リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

まだもう少し弦をめぐる状況

2021年04月15日 12時32分17秒 | 音楽系
どうですか?1990年代頃まではどの演奏家も大体ピラミッドなどの合成樹脂弦とバスは金属巻き線で決まりでしたが、最近は前述のようにまさに「戦国時代」でしょ?どう選択したらいいのかがよくわからなくなってきた感じですが、各演奏家の弦選択からは次のようなことが浮かび上がってきます。


(1)ガット弦はライブでは調弦に時間がかかりすぎるので使いにくい。
(2)合成樹脂弦はプロがライブや録音にも使うくらいだから弾き方次第ではいい音がする。
(3)合成樹脂弦であってもバス用の金属巻き弦の性能(音色、音の持続時間)には満足できない。


(1)に関しては、私としては細い弦の耐久性の問題もあげておきたいと思います。ガット弦を使った楽器でのライブを何回か聞いたことがありますが、いずれも調弦は全くあってない状態の演奏を余儀なくされています。そんな演奏を聴いても、ああやっぱりガット弦を使ったリュート演奏はいいものだと陶酔する聴衆がいるとしたら彼らは「ガット弦幻想」に陶酔しているだけで、音楽は聴いていないのかも知れません。

(2)合成樹脂弦は言われるほど性能は悪くありません。実際多くのプロがきれいな音でライブや録音をしています。ガット弦は使わないベテランプロBの録音を、ガット弦を使っているので美しい音だと信じていた方もいましたが、要は弾き方次第。ただ若手プロJ のところで書きました「ガット弦信者」みたいなアマチュアの方がいるのは事実です。合成樹脂弦ではまったく音がよくないとプロに対しても仰ったりしてとても頑な方たちで、もうほとんど信仰に近い感じもします。そもそも立場が違うプロにそんなことを仰ってはいけません。ガット弦を使っていても弾き方やメンテ次第ではいくらでも魅力のない音になります。

(3)先に挙げた10人のプロのうち7人が何らかの形でバスの金属巻き弦の代替になる弦を模索しています。金属巻き弦は音色がギラついているし、音の持続時間(減衰時間)がプレーン弦の3倍くらいありますから、バロックリュートで使う場合は不満が出てきます。ただその対処法は様々です。ガット系の弦(ガムート社のギンプ弦、ピストイ弦など)を使ったり、一旦それらを使うも満足できずに別の選択をしたり、金属巻き弦を使い古すとか油処理をしたり、音の減衰時間が短い合成樹脂(サバレス社のカーボン弦、アキラ社CD弦)を使ったり、などに分かれます。ちなみにガムート社のピストイ弦はヒストリカルな弦ではありません。同社のHPには「The Pistoy string is a unique development of Daniel Larson at Gamut Strings.」と書かれています。一方同社のギンプ弦はヒストリカルな文献的根拠はあるようですが、結果が満足すべきものではなかったのでピストイ弦開発に至ったものと思われます、多分。

