旅限無(りょげむ)

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続・間違いでは済まされない話 其の参

2006-09-19 22:59:34 | 外交・世界情勢全般


中国イスラム教協会の陳広元会長は18日、ローマ法王ベネディクト16世がイスラム教を侮辱したと受け止められる発言をしたことについて「協会と中国のイスラム教徒は強い憤りと非難を表明する」と述べた。新華社とのインタビューに答えた。中国国内には約2000万人のイスラム教徒がいると推定されている。
毎日新聞 - 9月18日

■チャイナのイスラム教徒は、回族とウイグル族とが大きな割合を占めますが、それ以外にも同じ信仰を持つ少数民族が存在します。清朝を滅亡させた勢力の中に、四川省と新疆との広大な地域に荒れ狂ったイスラム教徒の反乱が有りました。北京政府としても、上手にガス抜きしておかないと、何が起こるか分かったものではないので外交攻勢の材料に取り込みながら、ここは「信教の自由」を楯にして中東利権を守りつつ、国内の宗教的な不満を解消する一石二鳥の作戦を執っているわけですなあ。

ブッシュ米大統領は18日、ニューヨーク市内でマレーシアのアブドラ首相と会談し、イスラム教と暴力を結び付けたとされるローマ法王ベネディクト16世の発言にイスラム社会が強く反発している問題について、「法王は謝罪し、誠意を示したと信じている」と述べた。時事通信 - 9月19日

■行きがかり上、ブッシュ大統領はこう言うしか有りません。でも、自分がイラク攻撃の成功を宣言した時に用いた「十字軍」礼賛の言説に関しては、絶対に「謝罪」も「誠意」も見せることはないでしょうなあ。何だか政権末期を象徴するように、何かを言えば言うほど泥沼の深みに入っているような印象が強いですなあ。ちょっと古い記事ですが、ブッシュ大統領が素朴に信じ込んでいる現代の「十字軍」の正体が分かる話が有ります。


ブッシュ米大統領は…訪問先のブダペストで、ハンガリー動乱から今年で50年を迎えるのを記念して演説。自由への闘争を経て、社会主義政権の「圧政」から民主化を達成したハンガリーの歴史を例に、イラクでも自由を確立できると訴えた。治安の泥沼化が続くイラクは、かつてのハンガリーのように「犠牲と忍耐が必要」とも語った。民主化を求める市民が蜂起した1956年のハンガリー動乱は、当時のソ連の軍事介入で鎮圧され、多数が犠牲になった。大統領は、市民はそれでも「希望を持ち続け、1989年に民主化を達成した」と強調。市民を鼓舞した「民主化の理念」こそが、現在のイラクを率いるマリキ首相が支柱としているものだとの認識を示した。
共同通信 - 6月23日

■親父がレーガン大統領と一緒にソ連を崩壊させた「伝説」を、中東地域に強引に重ねているのが良く分かりますなあ。ハンガリー動乱もチェコ動乱も、米国はベトナム戦争に忙しくて結局は見棄てたのに、「希望」が民主化を達成したなどというアホな演説をしているのです。既に深刻な内戦状態になってしまったイラクに関して、さすがのブッシュ大統領もこんな演説はしなくなってしまいましたなあ。アフガニスタンは混乱の極致に近付き、イラクは外から流入するテロリストを追い回している内に宗教対立が噴き出し、おろおろしている間にレバノンが火を噴いて、米国本土は常に大規模テロが明日にも起こる心配が尽きない生活になりました。もう専門家の間でも、「何処で間違えたのか?」と問われても答えようのないどろどろの状態になってしまいました。米国の流儀は、アホな選択をした政権は最後まで間違いを認めず、単なる政権交代によって過去を隠蔽し続けるだけです。しかし、それが世界規模の大間違いだった場合には、米国内の政権交代だけで済む問題では有りませんぞ。

