いまさらながらの原点回帰
あの世に聞いた、この世の仕組み
極楽飯店.10
※初めての方はこちら「プロローグ」、「このblogの趣旨」からお読みください。
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「…メ、メシを食わせてもらえるのか!?」
田嶋の言葉に、坂本がいち早く反応した。
「ええ、弁当と飲み物が貰えるんですよ。僕、これから貰いにいきますけど、皆さんの分も一緒に貰ってきましょうか?」
田嶋がそう言うと、メンバーは皆、目をぎらつかせて力強く頷いた。
「ただ…、食べられるかなぁ…。まあいいや、とりあえず、人数分貰ってきます」
ピッと敬礼をすると、田嶋は巨体を揺らしてドタドタと駆けて行った。
「た、助かった…。昨日から、ずっと腹が減ってたんだよ…」
坂本はそう言うと、ドタリと地面にへたりこみ、大げさに腹をさすって見せた。
慣れない肉体労働のせいだろうか。俺にもようやく空腹感がもどっていた。
坂本が座り込むと、他のメンバーもつられるように脱力し、その場に腰を下ろす。思いがけない休息の知らせに、皆、安堵の表情を浮かべている。
「お待たせしました~。弁当でございま~す」
まもなく、田嶋が弁当と飲み物を抱えて帰ってきた。
「一応貰ってきましたけど、口に合うかどうかは別問題ですからね」
田嶋は意味深な笑みを浮かべながら、折り詰めされた弁当とボトルをメンバーに手渡していく。
「多少不味くてもかまわんさ。食わせてもらえるだけでもありがたい」
坂本はそう言うと、早くよこせと言わんばかりの勢いで弁当箱を持っていった。もの凄いスピードで、ガサガサと包装紙をはぎ取る。が、その後ふたを開けたとたんに、顔を硬直させてフリーズした。
「ほらね」
田嶋が「いわんこっちゃない」とつぶやきながら苦笑いを浮かべた。
坂本が、ふたを閉めながら田嶋に向かって言う。
「これは…、口に合う合わない以前の問題だろう…」
「そうですよね」と田嶋が笑う。
二人の意味不明の会話を聞いていたら、続けて藪内が「うげぇ…」と漏らした。
なんなんだ、一体。
「田嶋さん…、これ、マジっすか…」藪内が頬をひきつかせながら田嶋に目を向ける。
「ええ。マジです」
「た、田嶋さんは…、これ、食えるんですか?」
「ええ。慣れました」
「マジっすか…」
「マジです」
自分の弁当を開けると、一連の会話の謎は解けた。
ぱっと見は確かに弁当らしくは見えるのだが…、その箱の中にあるのは、確かに虫だった。
ひじきの煮物みたいに見えるそれは、ムカデの様な何か。エビチリの様に見えるそれも、カブトムシの幼虫のような何か。ご飯の様に盛られた白い部分は、ウジ虫だろうか。それらの影からちらりと見える添えられた緑の葉も、こうして虫と一緒に並べられると、別な意味のものに見えてくる。
「やっぱり、食えませんか?食べないなら、僕、貰いますけど」
メンバーの狼狽をよそに、田嶋はモシャモシャと自分の弁当を頬張っていた。
その様子を見て、白井が吐き気を催している。
「よく食えるな……」
坂本がそう言うと、田嶋が虫を頬張りながら答えた。
「僕も、ムシャムシャ…、最初はさすがに食えませんでしたけど…、ムシャムシャ…、結局、空腹には勝てなくて。ゴクッ、確かに、いまだ抵抗はありますけど、食えるようにはなりましたよ」
「毎日…、こんな食事なのか?」と、坂本が不安げに尋ねる。
「ええ。メニューは日替わりで違いますけど、結局、どれもこれも虫です」
「マジかよ…」そう言って藪内がうなだれていると、田嶋は続けて話し出した。
「でも…、モグモグ…、考えてみれば、虫を食うってこと、あるじゃないですか。クチャクチャ…、例えば…『はちのこ』とか『イナゴ』とか。カタツムリは…あれは虫かな?」
「いや、そうは言うが、これはその…ウジとか、そういうものにしか見えんのだが…」
