」の議員連盟なのでした。
 
 
超党派の「チベット問題を考える議員連盟」の牧野聖修会長(衆院政治倫理・公選法改正特別委員長、民主党)らは(11月)1日午前、都内のホテルで、来日中のチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世と会談した。牧野氏は「再びお会いできることを願っている」とする鳩山由紀夫首相のメッセージを紹介した。首相は民主党幹事長だった2007年11月に14世と会談した際、チベットの「高度な自治」を支持する考えを表明。首相となった今回は中国との関係に配慮、会談は見送ったとみられる。しかし首相のメッセージ伝達は初めて。14世を敵視する中国政府が反発する可能性もある。

■「長城計画」の準備が着々と進んでいた時期ですから、会談を見送ったのは誰の意向かは簡単に分かります。メッセージを託したことも誰かさんは叱り付けたかも知れませんなあ。


牧野氏らとの会談で14世は「伝言」に謝意を表すとともに「何度か会っている鳩山氏が首相になってうれしい」と述べ、首相就任を祝う親書を送ったことを明らかにした。牧野氏は「(今回)お会いしたかったが、日程がとれなかった」との首相発言も紹介した。同席した議連メンバーが首相が提唱する「東アジア共同体」構想に対する見解を尋ねたのに対して14世は「いい案だと思う」と賛意を示した。また先月の訪米の際、延期されたオバマ大統領との会談について中国政府から中止を求める意向が伝えられていたことを明らかにした。

■さてさて、就任祝いの親書に対して鳩山サセテイタダク首相は返礼を送ったのでしょうか?怒鳴られる前に誰かさんに相談して自粛したのでしょうか?正体不明の東アジア共同体に賛意を示したのは外交辞令でしょうが、インドと米国を2本柱にしてチャイナ包囲網を作り上げる遠大な構想が隠されているかも知れませんぞ。それにしましても、オバマ大統領が会見を「延期」したのと鳩山サセテイタダク首相が会見を「断念」したのとでは大きな違いがあるような気がします。北京政府の反応を見てダライ・ラマ14世とオバマ大統領は阿吽の呼吸で「延期」したのに対し、鳩山サセテイタダク首相の方は大使館辺りから北京政府の圧力を感じた誰かさんが止めさせたのかも?


首相は代表時代の00年4月、都内で開かれた14世の来日記念レセプションに出席し、歓迎あいさつをするなど数度、14世と会っている。1日の会談には五十嵐文彦・衆院災害対策特別委員長、村越祐民衆院議員ら民主党議員らが同席した。
2009年11月2日 共同通信

■就任する前の言動を「封印」したり「撤回」し続けている鳩山サセテイタダク首相ですから、チベットにおける「高度の自治」を支持したことなど忘れてしまったことになっているかも知れませんなあ。

ダライ・ラマ法王が訪米 其の四

2010-02-08 11:22:03 | チベットもの
■当事者のチベット亡命政府側は、なかなか強かに米中関係の機微を読んで上手にバランスを取っているようです。何処かの国のように「正三角形」だの何だのと先走って大風呂敷を広げたりはしていません。

チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世とオバマ米大統領の会談予定に中国が反発している問題で、ダライ・ラマ側近のチョキヤパ秘書官は(2月)3日、「会談がチベットと中国の関係を損なうとは考えていない」と毎日新聞に答えた。……1月下旬、北京での非公式協議の中で中国側は、オバマ氏との会談「取りやめ」を要請。ダライ・ラマ代理人は回答を保留したが、ダライ・ラマはすでに会談に応じる意向を表明しており、事実上の要請拒否となった。しかし、非公式協議が決裂することはなく、「中国側のもてなし」と「腰をすえた話し合い」があり、チベット側は将来的なダライ・ラマ訪中の可能性も話題にするなど良好な雰囲気だったという。

■北京五輪の直前に四川パンダ大震災に続いて起こったチベット騒乱は、北京政府にとって忘れられない悪夢でしたから、今年の上海万博を前にして二度と同じ事が起こらないように、チベットには「対話」の飴を、既に火を噴いたウイグルには厳戒態勢の鞭を使って周到に着々と万博大成功!が実行されつつあるようです。さてさて、北京政府の思惑通りに長丁場の上海万博が成功裏に終わるかどうか、そろそろ世界中の耳目が集まり始めるのでしょうが……。


ダライ・ラマは16日前後にインドを出発。17、18の両日に米ワシントンに滞在する予定で、この間にホワイトハウスでオバマ氏と会談するとみられる。チョキヤパ氏は、ダライ・ラマとオバマ氏の会談について「一時的なもの」と位置付ける一方、「中国側とは長い年月をかけて関係を築いてきた」と強調した。チベット側はこれまで、米国の圧力を後ろ盾に中国側との交渉を進めてきた。しかし、中国の国力急伸で米国の力が相対的に低下。チベット側には、米国ばかりに頼っては問題を解決できないとの現実認識が広がっている。 
2010年2月4日 毎日新聞

■ダライ・ラマ法王は絶大な人気のある欧州や、略奪品の展覧会を開くようなちょっと複雑な日本でも活動を続けているのも、米国のパワーが相対的に低下している現実をよく理解しているのでありましょう。一方のチャイナとしても更に経済発展を続けるには、徐々に強権的な支配を変化させて人民の不満が爆発しないように巧みに誘導して行かねばなりませんし、国際的な地位を高めるためには自然破壊や環境問題でも後ろ指さされないように改善を進めねばなりますまい。そこに人権問題や文化破壊まで加わると、欧米に対抗する盛強大国に脱皮するのは難しいでしょうから、まずはチベット問題を軟着陸させる工夫が必要なのですが……。特にヒマラヤを挟んで対峙する隣国インドがチャイナの頭越しに台頭して世界最大の民主主義国家として欧米諸国と手を結んだりすると大変ですからなあ。