其の四の続き
■高度成長期に政策的に起こされた巨大な人口移動は全国的なものでした。そして、それに続いて、田中角栄さんが提唱した『列島改造論』は、地方の中核都市への人口移動を誘発したのですから、過疎地と中途半端な過密と異常な過密という三色に日本は分けられてしまったわけです。中途半端な過密都市を新幹線で結ぶと、どんなご利益が有るかと言うと、農山村から地方都市へと若者はとんどん引き寄せられ、その中から更に大きな地方都市を経由して東京を目指す人口移動が止まらなくなるのです。その東京自体は、皇居と官公庁街を中心に抱え込んで成長した都市ですから、人口密度の高低差は世界一激しい都市になってしまいました。何度目かの再開発によって出現した超高層ビルの中に用意された住宅とは呼べない価格の空間が、全国から注目されているのは、人が住めないはずの場所に住んでいる人間に対する興味が生まれているからでしょう。
■東京の中心地は、生活人口で見れば、恐ろしいほどの過疎地域です。全国から押しかけた人々は、何故か東京の外へと外へと押し遣られ続けて、居住空間の同心円は際限も無く外へ押し広げられているのが東京という場所でしょう。この同心円が近隣の千葉・埼玉・神奈川を飲み込んで、境界線がまったく見えないノッペラボウの都市とは呼べないモノを作り出しました。欧州の都市のように、芸術家が集まって風景画を描いている場所も無く、劇場を持っていても海外からの観劇者はほとんど見当たらず、海外からの観光客が集まる文化施設や宗教関連の名所も無いのが東京ではないでしょうか?もしも、海外からの客人を案内しなければならなくなったら、と想像してみれば東京という場所の特殊性が分かるでしょう。
■「東京に出れば幸せになれる」と皆が信じた日本は、もう有りませんし、東京に膨大な人口を供給した地方には、将来の東京を支える人材を育てて送り出す余力が無くなっているのです。日本は、地方から壊れ始めているような気がしてならないのです。
働き盛りの男性を中心に自殺者が増え、7年連続で3万人台が続く状況を受けて、厚生労働省は鬱(うつ)病による自殺を減らすための大規模研究に着手する。……厚労省の04年の人口動態統計では、自殺者は三万227人……警察庁のまとめでは98年以降3万人超が続いている。……厚労省の研究班(主任研究者=樋口輝彦・国立精神・神経センター武蔵病院長)は……「地域特性に応じた自殺予防地域介入研究」「鬱による自殺未遂者の再発防止研究」の二つの研究計画を提案した。……自殺者が多い秋田、岩手、青森、鹿児島各県などの地域介入では自殺予防効果も出ているという。
2005年6月12日 朝日新聞一面より
■飲酒による疾病や運転事故が多いのも、同じ地域です。「均衡有る発展」や「地方の活性化」がすべて嘘であることは、もう隠しようも無い事実になってしまいました。この日本の歪(いびつ)さは、明治新政府が成立する前後の歴史的事情を原因としているのは明らかでしょう。「戊辰戦争」と「西南戦争」以来の、中央政府からの蔑視政策が解消されないまま、列島改造とバブル経済を通過した歴史の残骸が、こうした数値になっているのです。その間の三度の対外戦争でも、激戦地に送られる兵の出身地には見事な差別構造が埋め込まれていたという事実も有りますし、最近の「イラク派遣」に際しても、派遣先が酷暑の砂漠地帯だというのに、寒い北海道・東北の部隊から送られてのは何故でしょう?
■新聞もテレビも、東京に拠点を定めて情報発信を続けている異常な状態がまったく是正されずに、ますます酷くなっています。報道番組で、「町の声を聞いてみました」という枕言葉の後に続くのは、東京都下の新橋駅周辺で歩いている酔っ払いのサラリーマンか、銀座を歩いている女性達ばかりが目に付きます。これは「町の声」ではなく、新橋駅前の声、銀座をほっつき歩いている人の声、それ以上のものではありません。地方から集まったスタッフによって作られる情報が、全て「東京製」になってしまうことに、何の危機感も不自然さも感じないようなジャーナリストなど百害あって一利なしですなあ。「東京人」である事自体に、何らかの価値が有るという幻想を振りまく限り、東京の治安と福祉制度は悪化し続けるに違いありません。それを、また「東京の危機」として報道する愚か者が出て来るのでしょうが、それは「日本の危機」ですぞ!