坂本がそう言うと、「でも…、随分前に聞いた話ですけどね、イタリアのなんとかっていう地方には、ウジの入ったチーズがあるらしいですよ。それは、生で食うらしいですから、それに比べたらまだいいんじゃないですか?一応、どれも調理されてるし」と田嶋が答えたが、その言葉に納得して、弁当を食べ出すものはいなかった。
その後、田嶋が二人前の弁当を平らげて食事は終了。坂本は最後まで果敢にチャレンジしようとしていたが、結局、その弁当を口にすることはなかった。田嶋以外は皆、ボトルに入った飲料だけを胃に流し込み、空腹をごまかしている。場に沈黙とため息が流れた。
「田嶋、休み時間のうちに聞きたい事があるんだが…」
こいつに質問をするのも癪だったが、俺は、どうしても聞いておきたいことがあった。
「え?……この後の、作業内容ですか?」
「いや、そうじゃない。……この世界の事を教えてくれないか」
「はい?」
「ここは、俺たちが生きていた世界と、どういう違いがある?」
「え?」
「この世界は、人間界とどう違うんだ?」
「え?どういうことですか?」
「……実は、耳がなくなったんだ」
そう言って俺はヘルメットを取り、田嶋に顔の左側を見せた。
「み、耳、ですか?」
「ここに来て、突然なくなったんだ。なぜだ?」
「な、なぜって聞かれても…。僕にはさっぱり…」
「ここで、身体の一部が消えた人がいるという話を聞いたことはないか?」
「い、いえ…そんな話は聞いたことがありません」
「そうか…」
「突然耳が消えるだなんて…、初耳です。耳だけに…。なんちゃって♪」
田嶋はそう言ってぺろりと舌を出した。
人の気も知らないで! この野郎…、腕の一本でもへし折ってやろうか。
俺が田嶋に殴りかかろうとした、その時だった。
「峰岸さんっ、危ないっ!!」
藪内の注意で後ろを振り返ると、先ほど固定したはずの資材の一本が、俺をめがけて倒れ込んできているのが見えた。
…つづく。
←生きたウジ入りのチーズ、イタリアのサルデーニャ地方というところで「カース・マルツゥ」という名で実在するそうです。
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「…メ、メシを食わせてもらえるのか!?」
田嶋の言葉に、坂本がいち早く反応した。
「ええ、弁当と飲み物が貰えるんですよ。僕、これから貰いにいきますけど、皆さんの分も一緒に貰ってきましょうか?」
田嶋がそう言うと、メンバーは皆、目をぎらつかせて力強く頷いた。
「ただ…、食べられるかなぁ…。まあいいや、とりあえず、人数分貰ってきます」
ピッと敬礼をすると、田嶋は巨体を揺らしてドタドタと駆けて行った。
「た、助かった…。昨日から、ずっと腹が減ってたんだよ…」
坂本はそう言うと、ドタリと地面にへたりこみ、大げさに腹をさすって見せた。
慣れない肉体労働のせいだろうか。俺にもようやく空腹感がもどっていた。
坂本が座り込むと、他のメンバーもつられるように脱力し、その場に腰を下ろす。思いがけない休息の知らせに、皆、安堵の表情を浮かべている。
「お待たせしました~。弁当でございま~す」
まもなく、田嶋が弁当と飲み物を抱えて帰ってきた。
「一応貰ってきましたけど、口に合うかどうかは別問題ですからね」
田嶋は意味深な笑みを浮かべながら、折り詰めされた弁当とボトルをメンバーに手渡していく。
「多少不味くてもかまわんさ。食わせてもらえるだけでもありがたい」
坂本はそう言うと、早くよこせと言わんばかりの勢いで弁当箱を持っていった。もの凄いスピードで、ガサガサと包装紙をはぎ取る。が、その後ふたを開けたとたんに、顔を硬直させてフリーズした。
「ほらね」
田嶋が「いわんこっちゃない」とつぶやきながら苦笑いを浮かべた。
坂本が、ふたを閉めながら田嶋に向かって言う。
「これは…、口に合う合わない以前の問題だろう…」
「そうですよね」と田嶋が笑う。
二人の意味不明の会話を聞いていたら、続けて藪内が「うげぇ…」と漏らした。
なんなんだ、一体。
