波風立男氏の生活と意見

老人暮らしのトキドキ絵日記

映画『秋刀魚の味』を観る

2024年01月16日 | 日記・エッセイ・コラム

小津安二郎監督の遺作『秋刀魚の味』、昨年末のTV録画(BS)で観る。戦後映画の最高傑作という評判と事件らしい事件の無い家庭劇とが結びつかず「観なくても良いか・・・」と思っていた。感想は、観て良かった(笑)。その1番は、画面構成の凄さ。小説で言えば文体になるが、どの場面も計算されていて斬新。襖や障子の位置や開き加減、光と闇、卓の着座位置、団地の布団干し場面、一つ一つがスッキリ味の舞台美術。役者も必要最小限というか無駄のない演技で立場(家族、友人、職場での)と心情を表現。予想外のユーモアで笑わせる。笠智衆が名優と言われる所以。

昭和のモダニズムが2番目。60年代の高度経済成長(1962年の映画)の都市生活者の暮らしは明るく希望に満ちていた。波風翁が波風ちゃんだった昔、よそ行きの服着てデパートや映画館の賑やかな中心街に行った時の色や空気の記憶がスクリーンに満ちている。第3は、中学時代の『恩師』の扱い。学歴高く成功した教え子たちは大人としての扱いはするが敬意は無くウダツの上がらない元漢文教師を陰で笑い憐れんでいる。マアこんなところか、今だって。

男はしょうもないなあ、ちゃんと自立すれよが見どころかな。戦前の家父長制が戦後に民主的な男女同権の制度には変わっても、家庭は急に変われない。妻が亡くなり、仕事も退職し、自分一人になった時に男はどうするかは高齢者+多死の社会の今まさに大問題。いたるところでの喫煙も、上司から部下への「まだ結婚しないの?」「何歳になったの?」、男友だち同士の性的冗談、息子に「子ども作らないようにしているのか?」のやりとりは今は全部禁句だが、少し前までは当たり前だったなあ。心躍る黒澤映画と真逆の心しみじみ映画。

【説明過多でうるさい予告。当時はどんな映画もこんな紹介していたのかなあ】


この映画の父親(笠智衆)と同級生たちは、年齢設定が定年退職までまだ間のある50代中ごろ。24歳の娘の結婚に揺れる父親で髭を生やしている。今の波風氏よりかなり年下だが、戦争から帰ってきた自分の父親たちの輝かしい時代「戦争」を要所で描いている。元部下との間で、もしアメリカに勝っていたらどうなっていたでしょうね、負けたから良かったんだ、のスパッとした会話。

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