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5 コメント

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Unknown (やまねこ)
2021-04-15 16:33:15
とても参考となる先生のご意見です。
特に、(1)に分類される方々。
私も表だっては会の演奏仲間にはっきり言いませんが、内心は総ガット憧れ派かもしれません・・・・。
その影響は、ここでは詳細にしませんが、某奏者の方の影響があります。実際に会ってお話ししたこともあります。
人それぞれ思うこと、信念もあることであり、やはりここでは批評するのはしませんが、
あくまで私の個人の思いですが、人前で聴衆を相手に演奏を聴かせる目的(金銭を取る、取らないは問わず)において、
使用する楽器、張る弦、奏者という3つのファクターがある場合、お客さんは演奏に何を求めているか、何を重視するのかは大事な点だと思うのです。
仮に、奏者がオリジナルリュートの所有者であれば、その歴史的な音を聴いてみたいという思いが強いでしょうし(それなれば弦もガット弦が適切か)、リュート音楽さえ聴ければいいというだけ、有名な奏者の顔を拝見して音楽を聴きたいだけの思いが強いなど、いろいろでしょう。そういった様々な気持ちを持つ面々のお客さんが集まる演奏会で、奏者は何を重視するかでしょう。
結局、人それぞれなんだということだと思いました。
 400年前、コンサートという概念も無い頃のリュートを弾く人は、調弦の時間、その辛さも我慢しながらも曲集を弾いて楽しんでいたことでしょう。チューニングマシンさえ無い時代の、正確無比とは言い難い耳だけが頼りの時代、その頃の生活感に思いを馳せながら、オリジナル、総ガットで当時の音楽を再現することこそ本物だと、情熱を燃やし、信奉する熱心な愛好家さんの気持ちも理解できます。
現代の職業演奏家さんの苦労もある気持ちもわかります。
結局、何を重視するかの価値観かもしれません。深いです。
(偉そうなわかったようなコメ、失礼いたしました。)
re (nakagawa)
2021-04-15 17:38:32
チューニングマシンを使って弦を合わせるより耳で合わせた方が絶対に正確で早いです。理由はとても明確です。それはチューニングマシンが直接ペグを回してくれないからです。

昔の優れたリュート奏者はとても素早くかつ正確に調弦していたはずです。昔の人を低く見てはいけません。もちろん昔も耳のよくない人がいたのは、現代と変わりません。そういう人はマッテゾンの餌食になります。「80年生きたリュート奏者は60年は調弦していただろう」って。
Unknown (やまねこ)
2021-04-15 18:29:53
そうですね!確かにそうです。
現代のプロの先生も、マシンを使わず、耳で聴いてササっと調弦されてました。
私がずっと前に参加した講習会で、有名な演奏家の方は、私のリュートを手に取るやすぐにビシっと1発で!しかもバロックリュートの複弦を調弦してしまいました。あまりに狂いが我慢ならなかったかなと焦りましたけども。
それを考えますと、当時の優れたリュート奏者は、392Hzとか、その辺の加減はわかりませんが、完全なるニ短調調弦とかこなしていたのだと思えますね。
マッテゾンの餌食になった人というのは、
ある意味無頓着な正確でない耳のよくない人だったのですね。
私はリュート弾き全般に言える格言のようなものだったのかと思っていました。

つまり、ガット弦の狂いは当時もさっと調弦できるにしても、あまりの狂い、寿命の短さに耐えながらも仕方なく、使わざるを得ない代物だったということなのでしょうか。ガットの音といえど、当時はそれしか存在しなかった故の妥協以外の何物でもないと。
もし、当時にナイルガットや巻き弦の優秀な音程の弦が存在したなら、みな喜んで使用したのでしょうか。
 複雑な思いもありあすが、バロックリュートの構造にしても、13コースはガット弦だからこそ、なんとか持ちこたえてるが、ナイロン、巻き弦の現代のものでは、高い張力の長年の変形を起こす結果というのも功罪でしょうか。
難しいものです。
re (nakagawa)
2021-04-15 22:29:02
ヨハン・マッテゾンの記述に関してヴァイスが書簡を彼に送っています。とても興味深い内容ですので、新たにエントリーを起こしてみたいと思います。あといくつか確認事項を以下に書いてみます。

当時のガット弦は妥協の産物ではない。長い年月をかけて改良されてきたもので、優れた弦があった。

ガット弦は湿度に弱いし、細い弦は切れやすいのは昔も同じだが、少なくとも「仕事」に使えるものではあった。細い弦でも1日や2日で切れるものではなかったということである。かといって1カ月以上もつものでもない。

ガット弦だから楽器が持ちこたえ、合成樹脂弦だから楽器に負担がかかるというのは間違い。この点で問題となるのは弦の張力であって素材ではない。

以上です。
Unknown (やまねこ)
2021-04-16 19:13:03
コメントありがとうございます。
見識を新にしました。
もっと勉強したいです。
さらにお願いいたします。

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