其の六に続く
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■高度成長期に政策的に起こされた巨大な人口移動は全国的なものでした。そして、それに続いて、田中角栄さんが提唱した『列島改造論』は、地方の中核都市への人口移動を誘発したのですから、過疎地と中途半端な過密と異常な過密という三色に日本は分けられてしまったわけです。中途半端な過密都市を新幹線で結ぶと、どんなご利益が有るかと言うと、農山村から地方都市へと若者はとんどん引き寄せられ、その中から更に大きな地方都市を経由して東京を目指す人口移動が止まらなくなるのです。その東京自体は、皇居と官公庁街を中心に抱え込んで成長した都市ですから、人口密度の高低差は世界一激しい都市になってしまいました。何度目かの再開発によって出現した超高層ビルの中に用意された住宅とは呼べない価格の空間が、全国から注目されているのは、人が住めないはずの場所に住んでいる人間に対する興味が生まれているからでしょう。
■東京の中心地は、生活人口で見れば、恐ろしいほどの過疎地域です。全国から押しかけた人々は、何故か東京の外へと外へと押し遣られ続けて、居住空間の同心円は際限も無く外へ押し広げられているのが東京という場所でしょう。この同心円が近隣の千葉・埼玉・神奈川を飲み込んで、境界線がまったく見えないノッペラボウの都市とは呼べないモノを作り出しました。欧州の都市のように、芸術家が集まって風景画を描いている場所も無く、劇場を持っていても海外からの観劇者はほとんど見当たらず、海外からの観光客が集まる文化施設や宗教関連の名所も無いのが東京ではないでしょうか?もしも、海外からの客人を案内しなければならなくなったら、と想像してみれば東京という場所の特殊性が分かるでしょう。
■「東京に出れば幸せになれる」と皆が信じた日本は、もう有りませんし、東京に膨大な人口を供給した地方には、将来の東京を支える人材を育てて送り出す余力が無くなっているのです。日本は、地方から壊れ始めているような気がしてならないのです。
働き盛りの男性を中心に自殺者が増え、7年連続で3万人台が続く状況を受けて、厚生労働省は鬱(うつ)病による自殺を減らすための大規模研究に着手する。……厚労省の04年の人口動態統計では、自殺者は三万227人……警察庁のまとめでは98年以降3万人超が続いている。……厚労省の研究班(主任研究者=樋口輝彦・国立精神・神経センター武蔵病院長)は……「地域特性に応じた自殺予防地域介入研究」「鬱による自殺未遂者の再発防止研究」の二つの研究計画を提案した。……自殺者が多い秋田、岩手、青森、鹿児島各県などの地域介入では自殺予防効果も出ているという。
2005年6月12日 朝日新聞一面より
■飲酒による疾病や運転事故が多いのも、同じ地域です。「均衡有る発展」や「地方の活性化」がすべて嘘であることは、もう隠しようも無い事実になってしまいました。この日本の歪(いびつ)さは、明治新政府が成立する前後の歴史的事情を原因としているのは明らかでしょう。「戊辰戦争」と「西南戦争」以来の、中央政府からの蔑視政策が解消されないまま、列島改造とバブル経済を通過した歴史の残骸が、こうした数値になっているのです。その間の三度の対外戦争でも、激戦地に送られる兵の出身地には見事な差別構造が埋め込まれていたという事実も有りますし、最近の「イラク派遣」に際しても、派遣先が酷暑の砂漠地帯だというのに、寒い北海道・東北の部隊から送られてのは何故でしょう?
■新聞もテレビも、東京に拠点を定めて情報発信を続けている異常な状態がまったく是正されずに、ますます酷くなっています。報道番組で、「町の声を聞いてみました」という枕言葉の後に続くのは、東京都下の新橋駅周辺で歩いている酔っ払いのサラリーマンか、銀座を歩いている女性達ばかりが目に付きます。これは「町の声」ではなく、新橋駅前の声、銀座をほっつき歩いている人の声、それ以上のものではありません。地方から集まったスタッフによって作られる情報が、全て「東京製」になってしまうことに、何の危機感も不自然さも感じないようなジャーナリストなど百害あって一利なしですなあ。「東京人」である事自体に、何らかの価値が有るという幻想を振りまく限り、東京の治安と福祉制度は悪化し続けるに違いありません。それを、また「東京の危機」として報道する愚か者が出て来るのでしょうが、それは「日本の危機」ですぞ!
其の六に続く
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