旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

ドキュメンタリー『アウシュビッツ』

2005-08-27 08:45:01 | 歴史
■NHKが終戦60周年記念の一環として、とても良い番組を放送してくれました。残念ながら、皆様のNHKではなく英国BBCが米国と協力して制作したドキュメンタリー作品です。さすがに情報収集能力と分析力を世界に誇る英国です。CGの使い方も適切でしたし、何よりも生存している当事者を引っ張り出してインタヴューした手腕には脱帽します。歴史研究に関しても長い伝統を持っている英国ですから、重要な出来事を漏らさず拾い上げて時系列に沿って並べて再構成された歴史は、一つの必然性を持って我々に語りかけてくれました。

■単なるナチス弾劾やヒトラー批判ではない歴史ドキュメントは、それぞれの当事者と当事国の事情や思惑に翻弄されるユダヤ人の姿を浮き彫りにしましたし、愚かな羊のように殺されてしまったように見えるユダヤ人達の中にも生き残る工夫をする者が沢山いたことも描かれました。皆様のNHKがなかなか再放送してくれない「天皇を死刑にしろ!」という裁判祭り番組などとは比べようもない良質な「人間ドキュメンタリー」作品でした。乱雑な反ユダヤ人思想が、政治機構の中で具体的な政策として決定され、それぞれの役割分担が決り、一つの職業としてアウシュビッツの建設と運営に携わって行く人々の動きが、何とも恐ろしく、異常な人々が犯した異常な犯罪行為などではない「最終的な解決策」の流れが良く分かりました。

■再現映像のドラマも抑制が効いた演出でしたから、恐るべき犯罪行為をしながらも一家庭人として暮らしている所員の姿が鮮明に復元されました。効率的な絶滅方法を試行錯誤しながら完成させてから、たった2年間で100万人を処理してしまったアウシュビッツという施設の内実がこれほど詳細にかつ冷静に描かれたことは無かったのではないでしょうか?サイマル出版が翻訳を出していたルドルフ・ヘスの自伝を読んだことが有りますが、その時に想像したヘスの実像は自分の罪を逃れるために嘘を混ぜた強弁を続ける悪人でしたが、今回のドキュメンタリーが再現したヘスは、有能で小心な官僚そのものでした。追求を逃れて偽名で農夫となって身を隠しながら、密かに妻とは連絡を取り合っている家庭人としてのヘスは、単純な憎悪や嫌悪の対象にはなりません。その流れの中に、南米に逃れたアイヒマンも出て来るのですが、ナチス政権の中で少しでも出世しようと努力しただけの小役人達が、自分がしている事をよく理解していたという事実の恐ろしさが、とても良く描かれていました。

■第一回は『大量虐殺への道』と題されて、有名な「ワンゼー湖畔の会議」を再現ドラマで見せてくれました。この会議は以前にも再現ドラマ化されていますが、今回はモノクロ画面にして演出も抑え目でしたから、単なる上層部の決定に従って政策を具体化するだけの事務的な会議であったことが上手に表現されていたようです。四半世紀前に、ポーランドのクラクフからバスに乗ってアウシュビッツを訪ねたことが有りますが、保存されている施設はほんの一部分ですし、見学用に整備されているので妙に清潔な感じがして違和感が有りました。それは、広島の原爆ドームの現物を見た時の違和感に似ています。

■実際のアウシュビッツは、正視に堪えない不潔さと悲惨さが満ちた場所でしたし、何よりも悪臭と死臭と死体を焼く煙の臭いに包まれた場所でしたから、それを追体験など絶対に出来ません。現場を訪れて、その違和感が氷解したのは、長い長い廊下の壁を埋め尽くしている葉書大の写真展示でした。何とも言えない表情でカメラを見詰める無数の顔がずっとこちらを見詰めているのです。今回のドキュメンタリーでは一部しか映されませんでしたが、殺す側と殺される側の一人一人にスポット・ライトを当てる手法なので、あの一枚一枚の写真の視線に射すくめられて涙が止まらなくなった時の衝撃に似た感覚が蘇りました。

■映画の『栄光への脱出』に、強制収容所出身の若者が爆発物を扱える特技が有ると言ってイスラエル独立闘争に志願する場面が出て来ます。その青年はどうやって爆発物を扱える技術を身に付けられたのかを組織のリーダーが問い詰めて行く場面です。秘密厳守の鉄の団結を必要とする戦闘集団ですから、過去も正直に告白しなければならないので、取り繕っていた青年は最後に本当の話をして絶叫しるのです。彼は絶滅キャンプの死体処理用に大きな穴を作る仕事をしていたのでした。映画を観た時の驚きが、今回のドキュメンタリーでは更に詳しい説明で深まりました。ガス室の処理仕事は、4人のナチス親衛隊員と100人の使役係のユダヤ人によって担われていたのです。その仕事をしていた生き残りが、カメラの前で証言する場面には息を呑みました。