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続・間違いでは済まされない話 其の弐

2006-09-19 22:59:01 | 外交・世界情勢全般
■言った言わない、誤解だ誤解ではない、そんな水掛論の泥沼になると苦し紛れに「真意が伝わっていない」遺憾の意を表せば何とか切り抜けられる、それが日本の仕来りのようですが、文言の分析を続ければ最終的にはどんな意味にも取れるのが人の発言というものです。油断のならない仮想敵が予測できるような場合は、絶対に揚げ足を取られない原稿を練りに練っておかねばなりません。

AFP通信によると、イラクの国際テロ組織アル・カーイダ系武装勢力「アンサール・スンナ」を名乗る集団が18日、ローマ法王ベネディクト16世がイスラム教に侮辱的とされる発言をした問題について、ウェブサイト上に声明を流し、「ローマの城壁を破壊する日は近い」と報復テロを予告した。また、「ムジャヒディン諮問評議会」を名乗る集団も18日、ネット上に声明を発表し、「法王発言はブッシュの十字軍に動員をかけたもの」と非難した。同集団は、6月に殺害されたヨルダン人テロリスト、ザルカウィ容疑者配下の「イラクの聖戦アル・カーイダ組織」などの武装勢力で構成される。
読売新聞 - 9月18日

■世界的なネットワークを構築していたアル・カーイダでしたが、欧米諸国の分断工作で、かつての左翼過激派ゲリラ同様に、人民の解放を謳いながら貧しい庶民を襲う山賊に身を落として、支持を失って自滅するという既定コースに追い込まれていました。改めて反米ネットワークを再建するには「反・十字軍」キャンペーンが最も効果的でしたから、新法王の不用意な「引用」は渡りに船でしたなあ。


AFP通信によると、アフガニスタン南部カンダハル州で18日、自爆テロとみられる爆発があり、同地に展開する国際治安支援部隊(ISAF)所属のカナダ兵4人が死亡したほか、一般住民にも多数の死傷者が出ている模様だ。旧支配勢力タリバンが犯行声明を出した。爆発当時、カナダ兵らは子供たちに文具を配布中で、自爆テロ犯は、この人だかりを狙って自転車で突入したらしい。現地の警察署員によると、子供の負傷者は24人で、うち4人は重体だという。
読売新聞 - 9月18日

■高性能爆弾ならば、自転車の荷台に乗せられる分量でもこれだけの殺傷力を持っています。ペダルを踏んでいた犯人自身も胴体に爆弾を巻いていたでしょうから、標的にされたら無傷では済みません。「反・十字軍」の烽火が何処から上がるやら、まったく油断が出来ませんぞ。


フランスのシラク大統領は18日、ヨーロッパ1ラジオで、イランの核問題について「対話を含まない解決策はない。最後まで対話の道を探るべきだ」と述べ、イラン制裁に慎重な姿勢を示した。イランは、国連安全保障理事会の制裁警告決議にもかかわらず、8月末までにウラン濃縮停止に応じておらず、米国などが早期に事態が進展しない場合は、制裁を検討するよう主張している。シラク大統領は制裁について、「常に制裁に反対してきた。制裁が効果的だったことはない。制裁が必要な場合でも、適度なものにとどめなくてはならない」と語った。仏が対話を重視するのは、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに強い影響力を持つイランを刺激すれば、レバノン紛争が悪化するとの懸念があるためだ。
読売新聞 - 9月18日

■万一、イランが自国が開発している核兵器を全イスラム教徒のための「核の傘」に格上げして、弾頭の横っ腹に「反・十字軍」と書き込んだらどうなるのでしょう?忘れならないのは、血みどろの十字軍戦争が繰り広げられた主たる舞台は現時のイスラエルとレバノンだったという歴史的事実です。取ったり取られたりを重ねた欧州軍とイスラム軍は、基本的には同じ性能の武器を持っていたのです。地の利を得ていたイスラム側の方が、巨大な兵器を大量に使えた時が多かったようですが、欧州側は暗黒の中世時代に鍛えた構城技術で強固な要塞を点在させて頑張ったのでした。今でもイスラエルのあちこちに十字軍要塞の遺跡が残っています。その伝で言えば、米国からさ最新兵器を供給されている上に核武装しているイスラエルを十字軍の尖兵と見れば、イスラム側も同様の兵器を装備しなければ十字軍時代の再現にはならないという理屈です。