竹原BLOG:奈良民話祭り ― グリム童話・メルヘン・語りの文化 とっておきの話。 

夏の奈良民話祭り:8月5日(金)午後3時より奈良町物語館で4回公演!
奈良燈花会に行きがてら、ぜひ来てくださいね!

吉野の伝説「弘法清水」

2010年08月02日 | 日記
前回のブログでお約束したとおり、東吉野村で採取した「弘法清水」を語りましょう!


弘法清水

川上村の東川(うのかわ)は、山の高いところにある。
むかしは井戸がなくて、水を汲むのに下の谷川までおりて行かんならんかったそうや。

ある夏の暑い日に、弘法大師さんが旅の途中、東川まできて、ある家に寄らはってん。
ほんで、家の外から、
「のどが渇いています。どうぞ水をください。」
て、頼まはったんや。

すると、おばあさんが出てきて、
「ちょっと待ってくださいや。今ここには水がございませんので。ちょっと待ってください。」
いうて、桶ををさげて下の谷川まで水を汲みに行ってん。
ほんで、長いこと経って帰ってきて、水をお大師さんに差し上げたんや。

お大師さんは、
「汗だらくになって何してくれた。そこまでしてくれたか。
よし、それやったら、わたしが、ここい水が出るようにしてあげよう。」
いうと、そこにあった岩を、金剛杖でトントントンと三べんついて、
願をかけはってん。すると、その岩から、水がこんこんと湧き出てきてんて。


(切り絵:木村和煕)

それからは、村の人たちは、川に水を汲みに行かんでも、
その泉からおいしい水をいただいて、水で苦労することはなくなったそうや。

その泉を「弘法清水」というて、いまも、あの高いところで水が湧き上がってるそうや。


原典:竹原威滋/丸山顯徳共編『東吉野の民話』
語り手:花谷政治郎(東吉野村中黒)
再話:村上郁