■映画の『マラソンマン』や『ブラジルから来た少年』などでも描かれた地獄の天使の異名を取った医師のメンゲレもちゃんと出て来ましたし、有能なのか無能なのかよく分からないヒムラーの扱い方も決め付けずにバランスの取れたものでした。歴史ドキュメンタリーというのは、このように作るのだなあと大変に勉強になる作品でした。いつか再放送される事が有りましたら、五回シリーズの一回分だけでも御覧になるのを強くお勧めします。日本でも、GHQが創作した太平洋戦争物語や、ソ連のコミンテルンが作ってくれた民族解放物語を卒業して、あの戦争を描く視点を徐々に確立しつつありますが、間違ってもナチスと大本営とを同じように扱ったりしては行けませんぞ!欧州とロシアの長い反ユダヤ思想の流れと、東アジアの清朝崩壊以後の近代化の歴史はまったく別の歴史なのですから……

国会に行きたいかア!

2005-08-27 00:20:35 | 政治
■日本の未来を決める重要な選挙だと騒がれながら、何がどのように重要で、どこをどのように変えると、100年後の日本が見えてくるのかさっぱり分からないまま、テレビ・メディアにとって書き入れ時の大事な週末に入ってしまいました。

■昔、日本テレビという面白いゲテモノ好きのテレビ局が有りました。エ?今も有るんですか?有りますね。でも、福留さんという小柄なアナウンサーはもう居ませんね?日本テレビは、大橋巨泉さんという小器用なのに何をやってもモノにならない珍しい「俳句読み」を使って、昔は面白い番組を作ったそうです。「テレビ司会者」という不思議な商売で稼いだそうですが、オウム真理教のペテンを真に受ける若者を沢山養成するような、「UFO専門プロデューサー」を筆頭に、スプーンが曲がるの曲がらないのと大騒ぎを起こしたオチャメなイスラエル芸人を来日させたのは大橋巨泉さんです。


野球は巨人、司会は巨泉。ウッシッシ

という今でも意味の判らない独自の売り込み言葉をあちこちで言い触らしていたそうです。当時は珍しい可愛いオネエチャンの太モモやら乳房をちらちらみせながら、奇妙な深夜番組を開発したテレビ界の偉人らしいのですが、その御威光は相当なもので、海外に日本人相手の土産屋という地味な商売をしながら引退生活をしていたのに、突如として民主党の候補者として立候補して、勝手な事を言い振りまわって100万票以上の支持を得て国会に入ったと思ったら、半年もしない内に、「ひきこもり」になって家出したそうですなあ。

■戦後の「自由」だの「民主主義」だのを米国から恵んで貰った生々しい体験を持っている世代の日本人には、こういう傾向が見受けられるような気がします。自由や民主主義はもっともっと心地良くて便利で、自分の我儘が通るものと誤解している被占領体験者は、早めに自分達が体験した時代の特殊性を知って、思い込みだけであれこれ発言したりしない悠々自適の生活に入って頂きたいものです。さすがに懲りて、この国民総出のお祭選挙には、出て来ないようです。(本当に出て来ないでしょうね?)日本テレビというところは、巨人軍というプロ野球チームが必ず毎年優勝するという信条を共有するカルト組織なので、ここを退社して別の放送局で小銭稼ぎをし始めるオジさん達も「巨人カルト」として愛想を振り撒いています。あと二三年すれば、本当に貴重な見世物になる可能性が有るので、初心貫徹!浮気や自己批判は厳禁ですぞ!

■さて、オウム真理教事件で大騒動だった頃に、日本テレビは「ハンド・パワー」「来てます。来てます。」という日本語だか英語だか判らない事を言いながら腕まくり姿で素顔を見せずに手品をする人を引っ張り出します。単なるマジックではないので「マリック」という名前で、超能力すれすれの演出で視聴率を稼いだのでした。その時に、常にサクラとなって大ハシャギしていたのが、「ニューヨークに行きたいかア」と進駐軍の手先みたいな事を大声で言っていた福留さんでした。一緒に手品を演じているのですから、タネも仕掛けも分かっているのに、「不思議だ!」「奇跡だ!」と電波を混乱させていたのが福留さんで、何がどうなったのかは分かりませんが、今ではTBSに雇われてボロ儲けしているらしいとの噂で、特に土曜日の夜に放送しているすっかりマンネリ化した猫ナデ声のワイド・ショーが人気らしく、舌ったらずの奇妙な日本語を売り物にしているお嬢さんが一週間のワイド・ショー・ネタを短時間に見せてくれるので、案外、忙しい人たちが便利に利用しているようですなあ。

■日頃は目新しい事も放送しないらしいので、余り見ないのですが、猫の目のように選挙情勢が変化するので、一応、新情報でも有るかと見てみたら、やってくれました福留さん!ただの手品商品の卸し問屋だったマリックさんを超能力者に仕立て上げた手法はまだ生きているようです。ホリエモン君を出演させて、「小泉さんはカッコ良いですからね」の一言を引き出しました。これは大したものです。何を勘違いして大騒ぎしているのか分かりませんが、レッサーパンダは後足で立つという当たり前の事を知らなかったアホな日本人が、動物園に押し寄せるのと同じで、尾道にホリエモン君が行ったというだけで、自慢の携帯電話のカメラを並べてきゃあきゃあ言っている人々の姿も映してくれました。