「田嶋さん…、これ、マジっすか…」藪内が頬をひきつかせながら田嶋に目を向ける。
「ええ。マジです」
「た、田嶋さんは…、これ、食えるんですか?」
「ええ。慣れました」
「マジっすか…」
「マジです」
自分の弁当を開けると、一連の会話の謎は解けた。
ぱっと見は確かに弁当らしくは見えるのだが…、その箱の中にあるのは、確かに虫だった。
ひじきの煮物みたいに見えるそれは、ムカデの様な何か。エビチリの様に見えるそれも、カブトムシの幼虫のような何か。ご飯の様に盛られた白い部分は、ウジ虫だろうか。それらの影からちらりと見える添えられた緑の葉も、こうして虫と一緒に並べられると、別な意味のものに見えてくる。
「やっぱり、食えませんか?食べないなら、僕、貰いますけど」
メンバーの狼狽をよそに、田嶋はモシャモシャと自分の弁当を頬張っていた。
その様子を見て、白井が吐き気を催している。
「よく食えるな……」
坂本がそう言うと、田嶋が虫を頬張りながら答えた。
「僕も、ムシャムシャ…、最初はさすがに食えませんでしたけど…、ムシャムシャ…、結局、空腹には勝てなくて。ゴクッ、確かに、いまだ抵抗はありますけど、食えるようにはなりましたよ」
「毎日…、こんな食事なのか?」と、坂本が不安げに尋ねる。
「ええ。メニューは日替わりで違いますけど、結局、どれもこれも虫です」
「マジかよ…」そう言って藪内がうなだれていると、田嶋は続けて話し出した。
「でも…、モグモグ…、考えてみれば、虫を食うってこと、あるじゃないですか。クチャクチャ…、例えば…『はちのこ』とか『イナゴ』とか。カタツムリは…あれは虫かな?」
「いや、そうは言うが、これはその…ウジとか、そういうものにしか見えんのだが…」
坂本がそう言うと、「でも…、随分前に聞いた話ですけどね、イタリアのなんとかっていう地方には、ウジの入ったチーズがあるらしいですよ。それは、生で食うらしいですから、それに比べたらまだいいんじゃないですか?一応、どれも調理されてるし」と田嶋が答えたが、その言葉に納得して、弁当を食べ出すものはいなかった。
その後、田嶋が二人前の弁当を平らげて食事は終了。坂本は最後まで果敢にチャレンジしようとしていたが、結局、その弁当を口にすることはなかった。田嶋以外は皆、ボトルに入った飲料だけを胃に流し込み、空腹をごまかしている。場に沈黙とため息が流れた。
「田嶋、休み時間のうちに聞きたい事があるんだが…」
こいつに質問をするのも癪だったが、俺は、どうしても聞いておきたいことがあった。
「え?……この後の、作業内容ですか?」
「いや、そうじゃない。……この世界の事を教えてくれないか」
「はい?」
「ここは、俺たちが生きていた世界と、どういう違いがある?」
「え?」
「この世界は、人間界とどう違うんだ?」
「え?どういうことですか?」
「……実は、耳がなくなったんだ」
そう言って俺はヘルメットを取り、田嶋に顔の左側を見せた。
「み、耳、ですか?」
「ここに来て、突然なくなったんだ。なぜだ?」
「な、なぜって聞かれても…。僕にはさっぱり…」
「ここで、身体の一部が消えた人がいるという話を聞いたことはないか?」
「い、いえ…そんな話は聞いたことがありません」
「そうか…」
「突然耳が消えるだなんて…、初耳です。耳だけに…。なんちゃって♪」
田嶋はそう言ってぺろりと舌を出した。
人の気も知らないで! この野郎…、腕の一本でもへし折ってやろうか。
俺が田嶋に殴りかかろうとした、その時だった。
「峰岸さんっ、危ないっ!!」
藪内の注意で後ろを振り返ると、先ほど固定したはずの資材の一本が、俺をめがけて倒れ込んできているのが見えた。
…つづく。
←生きたウジ入りのチーズ、イタリアのサルデーニャ地方というところで「カース・マルツゥ」という名で実在するそうです。
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