■この映像は、どこのテレビも大喜びで使ったようですが、よくよく見れば大した人数が集まっているわけでもないのに、「大変な人気ですねえ」などと頼まれてもいない大本営発表をしているようですなあ。プロ野球が話題になれば一番安い球団を買う!と言い、地方競馬が潰れそうだと聞けば「買おうかなあ」と言って見る。あの後、忙しいホリエモン君がどこかの野球場に現れた話は聞ききませんし、余った金で駄馬を買っているのに、競馬場に通っている話も出ませんなあ。忙しいのか暇なのかさっぱり分からないホリエモン君が、全弾撃ちつくした小泉さんのところへ、民主党の岡田さんに振られた後に売り込みに行ったという話らしいのに、マスコミは選挙報道の目玉商品にして大ハシャギしているようです。

■そのホリエモン君を実況生中継で最初にインタヴューする度胸は福留さんにしか無かったのでしょう。案の定、どうでも良い話と一昨日喋って新聞に載っている話しかしていなかったので、観て損したかと思っていると、「小泉さんはカッコ良い」の一言です。小泉さんのどこらへんがカッコ良いのかは詳しく説明しませんでしたが、ホリエモン君は小泉さんがカッコ良いと思っている事は確かです。米国から日本に流れ込んだIT長者の小集団は、何故か素人目にカッコ悪いのです。米国の成金趣味丸出しのカッコ悪さがIT界の標準となってしまったらしく、大金持ちになって困っている子供のような風情の人物ばかりで、プロの風格も迫力も無いのが不思議なのです。ビル・ゲイツさんもIT技術よりも市場独占に成功する法律知識を誰よりも上手く使っただけの人だ、と意地悪く言う人もいるくらいで、市場を作って囲い込んで独占する。これが成功の秘訣のようですなあ。そして、離合集散を繰り返す中で、猫の目のように短時間の栄枯盛衰が常態化していて、シリコン・バレーの夢は次々と新しいヒーローを生み出しています。つまり、無数の敗残者が裏に居るということなのですが、マスコミは成功者だけを拾い上げますなあ。

■IT産業で一番儲かるのが、気楽に借金が出来るファイナンスと、一人だけの部屋で怪しげな映像を楽しめるアダルト・サイトだと言う人もいます。ブログをやっていても、今のところブログでは「金貸し」は無理なので、奇妙な写真映像を貼り付けてヒット数を稼ごうとしたり、強引なトラック・バックを仕掛ける馬鹿者もいますなあ。ですから、商売としてポータル・サイトを経営しようと思ったら、同じ手口で稼ぐだろうと想像は出来ます。新しい商業メディアを半独占状態で経営する人が巨大な利益を集めるのは不思議な事ではないのですが、利益を再投資する時に多くの経営者が失敗して行くようです。ネット情報が自立して既存の情報メディアは滅びると啖呵を切ったホリエモン君でしたが、郵政民営化に関しては、出来の悪いブログの受け売り程度の話しか出来ないようです。

■小泉さんは「新しい時代の息吹きを感じる」そうですが、既にホリエモン君は過去の人なのではないでしょうか?野球・競馬・宇宙旅行の次の話題が総選挙だっただけなのではないか?とこれまでの遣り口を知っている人たちは思っているでしょう。案外、地方都市ではそんな時代の空気が伝わらない場所が多いのかも知れませんなあ。東京を離れられないホリエモン君を瀬戸内の有権者が選んだら面白いでしょうが、人を馬鹿にした選挙運動が始まれば何度目かの恥を上塗りして、次のスポット・ライトを求めて移動するでしょうなあ。万一、当選でもしたら、否、落選してもリクルート疑獄と同じ事をしてしまう可能性が高いような気がしますので、民主党からの最終兵器として送り込まれたと思って楽しみにしていた方が良いかも知れません。

■同じ福留さんの番組で、松田聖子さんという人が、台湾で公演したという地味?な芸能ニュースを放送しました。米国で失敗して日本でも落ち目になってから台湾へ、というのは台湾を馬鹿にしているような気がします。何でも米国一番!で凝り固まっている小泉さんが元気なものですから、とても印象深いニュースでした。さて、したたかな松田聖子さんに負けずに、ホリエモン君が一週間でも選挙運動でスポットライトを浴びていられるか、これは見ものですぞ。いつもの事とは言いながら、マスコミの皆さんには、あまり露骨に掌を返すような豹変ぶりは見せて欲しくありませんなあ。TBSが社運を懸けてホリエモン君を追跡取材するつもりなら、初心貫徹して、福留さんに得意の「国会に行きたいかア」「スゴイ、スゴイ、キテマス、キテマス」を発揮ししてもらって選挙をせいぜい盛り上げて欲しいものでございますなあ。